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2012年国際協同組合年に向けて 協同組合が創る社会を

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協同組合への理解を広める  冨士重夫・JA全中専務――田代洋一・大妻女子大学教授

・与野党で一体で政策を
・意図的な議論には反論する
・日本社会を支える協同組合
・JAは農業支援に一層力を

 行政刷新会議の規制・制度改革分科会は農協に対する独禁法適用除外の見直しを検討事項にしている。JAグループはこれに対し協同組合への無理解があるとして反論をしてきたが、同分科会が検討事項としているものには1人1票制の見直しなど協同組合の原則に関わる問題もある。冨士専務は総合農協が日本の農業と地域社会を支えている役割について理解を広げる活動も大切になると語る。JAグループの政策提言の実現にとっても、それは重要な取り組みだ。

地域住民に果たす
JAの役割も大切に

 

◆与野党で一体で政策を


 田代 さて、どう政策提言の実現をはかっていくかが今後の課題だと思いますが、その点についてはいかがお考えですか。
冨士重夫・JA全中専務 冨士 政府・民主党と意見交換がうまくいっていないのは事実です。
 政策決定システムが政治主導だということで、脱官僚、脱団体を民主党政権は進めてきました。菅内閣では党に政策調査会を復活させるということですが、一時は政調も廃止したわけですから。それで政党に働きかけるということができず、一方で政務3役とも意見交換できるかといえばそれもできない。われわれはまだ正式には農水大臣にも会っていませんから。
 そこが菅内閣になってどう変わっていくのかという問題はありますが、いずれにしても自民党政権時代のように与党に働きかけていれば、政策への反映が7〜8割は実現できたということには当然ならなくなっている。
 政策討論集会を開催して思うのも、やはりあらゆる政党に対して働きかけ、各政党のコンセンサスを得て与野党一緒になって農業政策をつくっていくことが大事ではないかということです。与党と野党で政策が大きく違って政権交代のたびに農業政策が根本から変わるといったことはおかしいですからね。あらゆる政党に、われわれとしての考え方や現場の問題を政策提案していくということが重要だと考えています。
 それから国民理解という意味では、マスコミ、生協などの団体、財界などに徹底して説明して理解を求めていくということですね。
 田代 政党もさることながら広く国民に訴えて国民的な理解を背景に実現を要求していくということですね。

 


◆意図的な議論には反論する

 

田代洋一・大妻女子大学教授 田代 ただ、JAに対する一種の兵糧攻めといいますか、戸別所得補償も国と農家を直結させるということが強調されていますね。農家に直接交付するというのは前政権でもそうだったわけですが。また、郵政改革法案での郵貯限度額の引き上げなどもあり、いろいろなかたちでJAに影響があると思いますがどうお考えになっていますか。
 冨士 根本的には食管法から食糧法に変わったことに代表されるように、制度で担保されているJAという存在ではなくなっているわけですね。選択される存在というか、補助事業にしても他の機関と同様に扱われ、そのなかからJAが選択されるという流れになってきました。
 ところが、政権が代わってから意図的に、国が直接個々の農家に、という点を強調していると思います。モデル対策の加入申請にしても、実態としては地域水田協議会がまとめているわけですが、制度説明の資料ではそのルートの扱いは極めて小さい。
 モデル対策の加入申請状況は5月末で50万戸程度で、ほとんどはこれから地域水田協でJAが中心になって配分調整や農地利用調整なども実施して加入申請をしていくわけです。またJAが役割を果たさざるを得ないのが地域農業の実態です。
 田代 JAを特別扱いするよう求めているわけではないということだと思いますが、新政権は地域主権と言うわりには地域の実態をあまり見ていないと私も思います。

 


◆日本社会を支える協同組合

 

 田代 これに関連する問題として、行政刷新会議の規制・制度改革分科会の議論があります。とくに農協の独禁法の適用除外の見直しの問題ですが、22年度中に連合会を含めた実態の把握と検証を行うということですね。そこは菅内閣になって変化があるのかどうか。私は適用除外を見直すのは、国際的にも、ほかの協同組合との関係からしても不可能だとは思いますが、あまり甘く考えるわけにはいかないとも思います。
 冨士 政府の規制・制度改革の議論には2つほど問題があります。
 1つは協同組合に対する無理解という面があって、さらに政治的な意図が合わさった論議がされているということです。独禁法適用除外見直しがその例で、協同組合に対する無理解があるものだから、検討を重ねていくにつれ、独禁法適用除外全体というフレームのなかでJAについて検討してみる、というトーンに変わってきた。
 最初は連合会が扱う農薬や肥料のシェアが大きいことが問題だという言い方をしていたわけですね。個々の農家に着目して独禁法適用除外がされているのであって、それを連合会としてまとめているのに、全農のシェアが高いことが問題だというまったくの無理解があった。したがって徹底して反論したわけですが、そこは理解が進んだようです。
 この独禁法問題は世界的にも協同組合に対する扱いは共通していますから、見直しは無理だと思います。
 もう1つの問題は、一部の委員が1人1票制の見直し、信・共分離、准組合員問題など一旦整理された課題を意図的に提起し注目させたということです。ただ、分科会やワーキンググループのメンバーも7月には任期が来て交代するということです。
 田代 そのなかで国民の理解をいただくのが大変なのは准組合員の問題ではないかと思いますが。
 冨士 日本型の協同組合といいますか、わが国では総合農協が特徴ですね。職能組合と地域協同組合を併せ持つという協同組合が地域再生や農業再生のために、非常に合理的、効率的だという観点から、総合農協について徹底して説明することだと思います。准組合員制度は世界的にも珍しいといわれますが、逆にいえば日本の地域社会のなかではそれが合理的であるということの証左だと思います。これを徹底して説明していこうと。言い方をかえればこれは素晴らしい制度だということです。
 田代 兼業農家が圧倒的に多いわけですし、狭い国土で農村の混住化も進んでいるわけですから、そういう日本の特性に合わせた制度であって、ヨーロッパのように単に職能組合として整理できるものではないということですね。この点についてはJAが地域住民に果たす役割についてもぜひ強調していただきたいと思います。

 


◆JAは農業支援に一層力を

 

 田代 こういう状況のなかで、地域ぐるみ転作や集落営農の組織化、法人や担い手の育成などを進めていかなければならないわけで、JAの役割が期待されます。地域農業支援に対するJAの姿勢をお聞かせください。
 冨士 とくに土地利用型農業についてJAが果たすべき役割は大きく、水管理や農地の利用調整、作業の分担などを含めて集落、地域全体で合意形成していかなくてはなりません。経営が厳しく営農指導部門が削減されていくという実態もあるかと思いますが、今後は経済事業と一体となって担い手・農地営農センターのような形で実践する、その場合、中央会・連合会と一体となってセンターをつくっていく、といった方向で事業展開し人材も確保していく取り組みを進めようとしています。
 もうひとつは今、地域農業戦略をもう1回見直そうということです。地域のなかで、どういう作物、どういう担い手を育成していくか、農地をだれに任せていくのかも含めた取り組みを進めていかなくてはなりません。農地利用集積円滑化団体にすべてのJAが手を挙げようと提起していますが719JAのうちまだ300JAほどです。
 それから農業経営管理支援事業も進めています。農家の確定申告のお手伝いをし、記帳代行をしてそれをベースに農家の経営指導をしていくということです。今は40県にそのシステムが広がっていて、確定申告ベースでは32万経営体をサポートしています。こういうことを通じて農家の経営支援と農地の仲介をしていく。それから生産資材供給とともに営農センターでも経営をサポートしていく。そういうかたちで役割を発揮していくことがこれからますます重要になっていると思います。
 田代 今日は今後の農政とJAの課題などをお聞かせいただきましたが、生産現場においては将来を見通したぶれない農政の実現を求める声が強いです。そのような政策実現に向け、農協がリーダシップを発揮していただくことを強く期待します。ありがとうございました。

シリーズ(2)・2012年国際協同組合年に向けて 協同組合が創る社会を


インタビューを終えて

 

 小沢民主党のもと農協には逆風が吹き荒れてきたが、それは協同組合が政治から自立するチャンスでもある。もっぱら政権党との交渉で政策実現を図る手法は、既に冷戦体制の崩壊とグローバル化によって行き詰まっていたが、政権交代でとどめをさされた。これからは広く国民に訴え、国民理解を背景に公共政策としての実現を図っていく必要がある。その手始めが与野党を招いての今回の政策討論集会だった。インタビューからはこのような姿勢が鮮明に読み取れる。提案の直接支払制度はまだまだ具体性に欠けているが、まずは姿勢の変化に注目したい。
 他方では「もう一段の合併」も生きているようだが、国民、地域住民の理解を得ていくには、農協が地域において開かれた存在となり、地域農業支援システムの中軸になる必要がある。そして地域密着には支所分権が欠かせない。地域で政策実践を担う組織論の面でも農協がどこまで「脱皮」できるか引き続き注目していきたい。(田代)

【著者】第2回

(2010.06.15)