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JAは地域の生命線

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取扱量8万トン 日本一の米集荷JA  JA秋田おばこ(秋田県)

・施設集荷で米をグレードアップ
・手の内明かして底上げ
・加工用米にも評価高まる
・「GAP」にも取り組み

 JA秋田おばこの管内面積は、東京都がすっぽりと入ってしまう広さだという。14年前に20JAが合併して誕生。米の取扱量は8万トンと日本最大の集荷量を誇り、独自販売にも力を入れてきた。農業者に自信を持たせたい、と強調する藤村正喜組合長。米づくりを核に青年層や女性の力をJA運営に発揮してもらおうと人材育成にも積極的だ。

現地ルポ

1万2000戸の米農家が切磋琢磨

日本一の米集荷量を象徴するライスターミナル

(写真)日本一の米集荷量を象徴するライスターミナル


◆施設集荷で米をグレードアップ

ライスターミナル内では残留農薬検査も行い安全・安心を確保 JA管内の農地面積は3万2400ha。このうち水田が9割を超える。JAの米集荷量は22年で8万4000t余り。米の集荷量は日本一である。
 このうち62%が施設集荷、安定供給に応えるボリューム確保とともに、共乾施設による米の均質化で評価を高めてきた。
 それを象徴するのが大仙市に平成16年に建設された「おばこライスターミナル」。収容能力は9600t、16万俵もある。色彩選別、石抜き、均質化などの装置を備えているほか、残留農薬やカドミの自主検査、食味測定も行っている。米はフレコンで低温保管されるがフレコンごとにどの生産者がどう作ったのか、生産履歴がパソコンで確認できる。
 生産履歴記帳はどの産地でも努力してきたことだが、同JAの米生産者は1万2000戸もいる。そのすべてから生産履歴を回収しているのも誇りのひとつだ。

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ライスターミナル内では残留農薬検査も行い安全・安心を確保


◆手の内明かして底上げ

フレコンブ米を低温保管 同JAの米の評価が高いのは、その生産者たち自身の努力の成果である。
 JAは、“我こそは”とうまい米をつくる自信を持つ生産者に対して栽培方法を問わずに「おいしいお米コンクール」を開催している。初回には1500人も参加。食味評価の高かった上位10人が作った「あきたこまち」をJAは1俵2万円で買取り、「匠」と名づけて東京都内の百貨店などで販売している。
 「自分の作り方がいちばんだ、と生産者はみなこだわりを持っている。それならば食味についてはJAが栽培指導するのではなく、どうぞ皆さん競ってください、と始めたわけです」と営農経済部の齊藤武志次長は話す。
 選ばれた「匠」の技、つまり、栽培方法はJA広報誌などで紹介、それを他の生産者が参考にしていくことで栽培技術の高位平準化が進んでいくことも狙いだった。「いわば、手の内を明かしてもらって底上げを図る、ということです」と齊藤次長。管内に14ある支店ごとに複数の米生産部会や研究会があるといい、こうした場を通じて米づくりの技術も共有され広まっていっているという。
 たとえば、食味評価の高かった生産者のほとんどがJAの推進している有機肥料を使っていた。これは米ぬかに大豆かすやナタネかすなどを配合した肥料で、無洗米用として販売している取引先の工場から出る米ぬかを利用しているから、循環型農業の実践でもある。「匠」への挑戦とは、こうした時代の要請にあった農法を産地全体の取り組みにしていくことにもつながっているといえるだろう。

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フレコンブ米を低温保管


◆加工用米にも評価高まる

ライスターミナル内で実施している食味の自主検査 合併以来、JAは販売力強化に力を入れてきた。とくに米は独自販売が集荷量の8割を占めるまでになった。産地としての評価の高さは「産地指定率150%」(22年度)という数字に表れている。実需者からの要望に生産が追いつかないということである。
 栽培技術の高位平準化と供給する米の均質化の取り組みは最近では加工用米にも表れてきている。JA管内には適当な転作作物がないなどの理由で約1800haほどで調整水田・自己管理保全とするしかなかったが、加工用米の引き合いが高まり、そのすべてで生産しても要望数量に不足する見通しだという。おもな販売先は米菓、酒造、加工米飯メーカー。酒造メーカーは、焼酎の米麹用のニーズだ。齊藤次長は最近の急速なニーズの高まりの背景は米トレサービリティ法の施行があると見る。加工用米にも出どころ確かな「安全・安心」が求められるようになった。
 「その点でいえば加工用米も主食用米と何ら変わりのない作り方ですし、生産履歴記帳もしっかりしている。農家の安全・安心への取り組みがようやく評価される時代が来たのかと思っています」という。

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ライスターミナル内で実施している食味の自主検査 


◆「GAP」にも取り組み

 昨年からは、さらに安全・安心を担保するために「GAP」(農業生産工程管理)にも取り組み日本GAP協会の「JGAP」認証取得をめざしている。米だけでなく園芸作物も対象にして広げていく考えで、営農指導員を中心にJGAP指導員を15人育成、これを今年度は20人にまでする方針だ。また、内部監査員も現在の6人を15人にする。行政とも連携して推進協議会をつくり、認証取得を希望する農家、生産法人に対して説明と研修などを行い、最終的には1万2000戸の農家すべてへの拡大につなげたいという。
 同時に担い手の育成と女性の活躍の場の確保のためにも園芸作物振興も課題にしている。ホウレンソウ、アスパラガス、枝豆など10品目を重点品目として推進しており、JAは米の独自販売で開拓した取引先などに「おばこの野菜」として売り込み直接販売、契約栽培などを進める考えだ。
 とくに将来の担い手確保には園芸作物が不可欠としている。管内には集落営農組織が133、農業生産法人が73あり、これら経営体の平均規模は約40haとなり、さらに農地集積が進んでいるという。「米と園芸、畜産をバランスよく組み合わせた経営」をこれからの担い手像に描く。「農業を魅力ある産業に」(藤村組合長)が目標だ。


地域から賛同と信頼を得るJAにしたい


藤村正喜 組合長に聞く

農業者に誇りと自信を持ってもらう


聞き手・今村奈良臣 東大名誉教授

 

藤村正喜 組合長 今村 管内はずいぶん広いですよね。
 藤村 東京都がすっぽり入ります。
 今村 おお、そうですか。
 藤村 東京都は2010平方km、うちは、2014平方kmですから。
 合併前、この管内には14市町村に20JAあったんです。それを平成10年大同合併しました。
 今村 ここは本当に米の産地で、あの巨大なライスターミナルがある。主食用米はもちろん加工用米、輸出用米にもしっかり取り組んでいこうということですね。
 藤村 今年の米の生産計画は147万俵となっていて、日本一の集荷・販売JAです。輸出用米には大手卸と提携し台湾や香港、ヨーロッパにも販売しています。
 ただ、今までは量を追求してきましたが、これからは質に重点を置いて消費者に喜ばれる米づくりをしていこうと取り組んでいます。具体的には減農薬・減化学肥料といったこだわり米づくり、さらにはGAPへの取り組みです。量だけでなく質、安全・安心でも日本一をめざそうと、そこがこれからの根幹になると考えています。

◆     ◆

 今村 ここは東北ではめずらしく集落営農が多いですね。
 藤村 はい。集落営農組織が133、そのほかに農業生産法人が73あります。そのなかでJAの事業と連携しているのは68です。
 今村 そのほかに認定農業者が1433人いると。担い手育成は相当に進んでいるようですね。
 藤村 やはり農業生産の向上が地域づくりの基盤ですから。そのなかでは米が基本になりますが、これからは園芸と畜産をバランスよく組み合わせていこうと考えています。
 今村 その園芸ですが、かあちゃんたちや、ばあちゃんたちの力の発揮の場でもあるというわけですね? 女性大学の開校式、そして卒業式で記念講演をさせていただいて、そのことを痛感しました。
 藤村 そこが結局、女性大学を開校しようと思ったことでもあるんです。
 実は、営農担当専務になったとき、あらゆる生産部会の総会や研修会などに出席したわけですが、園芸部門は女性の参加者が非常に多いのにすっかり感心した。それでこの女性の方々の目を中心にした農協づくりをしたいなと考えたわけです。同時に家の光文化賞の受賞をめざして教育文化活動にも力を入れたところ、めでたく受賞し、いただいた副賞を基金にして女性大学を開くことができたということなんです。
 今村 人づくりという点では青年を対象にした青雲塾もありますね。この取り組みへの組合長の思いも聞かせてください。
 藤村 自分も青年部出身ですが、その時代からやはり自分の農業経営ももちろんですが、これから地域をどうするのかということも考えることが大事だと思ってきました。
 実は議会の議員になって地域づくりをと考える人はいますが、農協の理事になりたいという人がいない。これではいけない、やはり地域を作っているのは農協だろう、と。地域の代表である農協を育てていくんだという青年を育てたいという思いが青雲塾につながったということです。
 この塾では農協の経営とは何かをしっかり勉強してもらうということですし、やはり人づくりですから、青年が成長していくなかで必要な知識も伝えていこうとしています。とくに、今は昔と違ってみなさん一人ひとり、という感覚なんですよ。そうではない、これだけの仲間がいるんだ、ということが大事です。
 だから何も硬い話ばかりではなく、料理教室を女性と一緒にやって、そこで農業や地域について率直な思いをぶつけ合う。そこに農協からの思いもわれわれがぶつけてお互いが切磋琢磨して村づくりを進めていこうということです。
 今村 若い世代がばらばらになってはだめなんですよね。一体となってエネルギーを結集していかない、と。そのためには農協もまたしっかりして新しい路線を出さないといけない。
 最後に全国の皆さんに発信する言葉を。
 藤村 農業者に対してどう自信をどう誇りを持たせるか――、これが課題ですが、これまでの歩みのなかで、やはりいいなと思うものは、協同精神であり相互扶助、お互いが助け合うことであって、これを地域にしっかり根づかせていくことだと思います。そうなれば地域に暮らす非農家の方々もやはりJAだよな、ということになる。賛同と信頼を得られることになるし、そうでなければ組織として成り立たないということを私も課題としていきたいと考えています。

 

女性大学 第2期生が卒業



女性大学 第2期生の卒業式 JA秋田おばこの女性大学の第2期卒業式が3月22日に行われた。2年間の講義を終了したのは101人。校長の藤村組合長は「農業や生活、あるいは文化面でムラで光る存在になってほしい。心豊かな生活に向けてここで築いた連携を切らさずに幸せの輪を広げていってください」などと卒業のエールを贈った。
 講義の内容は野菜の栽培や農産加工をはじめ、介護、伝統文化やさらにファッションや化粧まで多岐にわたっている。同JAの女性大学の特徴は開設当初から年齢制限を設けず、募集人員を100名としたが、1期、2期とも定員を上回る盛況。JAの女性大学でこれだけの規模はあまり聞かない。「私でも大学生になれるんだ、と同じ地域の人を誘い合って参加しました」という声も聞かれた。
女性大学 第2期生の卒業式 家族に要介護者を抱えながら受講を続けた人もいる。非農家の女性の参加もあった。皆勤賞は37人。卒業式後のお祝い交流会では女性パワーが炸裂。出会った仲間だけでなく組合長をはじめ役職員を取り囲みににぎやかな懇談が続いた。
 ある女性はこんな言葉を卒業文集に書き残していた「この出会いを大切に地域の一隅を照らす光になりたいと思います」。

(2012.04.11)