シリーズ

2012年国際協同組合年に向けて 協同組合が創る社会を

一覧に戻る

「浜」がJF―漁協―の原点  JF全漁連専務理事・山本忠夫氏に聞く

・独禁法の議論は本末転倒
・「組織の強み」をどう活かすか
・協同組合だからこそできる一丸となった水産資源管理

 わが国の漁業協同組合の組織であるJFグループは水産資源の維持・管理、販売・購買、信用・共済といった総合事業を通じて組合員の漁業経営と生活を支えるとともに、国民への安定的な水産物供給の役割を担ってきた。
 この組織の原点は「浜」。浜の主体である組合員の家族ぐるみ、地域ぐるみの「協同」がなければ日本の漁業は成り立たない。その意味で漁協は「もっとも協同組合らしい協同組合」ともいえるだろう。
 ただし、一昨年の燃油高騰に象徴されるように厳しい経営環境が長引き、多くの漁協が苦境に立たされている。
 こうしたなか昨年10月、JF全漁連は全国代表者集会で今後5年間の事業・運動の新方針を採択した。新方針では、協同組織であることの意義と役割を組合員・役職員で改めて確認し、事業課題を提起するとともに、JAグループ、生協など他の協同組織との連携も打ち出した。
 今回は新運動方針と今後のJFグループとしての課題などをJF全漁連の山本忠夫専務理事に聞いた。

協同組合なくして
日本の漁業と漁村は成り立たない

 

◆原点に立ち返る

JF全漁連専務理事・山本忠夫氏 ――全国漁協代表者集会とはどのような位置づけの集会ですか。
 JAグループと同じ3年に一度の全国大会です。集会では従来3年間の方針を決めてきましたが、今回は向こう5年間の決議としました。
 今回の柱は協同組合の原点に立ち返る、です。
 JFの原点は「浜」にあり、小規模な漁業者である組合員が主体となって相互扶助のもとに、出資、利用、参加という原則に基づいて発展してきました。今回はそういう「浜の目線」を確認し、それを消費者までつなぎ社会貢献をも深めていこうというもので、この方針のもとアクションプランを策定し実践しているところです。
 ――新運動方針の基本になった認識はどういったものですか。
 今の経済社会は、格差拡大や金融危機をきっかけとした世界的な景気悪化を受けて、市場経済主義への過度な偏重を見直す動きが強まるなかで、自主自立と相互扶助の協同組織の価値、役割が再認識される環境になってきている、ということです。われわれは協同組織の存在意義を社会にアピールする絶好のタイミングではないかと捉えています。
 そこで今一度、JFの存在意義、役割を組合員とともに確認していこうと。それらを踏まえてわれわれの組織の強みを生かせるような事業体、組織に見直していこうということを確認しました。新運動方針の名称は「JFグループ 組織・経営・事業戦略」です。


◆「組織の強み」をどう活かすか

 ――方針の具体策などポイントをお聞かせいただけますか。
 われわれの組織の強みを改めて確認するために、「協同組織のあり方とJFの将来ビジョン」を整理しました(下図)。
 そこではJFの協同組織として再認識すべき強みを4点に整理しました。
 [1]倫理的価値観を有する組織で透明性、公平性、他者への配慮などを重視していること、[2]漁業生産における絶対的な地位、[3]総合事業体という特質と水産資源を維持管理するための漁業権管理の公的役割を果たしていること、[4]国民の期待に対する安全・安心な水産物の安定供給という責務、です。
 この強みを5つの柱で発揮する将来ビジョンを策定(図参照)、具体的な実践項目を4つの重点事項として整理しました。
 その4つとは[1]組織・事業再編と人づくり、[2]経営改革に向けた取り組み、[3]事業改革へ向けた取り組み、[4]協同組織の強み発揮と漁業・漁村への貢献です。

「協同組織のあり方とJFの将来ビジョン」


◆協同組合だからこそできる一丸となった水産資源管理

 ――全漁連としては、何に取り組むのでしょうか。
 事業改革のいちばんの課題は安全・安心な水産物をいかに国民に提供できるかということですが、これは全漁連の販売事業改革として、新たなビジネスモデルを打ち出しています。
 一言でいえば「原料から販売までの一気通貫の取り組み」です。
 実はこれまでは全漁連のなかでも、原料の調達、加工、販売が各ユニット単位でばらばらに行われていました。今回はこれらを1つのラインのなかに組み込んだということです。
 これによって、消費者が日頃どういうニーズを持っているか、しっかり見据えた原料調達が可能となります。その結果、たとえば不必要な在庫を持たなくても済み、常に消費者の目線でわれわれのビジネスを組み立てられるのです。
 これを受けて各漁協では自らの浜に上がる魚種ごとに、従来の販売形態ではなく消費者に直結できるような取り引きが可能かどうか、販売戦略マップを作ってもらっており、それを各県域で積み上げ県域戦略としようとしています。
 ――単協から連合会まで大きなビジョン実現をめざすということですね。
 まさに漁業はその地域に根ざしており、本当に家族ぐるみ、地域ぐるみで漁業が発達し漁業者の経済的自立ができたのには協同組合、協同の力というのが大変大きい。
 また、原則として漁業者でなければ組合員になれないという意味では、漁協は生産者の集まりです。だからこそ一丸となった資源管理を前提とした漁業権管理ができる力も持てたと思います。
 その点で協同組合の「旗」というのは「浜」の仕事に埋め込まれていますから、当たり前になっているところがあって、漁業者にとっては協同組合、イコール我々、といった意識だと思います
 それから地域の水産加工も含めて浜の水揚げに頼っている業種もたくさんあるわけですから、地域の活性化もわれわれの仕事です。
漁業とともに、社会とともに 今回の運動方針はそういった原点を確認し、その延長線上でわれわれが取り組んでいくことがまさに他にない強みが発揮できる、とくにそういう気持ちを消費者と接するなかで社会につなげていこうということです。
 そこが今回の販売事業改革です。これまでは市場に出して終わり、でしたが、それでは今の流通では消費者の目も厳しくなっていますし、また、低価格路線のしわ寄せがどうしても生産者に来てしまう。今までのように市場に丸投げなら生産者が自立していけない。
 だから自分で獲ったものを自分の目線で販売していく取り組みを全国的に展開していこうということです。
 その点ではJAや生協とも連携を強めていきたいと考えています。具体的にはJAや生協の店舗の鮮魚コーナーの一部売り場は、われわれJFグループに任されているという自覚と責任ある取り組みを進めていこうということです。
 新運動方針では、このような他の協同組織、非営利組織などとの協同・連携も行いながら国民的な議論を展開していくことも必要だとしています。


◆独禁法の議論は本末転倒

 ――その一方、この間の政府の議論などでは独占禁止法の適用除外の見直しを検討事項とするなど、協同組合が軽視されているとも思うのですが。
 まったく同感です。独禁法適用除外見直しの議論などは、JAグループが主張しているように、もともと相互扶助の原則で組織ができた経緯からしても、それからそもそも独禁法22条(編集部注:協同組合に対して同法の適用除外を明記)がなぜできたのかということからしても、規模やシェアといった結果論で区別するというのは論外です。
 むしろ公正な競争が保たれる社会は、この22条によって実現できる、という立法趣旨からいえば、協同組合はその役割を十分果たしていると思いますから、今の論調は本末転倒だといえます。そこでわれわれもJAグループなどとともに共同して決議をしたわけです。
 ――今後の課題をお聞かせください。
 漁業資源はピーク時にくらべて半分以下に減っていますし、組合員の3分の1が65歳以上という高齢化も進んでいます。それから船齢も償却年数どころではないほど、高齢化しています。そういったことをどうやって変えていくか、これは地域の問題とも関係しますから、やはり国として基本的にこの漁業をどう考えるかということとセットにならざるを得ません。
 一昨年のような原油高騰といった問題もあり、個々の経営のがんばりには限界もあります。
 新運動方針では、われわれのみの努力では補えない恒久的な社会の実現、環境社会の実現に向けては、総合的な政策提言を行っていくとしています。
 その機能をより強化していこうと今年度から政策企画室をつくっています。たとえば、資源回復、漁業補償のあり方、燃油高騰対策、これらにともなうセーフティネットをどう作ればいいのか、といったことを提起していく努力をしていかなければならないと考えています。
 われわれは生産に根ざした、本当の担い手としての声を実現させていくのが役目だと思っていますし、一丸となって対応していく主体となり得るのが協同組合組織だと思っています。
 ぜひ、連携を、とJAグループに呼びかけたいですね。
 ――ありがとうございました。

【著者】第3回

(2010.07.01)