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種苗開発の裏話

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第10話 バイオテクノロジーと品種開発

・酒、みそ、醤油もバイオテクノロジー
・バイオ技術者とブリーダーの連携が重要

 おいしい野菜や美しい花は、自然にある素材をもとにブリーダーが多大な時間と労力・経費をかけ、交配と選抜を繰り返すことしてできました。しかし従来の育種手法だけでは、生産者や消費者の多様なニーズに応えることがなかなか難しくなってきました。ここに登場したのが、バイオテクノロジーです。

◆酒、みそ、醤油もバイオテクノロジー

生化学検査室 おいしい野菜や美しい花は、自然にある素材をもとにブリーダーが多大な時間と労力・経費をかけ、交配と選抜を繰り返すことしてできました。しかし従来の育種手法だけでは、生産者や消費者の多様なニーズに応えることがなかなか難しくなってきました。ここに登場したのが、バイオテクノロジーです。
 バイオテクノロジーとはバイオロジー(生物学)とテクノロジー(技術)とからなる造語で、「生物自体あるいはそれが持つ機能を効果的に活用する技術」と定義されています。酒や、みそ、しょう油などは、じつは古典的なバイオテクノロジー利用の産物なのです。
 1980年代には「バイオ・フィーバー」の時代があり、中でも遺伝子組換え技術は急成長株として特に注目され、当時はこれを使えば夢のような作物が何でも作れるという過大な期待感がありました。しかし、この現象はバブルの崩壊と重なって下火となり、現実的な課題も浮き彫りにされ、現在わが国では、安全性等の面から遺伝子組換え技術の利用には慎重な態度が取られています。


◆バイオ技術者とブリーダーの連携が重要

生化学検査風景 これまでに行なわれたバイオテクノロジーの野菜や花の品種開発への利用例には、育種年限を短縮するために葯培養(花粉の培養により固定系統を短期に作出する技術)を用いたブロッコリー『スリーメイン』『エンデバー』、ハクサイ『オレンジクイン』、ナス『紫水』があり、花ではハボタンの新品種があります。普通の交配では雑種ができない遠縁のユリでは胚珠培養(未熟胚を培養して雑種を獲得する技術)が広く使われ、『ピンクプロミス』などが生まれました。ハクサイと赤キャベツの細胞融合技術による『バイオハクラン』はナタネ育種の素材等に利用されています。
 近年、DNA解析技術は飛躍的に進歩しました。例えばトマトは、葉のDNAを調べることで各種病気への抵抗性の判別が容易にわかるし、キュウリの塩基配列はほぼ解読されたと言われています。得られた遺伝情報の活用で、夢物語ではなく地に足の着いた新品種開発が効率的に進められています。
 これからの時代の品種開発は、バイオ技術のスペシャリストと、従来の育種や栽培技術に精通したブリーダーが一体となることが重要です。新品種・新技術の保護への対応も大きな課題です。

【著者】羽毛田智明
           タキイ種苗(株)研究農場次長

(2010.03.16)