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JAは地域の生命線

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第4回 ASTが縮めた組合員との距離 菅野孝志(JA新ふくしま 代表理事専務)

・全国初の青年農業経営塾立ち上げ
・組合員との一体感もつため経営管理委員会廃止

 ASTの創設と着実な活動、全国のJAの中では初めての青年農業経営塾の創設、多様な農産物直売所とそれを支える女性組合員の皆さん、さらにこれも恐らく全国で初めての経営管理委員会制度を廃止してJA指導部が組合員に直結する体制への改革――菅野孝志専務の斬新な革新路線に私はかねてより感嘆の声をあげてきた。
 ASTとは「明日人」とも読める。明日(未来)の地域農業とJAを担う人たちをいかに創るか。その活動の拠点である。青年農業経営塾の創設は全国のJAの中では初めてであろう。私は開塾式に招かれ記念講演をした。「農業ほど人材を必要とする産業はない」ということを柱に話した。講演翌日、数人の塾生を訪ねた。いずれも一騎当千の士であったが、その奥さん方がすぐれていた。果樹産地が更なる発展を遂げるには女性の力が重要だと改めて痛感した。地域に足を根ざしたJA新ふくしまの更なる発展を祈る。
(今村奈良臣)

菅野孝志(JA新ふくしま 代表理事専務)今村 JA新ふくしまの管内は東北最大の多彩な果樹産地ですが、広大な管内で産地を興すためにAST(アスト※)をつくり、非常に活躍していますね。この構想をつくったのは菅野さんだとお聞きしました。
菅野 JA新ふくしまは1994年に8つのJAが合併してできましたが、支所の統廃合などがあり営農指導員もバラバラになりました。組合員さんから、最近営農指導員が来ないぞ、という声もあり、指導員が極端に少なくなったわけではないのですが、組織が大きくなったことで距離感が出てしまい、指導員の事務仕事も増えて現場を回れなくなりました。つまり組合員さんが農協から逃げていったのではなく、経営改革の中でわれわれの方から農家組合員さんたちと距離をおくような仕事をしてきたのではないか、という反省がありました。そこで2008年に担い手支援チームをつくりたいと理事会に提案し、すぐに管理者1人と5人のメンバーを選び、ASTを立ち上げました。
 これまで営農指導アドバイザーなどを置いた時期もありましたが、結局は資材販売などをベースに考えてしまい、組合員さんが何をしたいのか、ということがわからないままでした。だから、ASTの目標はとにかく回ることです。しかし組合員さんとの関係が強化され濃密になるとともに、逆に多くは回れなくなりました。初年度の訪問件数は7000件あったのに、2年目は5000件に減りました。
 ただ、これまでJAは、みんなのためを重視して、なかなか1人の想いを実現しようとはしてこなかったんですが、今は1人ひとりの想いにASTが応えることで、もっと多くの人たちの想いを実現できるようになったと感じています。たった1人の想いでも、JAに声を寄せることで周りの人のためにもなる、ということがありますから。
 ASTはこれまで5人とも男性でしたが、今年から女性のASTを1人入れて6人にしたんですよ。
今村 それはすばらしい!
菅野 21才で非常に若いんですが、支店で窓口を2年間やってきて農家の人たちの悩みを聞きたいとASTを希望してきたんです。やはり女性が女性に話すのと男性に対するのとではまったく違いますし、農業者の半分は女性ですからね。

菅野専務とたんがら味工房のみなさん

(写真)
菅野専務とたんがら味工房のみなさん

今村 JA新ふくしまは直売所も多彩で、そこでの女性の活動も非常にいきいきとしています。
菅野 直売所は2000年6月に統廃合でなくなった共選場跡地で始めました。しかし単にモノ売りだけの直売所ではダメだ、何か意味づけをしようと、地元と旬にこだわるという意味で「ここら」と命名し、女性グループにも協力してもらいました。女性部はそのほかにも学校教育を支援する活動にも元気に取り組んでもらっています。


◆全国初の青年農業経営塾立ち上げ

今村 昨年、JAとしては全国初だと思いますが、青年農業経営塾を立ち上げましたね。参加者の中には男性だけじゃなく、女性経営者でもいいアイディアと立派な名刺を持った人がいて、大変感心しました。
菅野 この塾は若い人たちに、JAとは何か、販売戦略はどうするか、ということを考えてもらう機会にしようと思って始めました。そこではASTの考えと実績が大きな礎になっています。ただJAは事務局として枠組みをつくるだけで、基本的には若い人たちの自主運営で、みんなで福島の農業をどうするかということを考えてもらう場になればいいと期待しています。


◆組合員との一体感もつため経営管理委員会廃止

今村 4月の総代会では経営管理委員会制度をやめますが、元に戻すというのも全国では初めてですね。
菅野 わずか一期で廃止するということで、導入に携わった人たちの中には疑問視する声もありましたが、昨年の総代会では圧倒的多数の賛成を頂きました。やはり経営管理委員会というのは、組合員さんの感情からすると、会長と理事長がいて、いったい代表は誰なんだ、どっちが偉いんだ、という困惑がありましたね。俺たちの代表は俺たちの仲間だ、という一体感が必要です。学校なら校長、病院なら院長なんだから、組合は組合長の方がスリムで一番いいですよ。
 この3年間で、今までよりも組合員さんの方に近づいて、組合員さんの暮らしを育むための農協になりつつあるんじゃないかという声もありますから、経営管理委員会制度をやめても、今ままでの良さを発揮するため同じ体制のまま動こうと確認しています。確かに経営の問題などはたくさんありますが、それは学経の役員にキチッとやってもらおうと。大事なのは、どんなことがあっても曲げちゃいけないことがある、ということです。良いことは良い、ダメなものはダメという自己主張をしっかり伝えていきたいと思います。

※AST 農業(Agriculture)支援(Support)トータル・チーム(Total team)の略称。管内の認定農業者や担い手を訪問し、農家とJAとの距離を縮めるためのチームとして2008年3月に設立した。

【略歴】
かんの・たかし 1952年2月生まれ、72年福島県農業短期大学校協同組合科卒、同年松川町農協入組、90年参事、95年新ふくしま農協共済部長、97年総務部長、2002年営農経済部長、04年営農経済担当常務理事、07年代表理事理事長(経営管理委員会導入による)

(2010.04.16)