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信用・共済分離論を排す

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JAの将来方向をどのように考えるか

・准組合員の逆転
・今後の方向とは

 正組合員数と准組合員数の逆転について、早速、「全国のJAの正組合員と、農業者ではない准組合員の数が、2009年度に初めて逆転。高齢化と後継者不足によって農家である正組合員が減る一方、JA貯金や共済を中心に利用する准組合員が増加。農協の金融機関化が進み、農家を支援する本来の姿から大きなずれが生じている」と新聞が報じました。

◆准組合員の逆転

 正組合員数と准組合員数の逆転について、早速、「全国のJAの正組合員と、農業者ではない准組合員の数が、2009年度に初めて逆転。高齢化と後継者不足によって農家である正組合員が減る一方、JA貯金や共済を中心に利用する准組合員が増加。農協の金融機関化が進み、農家を支援する本来の姿から大きなずれが生じている」と新聞が報じました。2009年度の正組合員数は、前年度比1.1%減の477万5000人、准組合員数は、3%増の480万4000人と正・准組合員数が逆転しました(農水省調査)。早晩こうした状況になり、JAのあり方に関する議論が出ることは、以前から想定されていました。
 ここでの論点は、農協法1条で農協の目的が、「農業生産力の増進」と「農業者の経済的社会的地位の向上」にあるにもかかわらず、JAが准組合員を頼りに金融・共済に力を入れ、本来の農業者の育成をなおざりにしているというものです。この議論は、大規模農家が育たないのはJAのせいであり、農協法を改正して、農協の目的を農業者の育成に特化させよというように展開されます。
 だが、農業やJAの現場では認識が全く違います。農業環境が厳しく、多くの農業者は兼業を余儀なくされ、JAでは、信用・共済事業の収益を使わなければ営農支援の仕事を続けて行くことは困難と考えています。JAが農業に特化すれば農業振興が進むというと言うのは現実無視の空論で、そうであれば、専門農協はもっと隆盛なはずですが、現実の専門農協は軒並み苦戦を強いられ、存立さえままならない状況です。現実は、信用・共済事業の収益があってこそ、かろうじてJAは農家支援の活動ができるといった状況です。
 といっても、一方で准組合員は、あくまでJAの事業利用者であり、JAの准組合員に対するサービスが他企業に対して悪ければJAを利用しません。この点、JAは准組合員に対する信用・共済事業のサービス内容を落としておらず、結果として准組合員は、JAの農業貢献の仕事を認めているのが実情といって良いでしょう。


◆今後の方向とは

 正組合員数と准組合員数が逆転したからと言って、直ちにJAの制度検討が必要とは思われず、その検討には慎重な対応が求められます。しかし、仮に検討が必要になれば、JAの将来方向は、JAが専門農協の方向に特化して行くのではなく、農業者・農家を中心に広く地域の人びとを組合員とする地域農村型の協同組合が現実的な姿でしょう。農業振興は総合JAのなかで、農業生産法人などを包含・育成して行くかたちが現実的と思われます。農政の方向も、従来の「農業基本法」から、消費者と農村にウイングを広げた「食料・農業・農村基本法」になっており、そうした方向を示唆しています。
 また、准組合員への共益権(JAへの運営参加権)の付与は、現状では、JAの現場ではさほど大きな問題になっているとは考えられませんが、中長期的には、検討されるべき課題でしょう。その際は、現場の声を十分踏まえたものとすべきです。
 さらに、JAの准組合員の対策としては、単なる員外利用対策だけではなく、日常的に広く協同活動に参加してもらう取り組みが重要です。JAは政府により上からつくられたという生い立ちから、組合員の自主活動と言う認識が弱く、閉鎖的で地域に開かれた存在とは言い難い面があります。JAでは、常日頃から農家を中心に、広く域住民に必要とされる諸活動を心掛け、JA活動に参加してもらう努力が重要です。

【著者】福間莞爾
           総合JA研究会主宰

(2012.06.28)