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種苗開発の裏話

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第2話 野菜開発・花開発

 食べ物であるかないかが野菜と花卉の最大の相違点ですが、快(ここちよ)さを満たし...

ユーストマ 雪てまり 食べ物であるかないかが野菜と花卉の最大の相違点ですが、快(ここちよ)さを満たしてくれるものである点は野菜も花卉も共通です。この快さを品種により追求する行為が育種と言えます。ブリーダー(育種家)は、生産者あるいは消費者に快さを満たしていただける品種の開発を目指しています。
 言うまでもなく、味覚=舌に訴える形質が大切なのが野菜育種で、視覚=目に訴える形質を主に対象とするのが花卉育種です。野菜は味覚、及び視覚、臭覚で快さを得る園芸作物で、花卉は視覚と臭覚を使って快さを得る園芸作物であるとも言えるでしょう。
 実は、野菜も目で食べています。目で快さを得ています。近年の生食用野菜では特にこの傾向が強まっています。『穀物』として分類される作物類は、小麦粉などのように原型をとどめず利用されるものが多く、この点で野菜や花とは異なります。
 実際の育種現場においては、野菜でも花卉でも味覚や視覚より栽培性や多収生、耐病性と言った生産段階に関係する諸形質に対する育種が大きなウエイトを占めているのが現状ですが、ある品種にどのような『食感』や『質感』を付与するかという点も品種開発の大きなポイントです。これら『テクスチャー』に関与する形質の追及は今後一層大切になると考えられます。桃太郎
 トマトの果実の形状やユーストマの花弁の形状も、どのような形に仕上げていくかはブリーダーの感性に左右されます。育種では『色』と『形』及び『テクスチャー』を正確に認識することが大切で、品種開発者は、一般にこれらに対する識別能力に長けています。品種特性に関する形質は『質的形質』と『量的形質』に大別されますが、どちらの形質においても各種分析測定の手法を用いても数値表現できにくい『色』や『形』などに対する感性、及び植物そのものに対する感性が品種開発には欠かせません。植物そのものに対する感性とは、植物を容易に理解できることと言えるかも知れません。良いブリーダーは自然に植物との付き合い方が上手なものです。
 品種開発の現場でよく使われる『育種センス』とは、これらの感性以外に各種の形質を上手に統合させる能力、また、時代を読む力等を合せたものを呼ぶのでしょう。

(写真上・ユーストマ雪てまり 右・桃太郎)

【著者】羽毛田智明
           タキイ種苗(株)研究農場次長

(2009.05.20)