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JAは地域の生命線

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【特集・地域の活性化は女性力で】キラリと光る個性あふれるJAを―東京大学名誉教授・今村奈良臣

・多彩な活動のエネルギーを生かす
・女性のリーダーシップで地域に活力を
・消費者と生産者の架け橋に・JA兵庫西
・地域ブランド作りから病院まで・JA梨北・国家老としての女性役員の役割JA馬路村

 「男女共同参画を」「女性理事ゼロJAの解消を」など、JAグループでは運営に女性の力を積極的に取り入れ組織基盤の強化・運動の活発化を図ろうとしている。第25回JA全国大会では女性の参画目標を、▽正組合員25%以上、▽総代10%以上、▽理事等2人以上、としたが、その数値目標達成の是非に拘らず、依然女性の経営参画は実現しにくい現状がある。
 本特集で紹介する3JAは、いずれも女性常勤役員が活躍しているJAだ。その活動を追いながら、JA運営にどう女性の力を生かしているかを取材した。

◆多彩な活動のエネルギーを生かす

JA佐久浅間(長野県)のJA御輿。(=2010年8月7日、夏まつり「臼田よやさ」より) かねてより私は「農業は生命総合産業であり、農村はその創造の場である」と説いてきた。
 生命総合産業とは何か。
 まず、なによりも、国民に米をはじめとする多彩な農畜産物を、安心・安全・安定をモットーに、わが国の土地と水を活かし供給することである。
 しかし、それだけではない。農業の6次産業化(1×2×3=6次産業)を推進し、多彩な農畜産物加工品や食材を届ける必要がある。
 さらに水と緑で国民に豊かな保健空間、保養空間を供給し、次世代をになう青少年に農と食の生命力の尊さを培うことも、農業と農村の持つ大きな役割である。また、農村の伝統文化や先人の知恵の結晶を次世代に伝承し豊かな心の拠り所を作るのも農村の持つすぐれた役割である。
 こうした農業・農村のもつ現代社会におけるすぐれた多くの役割を受け止め、発展させる基盤に、JAの役割があるはずである。
 そのためには、JAは絶えざるイノベーション(自己革新)を推進しなければならない。特に基本となるのが、人材革新、技術革新、情報革新、販売革新の分野である。その推進の中核となるのが、営農指導、営農企画、営農経済などと呼ばれている部署である。
 しかし、それだけでは足りない。日本農業の半ば以上を支えているのは女性である。
 活力あるJAにはすぐれた多彩な、多分野にわたる女性の活動が見られる。
 直売所をはじめとする地域農業の6次産業化は女性のリーダーシップを必要とするし、高齢化時代の福祉、介護などの活動にも女性のエネルギーが欠かせない。この分野でのすぐれた女性の活動が、キラリと光る個性に充ちたJAとなるのである。

(イメージ写真)
JA佐久浅間(長野県)のJA御輿。(=2010年8月7日、夏まつり「臼田よやさ」より)


◆女性の活力あふれるJAは地域の生命線である

 5年前、青森のJA田子町の専務理事をされていた佐野房さん(現JA八戸監事)が、「農業ほど男女差の無い産業はない」、「活力あふれるJAを女性の力で」と呼びかけられた。JA―IT研究会の公開研究会の報告で話された。参集されていた多数の会員はもちろん、私の胸にずしんときた。
 にんにくの日本を代表する主産地であった田子町は、中国からの輸入にんにくにより崩壊の危機にかつて直面したが、それに対抗し多彩な加工技術の開発等、地域農業の6次産業化などの路線を通じ、主産地として回復しつつある時期に、この言葉を聞き私の胸にずしんと来たのである。その産地再生に当たっての女性の活躍は素晴らしいものがあったと受け止めている。
 第2、第3の佐野房さんは各地にいま育ちつつあるし、さらに注目すべき新しい路線を開拓しつつある。
 その女性のリーダーの活躍を通じ「JAは地域の生命線」という路線を描き出してみたいと思う。


◆女性のリーダーシップで地域に活力を

 今回は4人の女性リーダーの方々にご登場いただいた。
 JA兵庫西の榎淳子専務理事、同大津支店の堤弘子支店長。JA梨北の仲澤秀美常務理事、そしてJA馬路村の平野美保常務理事。それぞれの女性の方々の置かれたJAの特徴や立場は異なるものの、共通して言えることは、JA管内の組合員や地域を支える農業の活力を高め、女性の目線での将来を見据えたJAと地域農業のイノベーション(自己革新)の推進に全力を傾注されている姿であった。


兵庫・JA兵庫西
消費者と生産者の架け橋に

 榎専務と話していてもっとも印象に残ったのは「消費者と生産者の架け橋に」ということであった。消費者の目線を鋭く感じ取り、その気持ちを汲んで生産者との架け橋になれるのは、やはり女性の感性が必要だということである。地域の農業を支えているのもこの地域では「母ちゃん農業」であり、消費者の目はやはり母ちゃんである。
 管内の直売所を支え農産加工など6次産業化を推進するエネルギーは女性の力だと痛感した。
 さらに大津支店は堤支店長以下全職員が女性であり管内60以上の支店の中で常にトップの成績を収めているのは大津支店だという。土曜市の開催や園児のポスターの募集、展示などで地域を引きつけ、活性化する原点に女性の持つ感性が生きていると痛感した。


山梨・JA梨北
地域ブランド作りから病院まで

 JA梨北の仲澤秀美常務理事は堀川千秋組合長とコンビを組みつつ目を見張る改革をすすめてこられている。
 「地域力」の発揮のため組合員が来るのを「待つ」JA路線から「出向く」JA路線に全力をあげて改革し「地域力」を見出し、育て、将来に活かす路線をこれまで全力をあげて追求してきたと私は受け止めた。それは「梨北米ブランド」や地域内農畜産物をほとんど管内で売り切る農産物直売所に結集している。
 JA梨北管内は標高300mから1100mまで拡がっており、その標高差を活用しつつ周年供給体制も組みたて、地域農業も梨北ブランド米をはじめ畜産、果樹、野菜、花卉の安心・安全の循環農法が消費者の要望に応えている。それだけではない。全国で前例を聞かないJAが創設・運営する総合病院があり、介護、福祉施設も連携し充実している。仲澤常務の女性の目線と指導力の賜物であろう。


高知・JA馬路村
国家老としての女性役員の役割

 JA馬路村は多彩なユズ加工品でその名はいまや全国に知れ渡っている。その先頭に立ち全国に足を運び、販売戦略を練り実践しているのが東谷望史組合長である。
 しかし、その農業を守り、地域の組合員を指導し、金庫を守り、JAの経営管理のカナメ(要)となっているのが平野美保常務理事である。外交と内政と金庫の安全とを、組合長と常務で分担しているのである。私はこの見事な組み合わせがJA馬路村を支えていることを改めて痛感した。

(2011.01.13)