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JAは地域の生命線

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JAこそ、地域まるごと産業化できる 眠れる地域資源をいかに活かすか  JA会津みなみ(福島県)

・高冷山間地の活性化は農業が基盤
・200万人の観光客をJAファンに!
・山菜、きのこで六次産業を興そう!
・自然の中には宝の山が眠っている
・雪を売りものに!!

 もっとも寒くなる1〜2月にはマイナス15度を超え、雪の深さが2mを越えるところも珍しくない。日本有数の豪雪地帯である南会津郡を管内とするJA会津みなみ。管内の総面積は23万4000ha以上あるが、ほとんどが山間部のため耕地面積はその2%にも満たないわずか4000haだ。厳しい自然条件に加え、不況による企業や工場の撤退なども相次ぎ、農業者や若者も年々減少している。地域が苦境に立たされている今だからこそ、JAが農業を基盤にして地域活性化を実現しなければいけない。
 高齢化率が高く、就農者の減少も著しい寒冷地帯で、JAは"地域の生命線"として何をすべきか。今村東大名誉教授とともに福島県南西部のJA会津みなみを訪ねJAトップとの座談会を行い、そこから見えてきた課題を今村氏に提言してもらうとともに、今村奈良臣氏とJA役職員8人に集まってもらい、JAによる地域活性化への道筋について話してあってもらった。

高冷山間地の活性化は農業が基盤
今村奈良臣 東大名誉教授・JC総研所長

JA会津みなみのブランドトマト「南郷トマト」

(写真)
JA会津みなみのブランドトマト「南郷トマト」

seri1103040102.gif JA会津みなみで「平成22年度 事業推進大会」を開催するので記念講演を行ってほしいとかねてより熱望されていたので、2月19日に行った。記念講演のタイトルは、「人を生かす、資源を活かすネットワークを拡げる〜農業の六次産業化で地域に活力を〜」というもので、その骨子は以下の内容で2時間にわたり話した。
seri1103040101.jpg1.食料・農業・農村政策についての私の基本スタンス
 (1)農業は生命総合産業であり、農村はその創造の場である
 (2)食と農の距離を全力を挙げて縮める
 (3)農業ほど人材を必要とする産業はない
 (4)トップダウン農政からボトムアップ農政への改革に全力をあげる
 (5)共益の追求を通して私益と公益の極大化をはかる
2.時間軸と空間軸を踏まえて近未来を展望する
3.JAによる営農・販売戦略の革新を
4.JAはいまこそイノベーションの推進を
5.地域興しへの私の10の提言
6.農業の六次産業化の理論とその実践
7.地域農業・農村改革の包括的構想の提起―アグロポリス・フードポリス・エコポリス・メディコポリスの創設による地域活性化の新構想
8.TPP反対の理論と実践課題
などを骨子とするものであったが、ここではその詳細は省略せざるを得ない。
 この講演のあと、星組合長以下別掲(2面参照)したようなJA会津みなみの幹部の皆さんと懇談会を開いたが、地域興しとJAの役割について参考にしていただきたい。

seri1103040104.gif その後、夕食を兼ねて、JA会津みなみの星専務、渡辺常務、弓田監事との懇談会を持った。その中で私が提言したことを紹介しておきたい。

◆200万人の観光客をJAファンに!

 JA会津みなみ管内ならびに近隣にある大内宿、檜枝岐、塔のへつりや観音沼などには年間200万人を超える人々が訪ねてくる。この人々に買っていただくものはないか。また会津みなみのファンになっていただく方法はないか。
 私の提言を農業の六次産業化の更なる深化という観点から、順次とりあげ紹介してみたいと思う。

◆地元の酒蔵と共同開発しよう!

 JA会津みなみ管内には4つもの有名な酒造場があり、銘酒が数々生産されている。酒造場は必ず銘酒造りに不可欠の良質の水を得るために深井戸を持っている。この深井戸の水を活用してペットボトル用の名水を酒造場とJAが協同して開発し、200万人も訪ねて来る観光客の喉を潤すために販売したらどうであろうか。

◆名水活かしてお茶をつくろう!

 単に名水だけでなく、別表に掲げたような、これまで活かされてこなかった貴重な資源の中から、お茶の原料になるものを薬草などから見出して、上記の名水を活用し、すぐれたお茶のペットボトルを作り売り出したらどうであろうか。先進事例としては世羅高原六次産業ネットワークと駅伝日本一の世羅高校が共同開発した特産の梨を活用した「世羅っとした梨 ランニングウォーター」や、JA氷見市が転作から本作に変えたハトムギを活用した「氷見はとむぎ茶」などは爆発的な売れ行きを示している。

◆米の販売方法を魅力あるものにしよう!

 そのほか、雑穀類も多数にある。これを特産のコシヒカリなどに混ぜ「古代米入りコシヒカリ」、「赤米入りコシヒカリ」あるいは「五穀米」などと銘打って、ペットボトルに入れて売り出したらどうだろうか。ペットボトルは必ず冷蔵庫に入り、虫も入らず狭いアパートでも場所も取らない。若い女性たちの健康にもよいし米離れも防ぐと思う。若い女性に目線を注ぎ米を売ろう。

◆山菜、きのこで六次産業を興そう!

 さらに多数にある山菜やきのこなどをいかに活かすか。私が講演で行った「資源を活かす」ということを、安全な健康所品に作りあげ、地域の六次産業化につなげてほしいと熱望した。

 

【座談会】

自然の中には宝の山が眠っている

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出席者
星 安博 代表理事組合長
星 泰蔵 代表理事専務
渡辺善栄 常務理事
弓田貞義 代表・常任幹事
佐藤洋一 営農部長
菅家 淳 購買部長兼旅行センター長
玉川勝久 金融・共済部長
小沼一弘 総務部長
司会 今村奈良臣
(すべて敬称略)


◆高冷地という不利条件を活用して

seri1103040106.jpg 今村 南会津は大変な高冷地ですが、その課題とそれを活かした取り組みは?
 星組合長 冬季の農業生産が難しい一方、寒暖の差が大きく良質の園芸作物ができるので、ブランド化して今年で50周年を迎えた南郷トマトのほか、アスパラガス、花卉などを重点振興品目にしています。
 一方、専門の大規模ではなかなかできず自家消費用のみ栽培しているような組合員にもお金を得てもらって“生きがい”を感じてほしい。しかし、この地域は人が少なく直売所運営もなかなか難しいので、7、8年前から家庭菜園の面積を少しでもいいから増やして、それを首都圏のスーパーへ毎日送ろう、と産直販売をはじめました。主に女性や高齢者で農業経営をやめてしまった人など年間販売額100万円未満の組合員が対象です。現在、76店舗に出荷し、会員数も年々増えて300人ほどいます。
 佐藤営農部長 来年度からの事業計画では「生きがい農業」と名前をつけて狙いを明確にし、ぜひ“高齢者技能者”にがんばってもらおうと思っています。専業の組合員向けには、昨年、経営支援課を立ち上げ、農家を巡回して経営相談を受ける専門員を4人配属しました。今後も農協と組合員のつながりを大事にする取り組みを重視したいと思います。
 弓田監事 職員についての課題では、検査、監査、モニタリングを毎日かなり厳しくやっているんですが、逆に監査慣れしてしまっているというのが今の印象ですね。
 星専務 この地域は、バブル期に中小の零細企業や工場がかなりあったんですが、3年ほど前にほとんど撤退してしまい、若い人を中心に200人以上が職を失いました。なんとか農業で仕事の場を提供して、地域活性化につなげたいですね。
 今村 企業が撤退した地域は本当に厳しいですね。益々、農業を基盤にした巻き返しが大事になってきます。
 渡辺常務 昭和30年代に人口6万人ほどだったのが、今は半分の3万人弱です。南会津町だけでもここ5年で2000人ほど減りました。だから信用、共済事業も頭打ちで、このままでは農業振興ができなくなるのでは・・・という不安もあります。ただ、南郷トマトを中心に熱く真っ赤に燃える若者もたくさんいるので、しっかり支援しなければいけないと思います。
 星組合長 今、多いのはIターンです。トマト栽培では毎年2、3組の若者が入ってきます。去年、県の農業賞を受賞した夫婦は、旦那さんが元道路公団で奥さんは看護師。5年ほど前に入ってきました。30代ぐらいで立派な仕事を辞めて入ってくる人も、しっかり成果を挙げています。
 今村 トマトの規格外品はどうしていますか。
 星組合長 南郷トマトジュースやドレッシングなどの加工品をつくっています。つい先日もトマト、アスパラガスなどのゼリーやプルーンを作って試食会をやり、なかなかの手応えを感じました。
 今村 加工品開発は、くずを一切出さないようなやり方が必要です。1つの農産物から10品目ぐらい作るような、ね。南会津はこれだけ素晴らしい自然があるのですから、トマト以外にも、山の中には宝の山が眠っているのでは?
seri1103040107.jpg 菅家購買部長 管内にはシイタケの原木になるコナラがたくさんあります。今は園芸作物が中心ですが、将来的には自然を生かしたキノコ、山菜などを、加工事業も含めて、しっかりした農業として育てたいと思っています。南会津の自然はどこにも負けない自信があるので、JAもそれを活かして夢のある事業をやらなければいけません。
 小沼総務部長 当JAは、冬の間に売るものがないので、農産物販売高が年間25億円ほどと少ないんです。なんとか冬季の収入を増やさなければいけませんね。雪が売れればいいのですが(笑)
 星組合長 そういう意味では、雪を利用してなんとか販売促進につなげようと思っています。まず1つはキャベツなどの雪下野菜。作業は大変ですが、糖度が高くて美味しいと評判です。もう1つは雪室による予冷です。南郷トマトは雪室で一晩予冷してから出荷するので、常に硬く、色ツヤがよく、通常品と比べて棚持ちもいいと評判です。花卉も雪室で予冷すると日持ちがいい。今以上に、このたくさんある雪を活用したいですね。

(写真)
上:星組合長
下:星専務


◆年間100万人の観光客、いかにつかまえるか

年間100万人以上が訪れる大内宿 今村 北部には、観光地で有名な大内宿がありますね。年間100万人もの来客があるとか?毎日何千人ものお客さんが来て、中には農業や自然に関心ある人もいっぱいいるんだから、これをなんとかしたいですね。
 星専務 大内宿でも南郷トマトジュースはよく売れていますよ。リピーターになってくれたり、ホテルに置きたいという問い合わせも多くあります。
 今村 でもトマトだけでは勿体ない。夏イチゴや、牛を放牧しての舌狩りなど、女性をひきつけるものが必要ですよ。
 玉川金融部長 下郷地区には大内宿以外にも、塔のへつりや、観音沼など景勝地がたくさんあります。一昨年国道289号が開通したので、今は年間100万人を超えているかもしれません。道の駅での直売コーナーなど、観光と農業の融合を真剣に考えないといけませんね。
 今村 やはり販売方法を勉強しなくては。例えば、女性も買いやすいようにお米をペットボトルに入れたり、白米だけでなくアワ、ヒエ、雑穀などと混ぜて売るとか。管内には酒蔵が4つもあるということで水もおいしいんでしょうから、南会津のお米を南会津の水で炊いて食べてください、とセットにした提案型の販売をしてみてはどうですか。
 星組合長 お米については昨年、地元の野岩鉄道のキャンペーンで「ひとめぼれ」を配ったんですが、これが大好評でした。
 菅家購買部長 150gの小袋4000個を無償で配ったところ、大変な効果があって問い合わせがたくさんありました。今年はJA合併15周年ですから、町とも協力して一大イベントをやろうと企画中です。
 星組合長 東京のお米は色々ブレンドしてあっておいしくないから米離れが進んでしまうのではないですか。お米の消費を増やし、水田を守る。そのために都会でもおいしいお米を食べてもらう、という活動をJAグループとしてがんばらなくてはいけませんね。
 今村 JAが攻める姿勢を見せれば、自然と貯金や保険も集まって来ます。今は市町村もカネや気力がない。やはりモノを作って販売するのは、農協しかできません。最終的に重要なのは人材です。JAの中でしっかり職員の個性を見出してがんばってほしいと思います。今日はありがとうございました。

(写真)
年間100万人以上が訪れる大内宿


【現地ルポ】

生産者の意気込みに応える農業振興を


◆雪を売りものに!!

雪室に雪を入れる作業。ひと夏を越しても、大量の雪が溶けずに残る 南会津には雪がある。
 管内東部の田島市街地でも、冬は街中でも最大深度1mを越える積雪があり、山間部では3m近く積もることも稀ではない。この大量の雪をなんとか売りものにできないだろうか。
 それを実践しているのが、今年50周年を迎える「南郷トマト」だ。
 南郷トマトは、管内西部の旧南郷村で昭和37年に栽培が始まった。食管法が健在でコメの生産調整など予想すらできなかった時代、14人の有志が50aの水田にコメではなくトマトを植えるという冒険を試みた。しかし45年に減反政策が始まるとともに生産に参加する人が増え始め、48年には「南郷トマト生産組合」が発足。翌年には販売高1億円、出荷数10万ケース(4kg箱)を突破し、以後は飛躍的に伸びていった。
 平成22年は、夏の猛暑の影響などもあり出荷数は70万ケースを割ったが、販売高は9億8000万円とJAの農産物販売高の4割を占める基幹作物だ。現在、組合員数121人で、作付面積は32.4haだ。
 雪を利用しているのは、平成16年に稼動を始めた選果場だ。ここの予冷庫は、雪の冷気という自然エネルギーを利用した「雪室」なのである。
 雪室の貯蔵量は約1000平方m。南郷トマトの出荷時期は7月上旬から10月下旬までだが、冬から春にかけて貯蔵した雪は、夏の涼しさも手伝って10月下旬まで溶けずに残る。通常の冷蔵庫に比べて遥かにランニングコストが安く、何より環境にも優しい。

(写真)
雪室に雪を入れる作業。ひと夏を越しても、大量の雪が溶けずに残る


◆自然エネルギー活かし販売促進

雪の下に埋もれたキャベツを掘り出す、雪下農業 昭和63年には、独自の技術や土づくりなどの研究開発をめざし、「トマト青年部」を「トマト研究部」に改称。主に40才以下の青年農業者たちが、熱心に研究し、切磋琢磨している。
 厳しい自然条件の中、過去には豪雪によるハウスの倒壊や、低温・日照不足や干ばつによる不作など、幾度となく大きな被害をうけてきたが、そのたびに多くのボランティアなど地域の支えと生産者らの協同で産地を維持してきたという。
 JAでもこういった生産者のやる気にますます応え、さらなる地域発展につながる農業振興策が期待される。
 南郷トマト以外にも、雪を利用した新たな取り組みを模索している。その1つが雪下キャベツだ。
 できてすぐには収穫せず、雪をかぶせて畑の中で保存したものを、雪から掘り出して出荷する。時期をずらした有利販売につながるだけでなく、雪の寒さによって通常品よりはるかに糖度が高く栄養価の高いものができるという。
 通常に比べて労力がかかるため、まだ実践している生産者は少ないというが、これからは自然の恵みを活かした環境にやさしい農業は大きなアピールポイントになる。さらなる取り組みの拡大が期待される。

(写真)
雪の下に埋もれたキャベツを掘り出す、雪下農業

(2011.03.04)