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地域と命とくらしを守るため 新たな協同のあり方を探る

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第2回 女性グループが413 幸せづくりの原動力(JAにじ・福岡県)

・女性部ならではの「特権」を活用
・毎日の出荷が「生きがい」に
・仲間を増やせば、視野が広がる、知恵が集まる
・合い言葉は「星の数ほどグループを」

 農業は女性の社会進出が遅れていると言われる。国の調査では、全国の認定農業者に占める女性の割合は3.0%、農協の役員割合は2.5%(ともに平成19年)と他産業に比べると最も低い部類に入る。
 しかし今や就農者の5割以上は女性で、その役割の大きさは誰もが認めている。何より女性が元気な地域は活気に満ちあふれている。JAにじ(福岡県)は女性正組合員比率が約3割、女性総代も全体の2割と女性部がとても元気なJAだ。加工・販売・文化活動などさまざまなグループ活動で女性が地域の幸せづくりを支えている。

仲間を増やせば、視野が広がる、知恵が集まる

毎年8月、耳納の里で大々的に行われる納涼祭

JAにじ(写真)
毎年8月、耳納の里で大々的に行われる納涼祭

【農産加工】
女性部ならではの「特権」を活用

足立友美さん(左)と臼井美千代さん うきは市の加工所を訪れたのはもう日も落ちかけた頃合だった。すでに女性部の人たちは今日の作業を終わらせて家路に着いてしまったかも・・・という不安は、扉を開けるとともに感じたトマトの甘い芳醇な香りが打ち消してくれた。奥では目前に迫ったイベントに向けて、熱心にトマトソースを作る女性たちがいた。
 自己紹介もままならぬうちから「私たちのグループ活動は販売とか売り上げとかが目標じゃなくて、何より地域貢献なんです」と話し始めたのは、加工品販売や直売などに取り組むワーカーズグループの代表ら7人で作る同専門委員会委員長の足立友美さんだ。
 足立さんの所属する「うきはフルーツ愛好会」は果実を使ったドレッシングや焼肉のたれなどを作って販売するグループだ。柿、ナシ、ブドウなど様々な生産者が集まっているのは、農作業の繁忙期が重なってグループ活動が休止しないようにするためだ。
 一方、副委員長の臼井美千代さんの「梨加工グループ 梨八花(りやか)」はナシ生産者が集まり、パイやチップスなどをつくっている。それぞれ考え方は違うが、共通の目的を持った女性たちの自主的な集まりだ。
 両グループとも規格外品を原材料にしている。値段がつかず廃棄されるだけの農産物を買い取り、加工し、地元の人々に販売する地域貢献だ。足立さんは「わたしたちJA女性部には、いい材料を使える、直売所がある、という特権がある。加工販売で消費者と生産者をつなぐ役割を担っている」と自信を持って話してくれた。
松岡ヨシ子さんと人気商品の柿チップス ワーカーズの中には、大ヒット商品を開発し海外にまで出荷しているグループもある。元女性部長の松岡ヨシ子さんがつくった「柿加工グループ」だ。
 規格外の柿を薄切りにし、乾燥させて真空パックした柿チップスは、パリパリした食感ではない半生のお菓子だ。かめばかむほど柿の旨みがにじみ出てきて甘い香りが口に広がる。いくら食べても飽きがこない。
 10月末から12月中頃まで40日間、1日も休まず夜7時から9時過ぎまで作業している。毎年750kg以上を生産し、ほぼ完売だ。作業には毎日7人以上の人手を要するが、「何より大事なのはチームワーク。同じ年代の人たちが、女性部を通じて知り合えて本当によかった」と出会いに感謝している。

(写真)
上:足立友美さん(左)と臼井美千代さん
下:松岡ヨシ子さんと人気商品の柿チップス


【環境】
世代・地域を超えた仲間づくり

女性部長の山下好美さん JAにじは平成13年に女性部を改革し、多種多様なグループを活動の中心においた。
 「星の数ほどグループをつくろう」を合言葉に、一般的な[1]地区別、[2]世代別グループのほか、[3]趣味や文化活動で集まる目的別、[4]加工・直売などに取り組むワーカーズグループ、[5]食農教育などのアグリグループ、と5つに部門分けしてグループづくりを促進した。グループの数は年々増え続け、現在413となった(22年10月)。
 グループ活動をJAの生活指導員とともに支えるのが20人の「文化協力員」だ。
 文化協力員は旧吉井町農協で生まれた。
 福岡県では昭和55年に「自給五・五実践運動」を始めた。[1]野菜をつくり、[2]果物を植え、[3]ニワトリを飼い、[4]大豆を植え、[5]加工品をつくる、という5つの取り組みで家庭の食卓自給率を5割にしようという運動だ。
 しかしJAには運動推進のための生活指導員が圧倒的に足りない。そこで補佐役として、研修などを担当する地域リーダーを育成した。それが文化協力員である。
 現女性部長の山下好美さんも文化協力員に推薦されたことから、JA運動にかかわった。
 以前から環境問題に関心の強かった山下さんは平成18年、マイバック・マイ箸持参運動や、河川の水質改善や土壌改良などにも効果があるEM(=Effective Microorganisms、有用微生物群)菌を使った石鹸づくりなどを行う目的別グループ「環境エコ倶楽部」を設立。地域を越えて同じ問題意識を持つ60人が集まった。現在の登録者数は130人にまで拡大した。
 EM菌石鹸はAコープなどでも販売しているが、肌にも優しいと好評だ。昨年は兵庫県からの注文もあった。
「どんないいことでも、個人で人集めするのは限界がある。女性部の役員をやったからこそ、これだけの仲間と知恵を集められた」という山下さん。これからも活動を広め、世代・地域を越えた仲間づくりをするのが目標だ。
 今、エコ倶楽部で人気なのは季節の野菜や果物を使った「エコ酵素作り」だ。旬の農産物で売り物にならなかったものを集め、成分を抽出して酵素液を作る。そのまま化粧水にしたり、薄めて飲むなど使い方は人それぞれだが、地域の健康増進に一役買っている。

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女性部長の山下好美さん


【直売所】
毎日の出荷が「生きがい」に

水城光子さん(左)と家永幸子さん グループではなく、個人で奮闘する女性も多い。
「ずっと昔からの夢が叶った。いま、毎日が楽しいよ」と笑顔で話す元女性部長の水城光子さんもその1人だ。
 手づくりのお弁当・惣菜を毎日JAにじ直売所「耳納(みのう)の里」や近隣の道の駅などに出荷している。
「自分が作ったものを買ってくれる、喜んでくれるという充実感は何ものにも代えられない」と満面の笑みを浮かべる。
 こだわりは地産地消。毎日、直売所に商品を出荷し、その場で野菜や畜産物を買って帰り、翌日また調理して出す。女性部長を努めていた時からやっていたが、後進に道を譲ってからは活動を本格化。今では毎日40パック以上を出荷している。
 水城さんとともに「毎日、ここに来るのが生きがい」と話すのはイチヂク生産者で現副部長の家永幸子さんだ。最盛期にはほぼ毎日「耳納の里」に出荷している。
 普段の活動は個人単位でも、女性部のイベントは欠かさない。フィリピン、韓国に赴き日本の食文化を伝える活動や、韓国の農協からの研修生をホームステイさせるなどの交流にも積極的だ。
 2人は口を揃えて、「女性部活動で仲間が増え、視野も広がった」と地域や人とのつながりを強調する。水城さんは自身の歩みを振り返って、「女性部の役員をやってると、悪者になったり、ばかにならなきゃいけんこともある。それでもみんな協力してくれて、和気藹々とやってこられたのは本当に嬉しい。一生の財産だね」と語った。

(写真)
水城光子さん(左)と家永幸子さん


【「耳納の里」】
売り上げ10億円を突破!

「耳納の里」生産・流通・販売の総合拠点 女性部や営農活動の拠点になっているのが、平成16年にオープンした「耳納の里」だ。
 同じ敷地内には14年に設立した園芸流通センター、さらにその裏にはおよそ2haの柿園や水田などの「ふれあい農園」が広がる。生産(ふれあい農園)、流通(園芸流通センター)、販売(耳納の里)と営農活動の核がすべてそろっているのが特徴だ。
 ふれあい農園では、年齢や地域を問わずあらゆる農業体験や、柿の木や水田のオーナー募集なども受け入れている。発足当初は年間440人ほどの利用数だったが、毎年新たなイベントやコースを企画し続け、昨年は2300人以上が利用した。それと比例するように耳納の里の売り上げも伸び、6年目となる昨年はついに10億円を突破した。
バイキング形式が人気の「夢キッチン」 耳納の里には、直売所「まんてん市場」以外にも、パン・お菓子・豆腐の各工房、バイキング式レストラン「夢キッチン」と店構えも豊富だ。夢キッチンで使っている食材は、魚介類を除いてほぼ100%地元産。連日、多くのお客さんが訪れる人気店だ。

(写真)
上:「耳納の里」生産・流通・販売の総合拠点
下:バイキング形式が人気の「夢キッチン」


JAの概況
合い言葉は「星の数ほどグループを」

 JAにじ合併前の平成8年には旧3JAで5000人を超える女性部員がいたが、著しく部員が減り、4年後の12年には3500人を割ってしまった。そこで女性部活動の主体を、地域別組織から、従来の地区別、世代別のほか、目的別、ワーカーズ、アグリを含めた5部門のグループ活動へと移行した。これにより女性部は活発化。女性部員の減少にも歯止めがかかり、21年には+12人とわずかだが前年比増に転じた。現在活動しているグループ数は実に413ある。

★JAの概要
◎組合員数:1万523人(正組合員7368人、准組合員3155人)
◎職員数:374人(うち正職員210人)
◎販売品販売高:56億円
◎購買品供給高:45億円
◎信用事業(貯金高):732億円
◎共済事業(保有高):3759億円(すべて22年3月現在)

 

組合長に聞く わがJAの挑戦

JAにじ(福岡県) 足立 武敏 代表理事組合長


JA運動は組合員の幸せづくり
経済・健康・心が豊かになる社会づくりをめざす

◆農業・JA運動の最大の担い手は?

JAにじ(福岡県) 足立 武敏 代表理事組合長――組合長は1.6haほどの柿園を経営されているそうですが、農業における女性の役割の大きさを実感しているのではないですか。
 僕自身がこういう仕事をしているもんだから、うちの営農も95%以上は家内ががんばってくれています。やはり農業、中でもJA運動は女性の力がなければできませんね。というのも営農なら6割以上、日常の家計なら8割以上が女性の裁量だからです。
 例えばJAにじ特産の柿は、枝1つに5?10個ほどのつぼみを春先に摘蕾し、6月下旬からは葉っぱ25枚に対して1つぐらいに摘果します。管内は耳納連山から麓まで美しい柿園がずらーっと並んでいますが、その樹を1本ずつ丹念に見て作業するのはほとんど女性です。イチゴの収穫やパック詰めも女性の活躍が大きいですね。
 家計だって、車とか家とかの大きい買い物は旦那さんの意向が反映されるけど、それ以外はほとんど奥さんの独断でしょ。何を買うか、どこの金融機関を利用していくら貯金するか、管理はすべて女性ですよ。JAの窓口に来られる方も、男女比は1対3ぐらいで圧倒的に多いですね。
 だからやはりJA運動の大きな担い手は女性なんですよ。だけど今まで歴史的に農業は男社会でね、JAの正組合員になってもの申すのは旦那さんだけでした。これではいけん、女性が自由に発言して経営に参画するためにも、まずは正組合員になってもらおうと、平成12年頃から加入促進運動を進めました。今では女性正組合員は2000人を超え、その約3割が女性です。
 正組合員を増やしたら次は総代を増やそうということで運動し、平成12年に56人だった女性総代を、18年に88人、19年には110人と全体の2割にあげました。福岡県で初めて女性理事を登用したのもJAにじです。
 しかしこの運動は当初、あまりうまくいかなかった。私の前任の組合長が2割という目標を掲げたのに、ゼロのままの地域もあったんです。そこで「運動」とはなんぞや、と考え辞書を引いたら「目的を達成するために奔走尽力すること」とあった。達成していない地域の担当者に「どげんした?」と尋ねたら、「女性を出すようにお願いしてるんですが……」と言うんで、「そんなんで奔走尽力しとると言えるか。それは運動と呼ばん」と怒りましたよ。お願いするなんて当たり前、足繁く通って訪問してそれでも無理なら、男性組合員宅を訪ねて「奥さんを正組合員にして、総代にしてください」と頼みこむ。そこまでやるのが運動だ、とね。


◆女性総代増で、総代会も活発に

――女性総代が増えたことで、総代会の雰囲気は変わりましたか。
 平成16年から総代会の議長2人のうち1人は必ず女性を選出していますが、それ以降総代会の内容もがらっと変わりましたね。
 総代会で女性の発言というと、平成10年ぐらいにデイサービス施設などをつくってほしいという意見があったが、それぐらい。あとは全然ありませんでした。
 しかし今や、発言の半分以上は女性ですよ。というのも女性部は自主的に、地区ごとに集まって総代会に向けた勉強会をしているんですよ。そこでJAへの要望や課題をまとめて、必ず各地区から最低1人は発言するんですね。内容は施設改善などの要望が多いですが、やはり事前にしっかり勉強しているだけあって理路整然とした意見を出しますよ。今年の総代会は女性の発言者5人に対して男性はたった2人で、女性の発言の方が圧倒的に多かった。面白かったですね。


◆協同組合運動は痛みを伴う

――まさに、この場合は女性が中心ですが、組合員の積極的な参加がJA運動拡大に繋がっているという印象を受けます。
 
協同組合運動の基本は参加と利用です。だから運動には痛みを伴うんだ、ということを組合員に理解してもらうことが重要です。
 合併当初、9つあった選果場を現在の園芸流通センターに一本化しようとした時、「遠くなる、利用料が高くなる、経費がかさむ、販売価格が安くなる」などあらゆる反対意見が出て、僕も公の場で人格を全否定されるような罵倒も受けました。確かに任期を大過なく過ごし、骨を折らずに済ますのは簡単です。しかしそうしたら10年先に組合員の大事な財産も守れんし、要望も聞けなくなる。今後、どんな社会情勢の変化や困難に直面しても安定した生活を送るために必要なんだ、と説いて回りました。
 例えば、柿を完熟するまで放っておいたら、いつかちぎれて落ちますね。JA運営だって同じです。ちょっと青いうちにちぎって出荷しないと商品にはなりません。JAも今のうち、なんとかやっていけているうちに次代を見据えた対策を打たなくちゃいけんのですよ。
 組合員は確かに痛みを感じることもあります。しかし自分の都合ばかりでは協同活動はできません。他人と痛みを分かち合うことで、いつの間にか自分が恩恵を受けるようになるのが協同組合運動だ、といつも伝えています。
 だけどそれでもJAをほかの一般企業と同列に考えて、他所で農機具や資材を買う人は大勢いますよ。僕の隣近所でも、他のガソリンスタンドに行ったり、部会の役員でも系統外のものを使っている人もいます。それは本当に残念で仕方ないですね。
 だから常日頃から職員、組合員には繰り返し「JA運動は幸せづくり運動」なんだと言っています。JA職員が組合員の満足するような仕事をするのは当たり前です。さらに心の琴線に触れる、感動させるようなサービスを提供して100%利用してもらいましょう、ということです。


◆女性部に入ったら必ず役員に

――今、お話にあった「幸せづくり運動」というのは具体的には?
 僕は「幸せ」というのは、経済的・健康的・精神的に豊かになることだと思っています。そしてそれを、営農事業と生活文化福祉事業という車の両輪で実現するのがJA運動だと思っています。
 確かにJA事業の核は経済事業ですし、僕も若い頃は経済中心の考え方でね、「お金があれば、たくさん売って儲かれば幸せになれる」と思っていました。だけどお金があっても健康を害して、食べたいものも食べられない、行きたいところにも行けないというのは苦しいですよ。さらにお金があって元気でも、家庭内はがたがた、近所づきあいも悪いというのでは、それもまただめ。
 やはりお金があって、健康で、心も爽やか。これが「幸せ」だと。では、それはどうやったら実現できるかと言えば、やりがいのある仕事や活動なんです。だから女性部員には「必ず役員をやれ」と言っています。
 以前は、面倒なことはやりたくないので役員が回ってくる前に辞めるとか、地域まるごと廃止するとか、そういうことが多々ありました。しかし、役員になればやりがいができるんです。僕はよく「人生100ページ」と言うんですが、簡単なことばかりやってたら人生は変化のない内容の薄い本になってしまいます。だけど女性部に入って役員になって、色んな企画をして人集め仲間づくりをすれば、えらい苦労もあるけど充実感や喜びも感じられる。そうするととても濃い内容の本ができあがるわけです。
 忙しい時に仕事をするのはもちろん大切です。だけどそんな忙しさは1カ月もすれば忘れてしまいます。大した記憶に残りません。しかし、ものすごく忙しくても時間をつくって、仲間を見つけたり協同活動すれば10年後でも絶対に忘れません。ものすごくいい思い出になるんですね。
 「幸せづくり運動」は人から与えられるものではなく、自分たちで協同して得る運動なんです。自分のやったことで他人が喜び、その達成感が生きがいになって健康も維持できるし、家族も地域もみんな心が豊かになる。そういう社会づくりをするのが本当の協同組合運動ではなかろうかと思いますね。
 これからはそういう感動や幸せづくり運動を地域や後継者に伝えて、新しいリーダーを育てていくのが課題ですが、いま、女性部がやっているように星の数ほどのグループ活動を広めて仲間を増やす活動が継続されれば、自然と次代は育つのではないかと感じています。JAでも非農家の若い女性向けに女性大学を開くなどして、JAに足を運んでもらうよう働きかけていますが、彼女らにもJAをよく理解してもらってぜひ仲間に入ってもらいたいですね。

(2010.11.02)