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この人と語る21世紀のアグリビジネス

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微粉化の技術を開発 乾めんでは独創性に国際的評価も  星野物産株式会社代表取締役社長 星野陽司氏

・こだわりの味
・添加物使わず

 星野物産は小麦粉製粉とめんづくりで長い技術の蓄積を持つ。創業者は現社長の祖父。氏は商品開発に精力的だ。乾めんではモンドセレクションの最高金賞を3年連続で獲得し、その前にはロングライフパンでも受賞している。決算期は5月末で今期は前年を上回る売上げを見込む。話題は米粉とかロングライフパンなどへと次々に展開した。

星野物産株式会社代表取締役社長 星野陽司氏 ――会社の生い立ちをお聞かせ下さい。
 「米麦・肥料・薪炭商でしたが、祖父がこれを株式会社化したのが1937年、製粉を事業の主力にしたのが戦後の1948年でその年に父が社長に就任しています」
 ――現社長は、その翌年のお生まれですね。
 「私は会社の中で生まれたのです。というのは当時は1階が事務所、2階が社長の住居と社員寮だったからで、私は社員たちと一緒に食事をしたり、お風呂に入ったりして育ちました。生まれると同時に入社したようなもので勤続60年となります」(笑い)
 ――製粉を始めた背景とかいきさつは?
 「戦中戦後の食糧統制が解除されて全国各地に製粉業が生まれたこと、群馬が有数の小麦生産地であり、また東京と結ぶ東武鉄道を活用できる立地にあったことなどがあります。日清さんなど製粉大手も、今は港湾部へ移転しましたが、当初は大手各社ともこの近在に工場を持っていました」
 ――製粉とともに、めん類製造にも力を入れてきましたね。
 「首都圏から少し離れた立地ですし、小麦粉の販売だけでは大手4社との競争は無理ですから、食品加工にも力をいれ、製粉業の基盤づくりをしました」
 「製粉だけなら生き残れていなかっただろうと思います。2次加工品と組み合わせた営業の中でユーザーニーズに応えてきたわけです」
 ――小麦粉にはどんな特徴商品がありますか。
 「近年は北関東産の小麦粉をもう1度加工した薄力粉が、国産ならではの味としっとり感を表現できると大手食品メーカーや老舗・有名店などから好評です。国産小麦はうどんや饅頭など用途が限られていたのをケーキ類にも使えるよう製粉加工を工夫したのです」
 ――米粉のほうはどうですか。
 「米粉やふすま(ブラン)を小麦粉並みに細かく微粉化する技術を開発しました。米は麦よりも硬く20ミクロン以下の微粉化はできなかったのですが、当社は長年のノウハウを活かして、臼で挽く原理を基本にした方式で微粉化し、食品加工適性を高めました」
 ――用途が広まったわけですね。
 「いろんな食品に使われ始め、当社としてもパン製造部門がいち早く導入し、しっとり感、もちもち感のあるパンづくりに成功しており、また、めんにも導入しました」
 「一方、牛の餌になっていたふすまも、食物繊維とかミネラルなど貴重な機能性物質が豊富に含まれているため、微粉化しブランパウダーとして製品化し食品用に営業を開始しました」

◆こだわりの味

 「大豆の微粉化でも、おからの出ない豆腐とか豆腐ヨーグルトなど用途開発が盛んです」
 ――めん類についてはどうですか。77年発売の『手振りうどん』は長いヒット商品ですが。
 「乾めんが主体で、うどん、ひやむぎ・そうめん、そば、中華めんを作っていますが、基本は手振りうどんで、手打ちうどんと同じような“つるつる、しこしこ”といった味を目指しています」
 「今1つは『もみ切り打ち』製めんという特徴があります。普通のめんと違い、麺を揉(も)むことによって、麺に凹凸をつけ、凹の部分で“つゆがらみ”がよくなり、またゆでたあとの延びが遅くなります。また早くゆで上がるようにもなります」
 「そうした味へのこだわりが評価され、『上州地粉手振りうどん』と『信州田舎そば小諸七兵衛』は2007年のモンドセレクション(国際的な食品コンクール)で、また他のめん商品も08年、09年と続いて合計7種類が受賞しています」
 ――星野グループには製品別にそれぞれ会社・工場があるのですか。
 「はい、そばは長野県小諸市に設立した会社で作り、雑味のない味と挽き立ての香りがセールスポイントです。群馬にはゆでめんの会社があります」
 「また群馬県酒造組合から受託して酒米専門の精米をしているグループ会社もあり、工場は仕込み時期の半年間だけ操業しています。県内の酒造元の精米工場を集約してできた会社です」

◆添加物使わず

 ――パンについては?
 「栃木県足利市の工場(本社は東京)で製造しており、保存性50日間のロングライフパンを特徴商品としています。これの開発で北海道から沖縄までの広域営業が可能になりました」
 ――添加物で長持ちさせるのですか。
 「添加物は一切使いません。アルコール蒸散剤を入れ、パン自身の水分活性と焼き方の工夫という技術の組み合わせで保存性を高めました。このパンはいち早く06年のモンドセレクションで受賞しています」
 ――御社の製品は全農やJA、Aコープにも出回っています。米粉をパンやめんに入れるのは全農や農水省から勧められたのですか。
 「最初はそうでしたが、やがて米粉の良さを活かすことに気付き、試行錯誤をしながら最適の配合割合を見い出しながら商品開発を進めました」
 「米粉は天ぷら粉にも良く、油の吸いが少なくて揚げた後、カラリとして低カロリーです」
 「ギョーザの皮や、焼きものなんかにも向いており、外がパリっとして中はもちもち感という面白い味が表現できます。あとはカレーに小麦粉でなく米粉を入れると、こってりしたルーができるとか」
 ――問題は価格です。
 「新規需要米とかいった形で国の助成金がつき、米粉の原料米は低価格で手当てできます。それでも米粉は小麦粉の約3倍になりますから、でき上がった商品に付加価値がつかないといけません。また混入率のバランスをとることも大事です」
 では最後に日本の食料自給率についてひとことコメントを。
 「自給率を50%に上げるため水田裏作で麦を180万tに上げるという政策が出ていますが、誰が作るのか。あと5年もすれば生産者は半分くらいに減ってしまう恐れがあります。60〜70歳の人に1年中農作業をしろというのは酷です」
 「やはり若い世代がきちんと農業ができるような長期のしっかりした政策を国が打ち出さないといけません」

【略歴】
(ほしの・ようじ)
1949年生まれ。1972年新潟大学農学部農芸化学科卒業、1976年星野物産取締役、1988年代表取締役専務、1991年代表取締役社長。

星野物産(株)(群馬県みどり市大間々町)▽資本金2億9500万円▽1902年創業、1937年株式会社創立▽従業員148人▽年間生産量は小麦粉製粉2万5000t、乾めん6000万食▽グループ会社10社。うち4社が食品加工。


インタビューを終えて


 経営は攻めです。守りではうちの会社はやられてしまう。銀のスプーンをくわえ、星野物産(株)3代目社長を引き継いだと思いきや、苦労を経た起業家をほうふつとさせる。1階が工場・事務所2階が自宅だった頃、生まれてすぐ入社したようなものですとユウモアたっぷりに話す。国産米粉を義理で使っていた時代から、今では20%米粉を混ぜた方がパンもうどんもおいしい、その技術を開発した。Aコープチェーン店に製品を卸している。難しい課題を明るく、展望のある事業に仕立てる。
 10年前、実父の星野清助相談役を本紙「21世紀アグリビジネス」にご登場いただいたことがある。現在96歳、一人で群馬から東京へ出かけるほど壮健とお聞きし嬉しくなった。陽司社長のお子さんは4人、皆さん社会人、お孫さんもいる。
 会社の5月末決算見通しは好調という。継続は力なりを公私ともに実践されている。
(坂田)

【著者】インタビュアー坂田正通(本紙論説委員)
           星野物産株式会社代表取締役社長

(2010.05.10)