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種苗開発の裏話

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第11話 品種開発と知的財産権

・ブリーダーの作品を守る“育成者権”
・育成者権と特許権の違いは?

 どんな作物でも品種育成に取り組むブリーダーの夢は、自分達の発想で生まれた品種をたくさんの人々に親しんでもらうことです。この想いは作家や芸術家などに通ずるものがあるかもしれません。
 芸術作品や書籍などは、"著作権"によって"作品"が守られていますが、ブリーダーが育成した"品種"はどのように守られるのでしょうか。

◆ブリーダーの作品を守る“育成者権”

艶やかな照葉が美しいプラチナケール「ルシール」 近年知られるようになってきたのが、種苗法による「品種登録」制度です。これで守られる権利を“育成者権”と呼びます。2007年末時点の登録品種数は7568品種に上ります。03年に施行された知的財産基本法で品種も知的財産の一つとして認められ、育成者権が知的財産権の一つであることが明記されました。
 知的財産権の代表に、特許法による“特許権”があります。日本には育成者権があるので、これまであまり品種育成と特許権について強く意識することはありませんでした。しかし、世界的には品種育成と特許権が表裏一体となり、重要な役割を果たしている例が多数あります。
 ダイズ、トウモロコシ、ワタなど遺伝子組換え技術をもとに育成された作物には多数の特許権が絡んでいます。日本でも登録の要件さえ満たせば、植物の育成方法や品種自体に特許権を持たせることが可能です。

◆育成者権と特許権の違いは?

 種苗法の“育成者権”と特許法の“特許権”の大きな違いは、種苗法があくまで登録された品種に限定してその権利を守るものであり、該当品種を素材として利用し新しい品種を育成することが許されているのに対し、特許権で保護される範囲はこれよりも広くなるケースが多いことです。
 ブリーダーが“育成者権”だけではなく“特許権”についても頭をめぐらす時代になりました。
 タキイ種苗ではハボタンの照葉品種『ルシール』の育成に関して“特許権”を取得しています。その内容は「葉面にワックス成分が実質的に分泌、付着されないブラシカ・オレラセア系統とハボタン系統を交雑し、交雑後代から葉面にワックス成分が実質的に分泌、付着されない個体または系統を選抜することを特徴とする葉面にワックス成分が実質的に分泌、付着されないハボタン品種の育成方法」というものです。
 この130文字の中に、ブリーダーの長年の夢と努力が詰まっています。

 

(写真)
艶やかな照葉が美しいプラチナケール「ルシール」

【著者】羽毛田智明
           タキイ種苗(株)

(2010.04.15)