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信用・共済分離論を排す

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単線思考から複線思考へ

―総合JA批判の背景とはその9―
・単線思考から複線思考へ
・地域社会の建設

 これまでの社会形成の考え方は、概ね単線(モノレール)思考であったように思われます。単線思考はアメリカ型思考と言ってもいいかも知れません。
 社会は、昨日より今日、今日より明日へと進歩していくものであり、田舎社会(共同体)から都会社会(機能体)への移行こそが進歩であり、あらゆる面での専門性の追求こそが効率的な社会をつくり出すという考え方です。

◆単線思考から複線思考へ

 これまでの社会形成の考え方は、概ね単線(モノレール)思考であったように思われます。単線思考はアメリカ型思考と言ってもいいかも知れません。
 社会は、昨日より今日、今日より明日へと進歩していくものであり、田舎社会(共同体)から都会社会(機能体)への移行こそが進歩であり、あらゆる面での専門性の追求こそが効率的な社会をつくり出すという考え方です。
 こうした考えは、いわばモノレール型の効率主義と言って良いものです。モノレール型の効率主義は、経済成長のなかでは、何の疑いもなく人びとに受け入れられてきました。しかし、経済が長期にわたって停滞するなか、この考え方に大いなる疑問が持たれるに至りました。いま、農村・田舎社会が見直され、コストのかかる専門性追求一点張りの考え方に疑問が持たれています。
 JAでは、こうしたモノレール型の効率主義は合併によって増幅されてきました。タテ割り事業推進が徹底して進められ、事業の専門性だけが強調されました。一方、共同体の典型である集落組織が軽んぜられ、JAの組織基盤はぜい弱なものになり協同活動の基礎が失われてきました。
 JAは総合事業を営むことにより、(1)地縁・血縁の共同体と利害関係による機能体との融合、(2)組合員の営農・生活面での組合員経済の融合、(3)事業の総合性と専門性の融合という三つの融合を同時に実現できるという優れた組織の特質を持っています。
 共同体と機能体、総合性と専門性は一見すると矛盾するように考えられ、ともすると二者択一の思考をとり易いのですが、それぞれの価値を認めお互いの長所を取り入れていくのが賢いやり方でしょう。


◆地域社会の建設

 共同体の典型の家庭と機能体の典型である会社を結びつけるのは地域社会です。都会生活においては家庭と会社が離れており、地域社会が見えない場合が多くあります。これに対してJAは農家を組合員にしていますが、農家は家庭と会社(農業経営の現場)が接近しており地域社会が日常的に重要な役割を果たしています。
 現在の協同組合原則である「95年原則」の第7原則として「地域社会への係わり」が加わりました。JAでもこれを契機に、経営理念や事業計画のなかに「地域社会への貢献」という文言が頻繁に登場することになりました。
 JAは「共同体」と「連合組織(機能体)」の中間に位置しており、この両方の機能を調整し、農村地域社会の建設に成果を上げて行くことが求められます。
だが一方で、JAは合併によって自らの組織の特質を自覚できなくなり、また特質に基づく特性・優位性の発揮に無関心になってきています。
 合併による経営体強化の代償として、総合JAが持つ特質や運営方法が見失われることになっては、肝心のJA理念の達成はかなわず、これではまさに本末転倒な結果になってしまいます。JAには、折角のこうした組織の特質を活かした取組みが求められます。それは共同体と機能体、専門性と総合性という両極の価値観を同時に考える複線思考が必要な、今の時代の要請に応えることでもあります。

【著者】福間莞爾
           総合JA研究会主宰

(2011.06.23)