シリーズ

種苗開発の裏話

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第1話 種苗開発と育種

園芸を支えるものの1つに種苗があるが、ここに来て大切な『育種』に新たな概念が生まれつつある。そこで、本紙では園芸の新たな広がりを願いシリーズ『種苗開発の裏話』を企画した。

shir320s09041001.jpg 今日、種苗を開発するためには多様な関連技術が必要ですが、『育種』そのものが何と言っても大きな役割を果たします。『育種』は『品種改良』とも言われ、その言葉通り既存品種や従来系統を用い、同一種内か近縁の野生種の範囲で交配・改良を試みるのが一般的です。しかし、近年、近縁野生種にとどまらず通常の交配では不可能な遠縁の生物種の持つ特性を利用することも技術的には十分可能な状況になっています。おそらく、この流れが逆戻りすることはないでしょう。
 だとすると、今後は『既存の品種を一歩一歩徐々に改良していく』というニュアンスを持つ『品種改良』より、『かつてない新しい種(しゅ)を作り出していく』という意味合いの強い『育種』という言葉を用いる方がより時代に合うことになるでしょう。品種を作り出す行為はもともとそこに何らかの意志と方向性があって始まります。このことからもより積極的な意味合いを持つ『育種』の方が適しています。『育種』という言葉は、1903年に農学者横井時敬により初めて用いられたとされ、100年以上経った今の時代にこそ新鮮に響きます。
 多くの園芸植物は、19世紀に交配育種が盛んになりますが、科学的な育種と言えるものは1900年にメンデルの遺伝の法則の再発見がなされてからで、F1育種となると1950年頃に本格化し、タキイもその一翼を担うことになります。多くの野菜や花はこの頃から今の時代に引き継がれる歴史的品種が次々と生み出されていきました。
 F1品種は、高品質で揃いが良い、多収である等のメリットがありますが、多様性が求められる現代において、このことを踏まえて品種開発の狙い目をどこにおくかは企業の存亡にも関わる重要事項でもあります。品種が成立する社会的環境や嗜好性は、めまぐるしく変り近年は気候環境さえ変わり行くため、何十年も第一線で使われ続ける品種は極稀です。品種の寿命は短くなる傾向にあり、一方で育種は際限なく続くことになります。
 次回は、野菜と花の開発の違いをみます。

羽毛田智明氏【著者略歴】
1956年 長野県生まれ
1978年 千葉大学園芸学部卒業
同 年 タキイ種苗(株)入社研究農場、花卉の育種を担当
1998?2001年 アメリカンタキイに赴任
2007年 現在の次長職に
主な育種
ヒマワリ「サンリッチ」シリーズ、パンジー「ナチュレ」シリーズ、ビオラ「ビビ」シリーズ、デルフィニウム「オーロラ」シリーズ その他多数。

【著者】羽毛田 智明
           タキイ種苗(株)研究農場次長

(2009.04.10)