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美味しい農産物と土づくり――土壌診断にもとづく土づくりと効率的な施肥

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第10回 露地野菜・畑作の土づくり(6) 土壌の化学性の改良のポイント

塩基飽和度からみる交換性塩基の数値の見方のポイント
多く作物は塩基飽和度を80%程度を目安に改良すればよい

 国内の土壌診断は化学性の診断が中心に行われており、野菜、畑土壌ではpH、EC、リン酸、交換性石灰、苦土、加里の塩基の改良が主なものである。特に塩基の改良にあたっては、陽イオン交換容量(CEC)は重要な項目であり、診断を行ううえでは欠かすことができない。しかし、生産者や土壌診断を担当している初任者もよく理解されていないことから、各塩基の改良の基本であるため敢えて説明することとしたい。

塩基飽和度からみる交換性塩基の数値の見方のポイント

図1 土壌の負荷電と陽イオンの保存 図1は、土壌のCECと塩基の関係を模式的に示したものである。CECが20me/乾土100gの場合だが、この例では、マイナスの手が20個あると考え、そのうち石灰が10個、苦土が4個、加里が2個占めており、残りが水素イオン他である。マイナスの手1個(1me)は、石灰(CaO)は28mg、苦土(MgO)は20mg、加里(K2O)は47mgに相当するので、この図の場合は、交換性石灰は28mg×10meで280mgあることになる。同様に苦土は80mg(20mg×4me)、加里は94mg(47mg×2me)となる。
 また、各塩基の飽和度は全体のマイナスの手のうち何%占めているかを示すもので、この場合、20個の手のうち石灰が10個占めていることから石灰飽和度は50%、以下同様に苦土飽和度20%、加里飽和度10%となり、その合計が塩基飽和度で80%となる。逆に、分析値から塩基飽和度を求める場合は、交換性石灰の分析値を28mgで割れば手の数がわかり、土壌の手の数全体(CEC)で割れば飽和度がわかることになる。
 さらに、塩基間のバランスも作物の生育に影響を与えるため診断上重要である。塩基バランスは各飽和度の比を計算することで簡単にわかる。この例では石灰・苦土比が50÷20で2.5、苦土・加里比は20÷10で2・0となる。通常、石灰・苦土比は2〜8、苦土・加里比は2〜6が適正範囲で、それぞれ4〜5、3〜4を目標とする。
図2 土壌CEOとカルシウム(左)、マグネシウム、カリウム(右)含有量の関係 以上のことをまとめると、塩基の改良目標値は、塩基飽和度の目標を決め、石灰・苦土比、苦土・加里比から配分を決め、これによって、石灰、苦土、加里の改良目標値が設定されることになる。
 ここで重要なのは、図2のように飽和度の改良目標値(%)が同じであっても、CECが変われば各塩基の目標値(mg)が変わり、改良する資材の量も変わるということである。CECが小さい砂質土壌より、粘土や腐植が多いCECの大きい土壌は、CECが大きい分だけ改良するには多くの肥料の施用が必要になる。


多く作物は塩基飽和度を80%程度を目安に改良すればよい

 露地栽培の場合、塩基飽和度と土壌のpHの関係は基本的には比例するため、pHからおおよその塩基飽和度は推定できる。しかし、各塩基の量、塩基間のバランスは判断できないため、詳しく診断するには交換性塩基を測定する必要がある。およそ石灰飽和度60〜65%、塩基飽和度80%を目標に石灰質肥料や苦土肥料を施用することで、pHの目標値である6.0〜6.5に改良されることになる。塩基飽和度の目標値は作物毎によって異なるが、前回「作物の生育好適pHの範囲」を示したように、酸性を好む又は強い作物は目標とする塩基飽和度は小さくなるが、ほとんどの作物は好適範囲が広いため、80%前後を目標にすればよい。
 塩基の改良については、飽和度の改良目標値から処方せんを作成する方法が好ましいが、土壌診断票の目標値に「交換性石灰300mg/乾土100g」のように飽和度表示していないケースがある。これはCECの分析をしていない場合であるが、土壌の種類ごとにCECを考慮して設定されているので、多少大まかであるが基本的な考え方は同じである。
 ところで、土壌分析値を圃場10a当たりに換算する場合は、10a当たりの圃場の土の量は深さ10cm、仮比重1で計算すると100トンとなり、これは土壌分析値の乾土100g当たりのmgの数値は10a当たりkgに相当する。すなわち、交換性石灰280mg/乾土100gは石灰成分量で280kg/10aに相当し、処方せんを書く場合はそのまま連動して使えるわけで、最後に出てきた肥料の施用量に土の仮比重と深さを換算すれば、実際の圃場に施用する資材量が算出できる。
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※吉田吉明氏の姓「吉」の字は、常用漢字で掲載しています。

【著者】吉田吉明
           コープケミカル(株)参与 技術士

(2010.03.18)