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美味しい農産物と土づくり――土壌診断にもとづく土づくりと効率的な施肥

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第1回 土壌診断の積極的活用で「売れる農産物」づくりを

診断結果を読めない生産者とJA営農指導員
JAらしい仕事「土づくり」を指導できる人材育成を

 JA全農は肥料価格の高騰を受けて「施肥コスト抑制の取組み」の一環として、土壌診断にもとづく適正施肥に取り組んでいる。JAグループが「土づくり運動」を組織的に展開したのは昭和45年からだから、来年で40周年となる。土壌診断事業は昭和27年の耕土培養法公布以降で、当時の全購連が「全購連くみあい検定器」を普及した昭和30年代に遡る。その後、全農型土壌分析器の普及や施肥診断技術者の育成に取り組んできているが、これを機会に、改めて土壌診断の役割について考えてみたい。

 ここでは、適切な施肥管理に加えて、生産性向上、高品質農産物の生産のための土づくりにも焦点を合わせて、土づくりの考え方やポイント、土壌診断のすすめ方、そして分析結果を土づくりや施肥にどのように反映させるかなど、「土壌診断にもとづく土づくりと効率的な施肥」の実際について、筆者の考え方を連載で解説していく。

診断結果を読めない生産者とJA営農指導員

 平成17年に実施した(財)肥料経済研究所の「担い手農家における農業資材のコスト低減の取組実態と意向に関する調査」によると、担い手農家が今後取り組みたい施肥技術等の問いに対して、84%が「土壌診断」と回答しており関心が高いことがうかがえる。
 筆者は過去に現場での土壌診断や研修会に出かけたことがあるが、篤農家は作物の栽培管理に熟知しているものの、自分の圃場の土壌物理化学性がどうなっているかについては意外に分かっていないことが多いと感じている。このことから、この意向調査の結果は、生産者が土壌(地力)の状態を懸念していることのあらわれであり、JAの土壌診断事業に対する期待でもあると思っている。
 しかし、近年の現場における土壌診断の実施状況をみると、一部のJAグループを除いてその結果が十分活用されているとはいえない。むしろJAの合併、全農の統合を機に地域ごとの土壌診断事業への取り組みに対する格差が大きくなったように思える。後述のように堆肥や土づくり肥料の大幅な減少をみると、「土壌診断にもとづく健康な土づくりや施肥改善」への取り組みが希薄になっていることは否めない。
 筆者は最近もJAの作物部会や認定農業者を対象にした土づくりや土壌診断の研修会に呼ばれることがあるが、生産者は土壌診断結果に非常に関心が高い反面、コンピュターで計算された診断書が届いても、分析項目や数値を見て内容が解る人は少ないこと、また、JA職員も土壌、施肥、肥料に対する知識が不足しているためか、分析結果から診断処方箋を作成できる指導員が少なくなっていることを感じさせられる。このことは、の農林水産省の資料からも伺える。

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JAらしい仕事「土づくり」を指導できる人材育成を

 営農指導体制の弱体化がいわれているが、「土壌診断」「作物栄養診断」「土づくり」「施肥指導」が営農指導の基本のひとつであり、土壌診断体制の強化を機会に「JAらしい仕事」として、生産者に的確に指導できる人材の育成をはかりたいものである。とりわけ現場に積極的に入ることを目的に全農がすすめているTACの活動には極めて有効なツールであり大いに活用すべきと考えている。
 食料自給率の向上、食の安全や品質重視、国産農産物志向など、国内農業に対する国民の関心が高くなっており、ブランド化や地元志向(地産地消)の流れに乗って、「安全」「高品質」「美味しい」「新鮮」をキーワードとした「売れる農産物」の生産への対応がますます重要となっているが、これに土壌診断を積極的に活用することを強調したい。
 そのためには、土壌診断を生産場面で「土づくりや適正な施肥管理」の取り組みに活用するだけでなく、農産物の差異化をはかるため、生産者側から流通業者や消費者に対して発信する産地や営農情報として活用すべきだと考えている。

※吉田吉明氏の姓「吉」の字は、常用漢字で掲載しています。

【著者】吉田吉明
           コープケミカル(株)参与(技術士)

(2009.04.22)