シリーズ

この人と語る21世紀のアグリビジネス

一覧に戻る

宮本一光

家庭園芸のリーディング・カンパニーをめざして
住友化学園芸(株)代表取締役社長 宮本一光氏

 自宅の庭や市民農園、さらにはマンションのベランダなどで花や野菜を楽しみながら栽培する家庭園芸は緩やかだが成長路線にある。住友化学園芸(株)はホームセンターなどで家庭園芸用の薬剤や肥料などを製造・販売しているトップ企業だ。昨年6月に社長に就任された宮本一光氏に同社の企業理念や家庭園芸への思いなどを聞いた。


まだまだ裾野広がる家庭園芸の世界 若い人たちの参加に大きな期待

◆社名変わっても“花柄マーク”は継続

宮本一光氏
みやもと・かずみつ
昭和23年愛媛県西予市生まれ。昭和46年神戸大学経済学部卒業 住友化学工業(現・住友化学)入社。平成15年住化武田農薬に出向。17年住化タケダ園芸(現・住友化学園芸)に出向。19年6月同社代表取締役社長に就任(同年9月住友化学を退社)

――住友化学や住化武田農薬で仕事をされてこられたわけですが、こちらの会社にはいつこられたのですか。
「平成17年に取締役として出向してきて、昨年の6月に社長に就任しました。この会社に来るまでは家庭園芸とは縁の薄い仕事だったのです」
――昨年11月に住化タケダ園芸から住友化学園芸に社名を変更されていますが、御社の沿革とこれまでの経過についてお話いただけますか。
「昭和44年に、武田園芸資材(株)として設立されましたが、創立20周年を迎えた平成元年にCIを導入して現在も使っている“花柄マーク”を制定すると同時に、社名を片仮名の“タケダ園芸”に変更しました」
「武田薬品が医薬に特化する戦略を実行する中で、平成14年11月に農薬事業を切り離し住友化学に5年後に完全移管することにし、その間の施策として住化武田農薬という会社をつくりました。それまでは当社は武田薬品の農薬部門の子会社でしたが、そのときに住化武田農薬の100%子会社になり、社名を変更したわけです。そして住友化学と武田薬品との合弁事業の5年間が経過し、住化武田農薬が住友化学に吸収合併されましたので、当社の社名も現在の“住友化学園芸”に変更したわけです」
――“花柄マーク”は継続して使っていくわけですね。
「社名は変わりましたが、消費者とのコミュニケーションの手段として継続して使っていくことにしました」

◆家庭園芸は住化にはない事業領域

――住友化学グループの中でも独自な仕事をしている会社ですね。
「家庭園芸という独自の事業領域で、消費者と直に接する事業ですから住友化学にはない事業領域です。そしていま、住友化学の農業化学部門ができるだけ、川下化といっていますが、そういう意味では私たちがその先兵役になっていると思います。
――家庭園芸とはいっても農家も対象にしているわけですね。
「基本的には一般家庭用に特化していると考えてください。ただ、殺虫剤のオルトランなどは農家でも使われており、当社の製品は200gから1.6kgであることから、農業用は3kgがありますので農家はそちらを使われていると思います」
――そうするとJAにも置いていないわけですね。
「家庭園芸用も扱っているJAグリーンさんには並んでいるかもしれませんね」
――いまは園芸ブームだといえますね。とくに定年退職した人たちを中心にして…
「当社の製品を一番使われているのは、家庭の主婦だと思います。そして団塊の世代が会社を卒業して家庭園芸をしたいという人が3割くらいはいるといわれていますね。しかし、実際には再雇用されたりしていますから、もう少し先かなと思いますね。長い目でみたら若い人たちに参加して欲しいですね。そうでないと裾野は広がりませんから…」
「レジャー白書に書かれているそうですが、年に1回でも園芸をした人は3260万人いて、映画鑑賞とか音楽鑑賞といった趣味に匹敵する数字だそうですから、年1回ではなく数回園芸をすることに私たちが普及貢献できれば、まだまだ裾野は広がるのではないかと思いますね」

◆園芸相談員を全国のHCに派遣

宮本一光氏

――原油価格などが高騰していますが、コストが上がるなどその影響はありますか。
「容器がすべて石油製品で、しかも包装が小さいわけですから、農業用の大容量よりはコストに占めるウエイトが高くなります。そこで10数年振りに一部製品の価格修正をお願いしました」
――それはどういうタイミングでするのですか。
「春のシセンター(HC)が89割ですから、ーズンに向けて新製品情報を出したり、動き出すのは前の年の10月くらいからです。当社の製品を販売しているのはホームHCでの棚割の提案を始めるのが11月くらいからで12月には終わっています。価格もそういう時点で提示するわけです」
――価格の決定は農業用価格のような指標があるのですか。
「年間通した価格ですが、指標になる価格はありません。値上げのお願いを10数年ぶりにしたということは、その間、価格が下がってきたということでもあるわけです」
――HCだと困ったときに、専門知識をもった人に相談できないということがありますね。
「当社では園芸相談員を各地のHC等に派遣しています。いま全国で100名くらいの人に働いてもらっていますので、HCで白衣を着ているひとがいたら、多分当社からの派遣です。また毎年各地で、小売店向けの講習会などを開催して新製品や虫の生態などいろいろなことをお店の人に知ってもらえるよう努力をしています」
――消費者向けには…。
「お客様相談の電話番号を各商品に記載していますが、年間1万数千件のお問合せやご質問、そしてご意見がありますね」
――HCの市場はどのくらいですか。
「全国で4000店舗、4兆円規模ではないでしょうか」
――家庭園芸の市場規模はどれくらいですか。
「正確には分かりませんが、消費者の購入ベースで種苗も含めて3500億4000億円くらいではないかと思います。薬品・肥料関係はメーカー出荷ベースで300億400億円の間だと思います」

◆人を守る『無虫空間』など充実した品揃えで

――いま力を入れている製品は何ですか。
「今シーズンから当社の新しい分野として開発したのが『無虫(むちゅう)空間』という人を守る虫よけです。殺虫・殺菌・除草というのは植物の生育を守るものですが、この『無虫空間』は園芸作業をする人にとって不快な虫が近寄らず忌避し、快適な作業空間をつくるというものです」
――殺虫剤としてオルトランとスミチオンがありますが、この使い分けは…。
「オルトラン粒剤は撒いておけば有効成分が根から吸収され、植物の体内を移行することで植物自体が殺虫効果を持ち、害虫を防除する“浸透移行性剤”です。スミチオンは害虫に直接かけるような使い方をするもので対症療法として効果を発揮します」
――害虫と病気を同時に防除する殺虫殺菌剤もありますね。
「ベニカXという殺虫殺菌剤がオルトランと並んでいま当社の一番の売れ筋ですね」
――肥料ではどうですか。
「液肥としては“花工場シリーズ”があり、粒状肥料としては“マイガーデン”シリーズがあり、新製品で各シリーズの充実を図りたいと思います。マイガーデンは投入して今年で3年目の新しい肥料です」
――マイガーデンの特長はなんですか。
「コーティング肥料で、溶出速度の異なる肥料をブレンドしていますから、ばらまくだけで施肥直後から安定した効果が持続します。また、土に活力を与える腐植酸を配合していることから、肥料やりと同時に土づくりができるというのが最大の特長ですね。コーティング肥料ですから、濃度障害など起こさず安心して使えると思います」
――今日は貴重なお話をありがとうございました。

 

インタビューを終えて  
宮本社長は、JAと接触するキャリアーは2度あったという。1度目は住友化学購買担当だった時代に全農からリン鉱石などの肥料原料を調達した。2度目は、大阪で肥料の県担当の時代である。その経験から言えば、JAは、生活を目的とした専業農家を相手のビジネスだから厳しい。住友化学園芸(株)は、一般家庭園芸、いわば、趣味の世界の事業で異なった厳しさがある。
ホームセンターの棚割りで、あらゆる商品の品揃えをできるのは住友化学園芸(株)だけと胸を張る。お客様相談(電話03‐3270‐9695)には年間1万数千件の問い合わせがある。団塊の世代は土地さえ与えられれば、野菜や花つくりをやりたい人はいっぱいいる。が、3040代の若い人にも家庭園芸に興味を持ってもらいたい。心のゆとりと夢を与える。宮本さんの住まいは千葉県船橋市。2人娘は嫁がれ、お孫さんは男の子3人。この4月、宮本さんの還暦に2家族が押しかけにぎやかにお祝いをしてくれた。レストランの費用は親もちだったと苦笑い。(坂田)
【著者】インタビュアー坂田正通(本紙論説委員)

(2008.04.24)