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JAは地域の生命線

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【特集・地域の活性化は女性力で】「つくる力」の結集で「総合力の発揮」を JA梨北(山梨県)

・農業の担い手目指す「農業協力隊員」
・JA直営病院を核に介護・福祉事業を展開
・経営トップに必要なことは「先見力」
・組合員が食べられ、満足を実感できるよう

 JAの存在意義は、組合員が『満足』を実感できる「組合員メリット」の実現だと堀川組合長はいう。そのために「梨北ブランド」の確立や地元農畜産物の6次産業化などに取組んできている。そこには組合長が「右腕」と評価する仲澤常務の女性の目線によるアイデアが随所に活かされていた。
 「梨北信玄米」「梨北米武川コシヒカリ」「梨北米農林48号」などのコメをはじめ、「MADE IN RIHOKU」(メイド・イン・梨北)の取り組み、アウトレット(規格外)野菜の「マルシェ梨北」など各種ブランド化の取り組みや、農業の担い手育成をめざす農業協力隊員、JA直営の療養型病院「りほく病院」(92床)などの事業を紹介する。

【JA梨北の概況】

 山梨県北西部にあり、南アルプス・八ヶ岳・秩父山系に囲まれ、釜無川流域は肥沃な水田地帯だが、大半は丘陵地帯で標高300m〜1100mに耕地が分布し、果樹や野菜類が生産されている。 山梨県北西部にあり、南アルプス・八ヶ岳・秩父山系に囲まれ、釜無川流域は肥沃な水田地帯だが、大半は丘陵地帯で標高300m〜1100mに耕地が分布し、果樹や野菜類が生産されている。
◎組合員数:1万5029人
(正組合員1万2249人、准組合員2780人)
◎職員数:297人
◎販売品取扱高:39億4200万円
◎購買品(生産資材)取扱高:25億8100万円
◎信用事業(貯金高):810億9000万円(貸出金):293億4300万円
◎共済事業(長期共済保有高):5517億2500万円
(以上、21年度末現在)


現地レポート

「梨北ブランド」確立で地域農業を元気に

◆積極的に展開する6次産業化

「よってけし響が丘」店では店の外にまで地元産野菜が並べられていた 山梨県は米の輸入県だが、肥沃な釜無川・塩川流域は県内有数な水田地帯であることを活かして「梨北米」のブランド確立に取組んできている。とくに、「梨北米コシヒカリ」(峡北産コシヒカリ)は日本穀物検定協会の「食味ランキング」で初評価以来5年連続で「特A」と評価されている。
 また、JA経営の有機センターで生産される「りほく堆肥・土の里」使用による特栽米「梨北信玄米」や「梨北米武川コシヒカリ」「梨北米農林48号」も商標登録を取得し有利販売を進めている。
 米だけではなく、JA梨北では「組合員メリット創出」のために、「6次産業化」によるJA梨北ブランドの構築に取組んできている。
 例えば、梨北で生産された大豆だけで製造された「おっ」と驚く豆腐「大豆まるまる おっとうふ」、「梨北米」の米粉にし小麦を混ぜ合わせた食パン、規格外のため出荷できない梨北産の桃の果汁と日本酒をブレンドしたリキュール「ぴちぴち桃子のお酒」、梨北産酒造好適米「夢山水」による純米吟醸酒「梨北米 夢山水」などが、農商工連携による地産地消商品として開発され、「メイドイン梨北」ブランドで販売されている。
今村氏と談笑する「よってけし響が丘」の生産者・箭本正人(72歳)さん それを象徴するように、JAの本店入口や役員室の壁に「JA梨北が認める生産物のブランド」であることを表す「MADE IN RIHOKU」(メイド・イン・梨北)のロゴマークのパネルが飾られている。
 JA梨北にはもう一つブランドがある。それは「マルシェ梨北」だ。これは「アウトレット(規格外)野菜」のブランドで、生産者が軽トラックに曲がったキュウリや傷ついたナスなどを積み込み販売している。生産者の所得確保につながるとともに、将来的には生産物の「廃棄ゼロ」を目標とした取り組みと位置づけている。

(写真)
上:「よってけし響が丘」店では店の外にまで地元産野菜が並べられていた
下:今村氏と談笑する「よってけし響が丘」の生産者・箭本正人(72歳)さん


◆直売所など多様な販売チャネルの確保

 生産者の所得を確保するためにJAでは市場販売だけではなく、企業と提携した契約栽培・販売や海抜300m〜1100mという標高差を活用したサクランボのリレー観光など多様な販売チャネルを開発してきた。直売所もその一つで現在、JA直営「よってけし」(峡北地方の方言で「よっていってください」という意味)3店舗と道の駅内の4店舗がある。
 別掲インタビューにもあるように野菜の販売は市場から直売所へとシフトしてきている。「よってけし響が丘」店に出荷している箭本正人(72歳)さんは、桃と野菜を生産しているが、「以前よりも収入が増えた」だけではなく、消費者と直接話ができるので「いろいろな野菜をつくるヒントがもらえる」と、直売所ができたことを喜んでいる。


◆農業の担い手目指す「農業協力隊員」

農業協力隊員の大澤栄一さん 山梨県はJRの特急に乗れば1時間半で東京という立地もあって、農業後継者が減少し生産者の高齢化とあいまって農業生産力の低下が懸念され、新たな担い手の確保が課題となっている。そのため山梨県は、新たな担い手の育成と地域への定住・定着を目的とした「農業協力隊推進事業」を21年9月から開始した。
 JA梨北でもこの事業に初年度から支援機関として参加。首都圏などから応募してきた9名から3名を選び、果樹や野菜を中心に栽培技術や経営のノウハウなど就農に必要な知識習得のための指導・支援を生産部会と連携して行っている。
 その一人である大澤栄一さんは、最年長の53歳。「子どもに手がかからない環境になった」ので、勤めていた会社の早期退職制度を利用して「念願だった農業への想いを実現させる」ために応募したという。
 他県についても調べたが、生活保障(日給8300円、20日以上就農が条件)や住居費、車の燃料代が保証されることから、ここを選んだという。
 すでに1年が経過し、桃の生産部会や地域の人の評価も高く、いまは桃のほ場56aの管理を任されている。冬場のいまは、JAの育苗センターの農閑期でもあるので、その一部を借りてハウス促成レタスや小松菜を栽培し直売所に出荷している。

(写真)
農業協力隊員の大澤栄一さん


◆JA直営病院を核に介護・福祉事業を展開

 こうした営農経済事業だけではなく、JA梨北には他のJAにない大きな特色ある事業がある。それはJAが平成13年に開院した直営の療養型病院「りほく病院」(92床)を核とする介護・福祉事業だ。温泉もある同病院には高齢者総合ケアセンターが併設され、通所リハビリだけではなく、農繁期や冠婚葬祭などで、自宅で介護がしにくいときに短期間要介護者を預けることができるショートスティが18床あり、組合員から好評だ。
 一方で、管内7カ所にミニデイサービスがあり、こちらは「元気な高齢者」たちの楽しみとなっている。
 信用事業や共済事業でも独自の事業を展開するなど、現在、取組んでいる中期計画で掲げた「つくる力」を結集した「総合力の発揮」で、「組合員としての『満足』を実感」できるようなJAとなるために奮闘している。
 堀川組合長は、「JA改革」といわれるが、農協法ができて60余年経ったものを「いっぺんに改革はできない」「一つひとつ『改善』し、揃ったときに『改革』だといえる」。そして仲澤常務は、その一つひとつの「改善」は、誰かを頼りにするのではなく「自分たちの目で判断し、考える」ことだと結んだ。

JAの直営病院「りほく病院」

(写真)
JAの直営病院「りほく病院」


誰を右腕にするかで経営者は変わる
インタビュー
堀川千秋組合長
仲澤秀美常務


◆経営トップに必要なことは「先見力」

堀川千秋組合長 今村 仲澤さんを常務に抜擢した理由は・・・
 堀川 経営者は誰を右腕にするかで変わります。私が右腕にしたかった人がたまたま女性だったわけです。
 今村 そのときに何を基準に・・・
 堀川 一番は先見力です。総体的にものがみれて先を読めるのは常務しかいないと思ったので、男とか女とかではありません。
 仲澤 私がありがたいなと思うことは、男勝りになることも、片意地を張ることもなく、女も妻も母も捨てず、子どもを3人産み育てた普通のおばさんが女性のまま仕事をさせていただき、その仕事を評価していただくという得がたい環境のなかで仕事をしていることです。
 今村 女性だということでとやかくいわれることはない。
 堀川 経営してこそ役員ですし、常務が罷免されたら私も一緒に辞めればいい、ただそれだけのことです。
 今村 そこまで信頼してコンビが組めるのはなぜですか。
 堀川 一番大変な時期に一緒に仕事をして信頼できると思ったからです。
仲澤秀美常務 仲澤 組合長が総合企画室長のときに、私が課長で、合併時43あった支所を統廃合して現在の13支店体制にしました。そのとき中山間地である北部地区を中心に128カ所で説明会を開きましたが、課題の多い地域には必ず2人で行き、お叱りを受けました。
 今村 反対理由は利便性が失われるから…。
 仲澤 利便性が失われることよりは、“いままさにここで生活しているのに、あれも去り、これも去り、JAもここを去るのか”という切実な思いを感じました。そのことが分かったので、2人で頭を下げご理解をいただきました。
 今村 支所統合後はどうですか。
 仲澤 支店まで遠くなった方もいますのでご不便をおかけしていることはあると思いますが、従来の“待つ”という店舗体制から、“出向く”営業体制に変え、何とか対応できていると思います。貯金量が目減りしたり、共済の契約が激減していませんから・・・

(写真)
上:堀川組合長
下:仲澤常務


◆組合員が食べられ、満足を実感できるよう

JA梨北が認める生産物のブランド「MADE IN RIHOKU」(メイド・イン・梨北)のロゴマーク 今村 09年度からの「中期経営計画」では「作る」(Raise:レイズ)「造る」(Found:ファウンド)「創る(Create:クリエイト)による「総合力の発揮」がスローガンになっていますね。
 堀川 農協は“弱者”が集まった集団ですから、弱者が助け合うためにはどうするかを考えるのが本来の姿です。つまり、組合員である農業者が食べられ、満足を実感できることです。そのために安全・安心な農産物(レイズ)の提供を核とした地域農業の振興。地域社会への貢献および組織・事業基盤づくり(ファウンド)。そして経営の健全性と競争力ある事業展開による組合員メリットの創出(クリエイト)を目標とした事業間連携による「総合力」の発揮に取組んでいくことです。
 仲澤 これまでも、国からの補助金だけに頼るのではなく、自ら努力していくことが一番重要だと考え、「梨北米」のブランド構築や梨北の農産物による6次産業化などに取組んできました。
 今村 直売所もそうですか。
 仲澤 生産者が高齢化になるにつれ、農産物を作る技術力はあるものの、市場出荷するロットづくりや産地化は難しくなりました。しかしながら、作ったものは換金したいという気持ちの受け皿です。合併当時、市場出荷される野菜の生産額は13億円ありましたが、いまは2.6億円です。差額の10億円が直売所に流れています。
 次に私たちが考えなければいけないのは、直売所まで行く術のない組合員の野菜や果実をすくい取ることです。それができれば「廃棄ゼロ」に近づけるからです。

(写真)
JA梨北が認める生産物のブランド「MADE IN RIHOKU」(メイド・イン・梨北)のロゴマーク

(2011.01.19)