シリーズ

地域農業再生へ! JAの担い手・農地対策

一覧に戻る

長野中央会(長野県)・「経営管理支援を視野に農地集積と担い手育成を」

・地域農業のすそ野を広げる
・地域の合意形成による担い手づくり
・JA出資法人による農業支援
・地帯別に課題を明らかに
・専任担当設置し農業経営支援へ

 JA長野県グループは平成21年7月に「JAによる農地・農業管理取組強化方針」を決めた。改正農地法の施行をふまえ、22年度から県内20の全JAで農地利用集積円滑化事業に取り組むことなどを決めた。
 この方針はJAの農業振興ビジョンに「農地・農業管理支援」と「担い手育成」の強化を一体として推進することを明確に位置づけ、また同時に畑作・園芸地帯、担い手不在地域など県内各地域ごとの農業実態に合わせて、それを進める方向も打ち出されているのが特徴だ。
 「取り組みの基本は農業経営の持続をどう図り、産地形成をするか。そのためにJAがどう農業振興ビジョンを描くかが大切」と強調するJA長野中央会の小松正俊専務理事に聞いた。

「地帯別」の取り組みを促進


◆地域農業のすそ野を広げる


JA長野中央会・小松正俊専務理事 長野県の農業産出額の内訳をみると、米18%、野菜25%、果樹18%、きのこ18%、畜産12%と、ほぼ主要品目で均等となっている。
 県内それぞれの土地条件のなかでさまざまに農業が営まれていることが分かる。歴史的には養蚕が衰退するなかで、野菜、果樹、畜産、そして近年ではきのこ生産に力を入れてきた経過がある。
 ただ、農業産出額は米価低迷の影響などで平成3年の4000億円をピークに下落、現在は2700億円(平成20年)までに下がっている。
 こうしたなか耕作放棄地も増え、平成17年で1万7094haと耕作放棄地率は全国9.6%を大きく上回る17.5%となっている。
 現在、販売農家は7万5000戸、うち主業農家は1万5000戸。認定農業者は7000戸と販売農家の1割で、この1割の農家が販売高の7割を担っているという。 県では農業産出額を今後、3000億円水準に回復させることを目標に掲げている。
 「これは主業農家、認定農業者だけでは達成できない。多様な担い手とともに地域農業のすそ野をもう一度広げる取り組みが必要になる」と小松専務は話す。

 (写真)JA長野中央会・小松正俊専務理事

 

◆地域の合意形成による担い手づくり


 そうした地域農業振興を図るために平成21年に県全体で決めたのが「JAによる農地・農業管理取組強化方針」だ。
 同方針で掲げた取り組み強化の柱は5つ。
 その第1は、JAの農業振興ビジョンで農地確保と担い手育成目標を明確にし、その実現計画を立てることである。
 第2の強化ポイントは、そうした担い手への農地集積を進めるための具体的な推進体制づくりだ。
 JAでは職員OBも活用して農地保有合理化指導員、JA担い手相談員、面的集積コーディネーターなどを設置。あわせて行政、農業委員会、県農業開発公社と連携する体制を整えた。
 そのうえで農地所有者の合意形成を図るため、農用地利用改善団体の設立も含めて、地域の担い手の明確化と農地利用集積を進める。担い手の明確化では、当然、集落営農組織づくりが課題になる地域もある。
 こうした担い手づくりを進めるためにも、22年度には改正農地法に盛り込まれた「農地利用集積円滑化団体」に全JAが承認されるよう目標も掲げた。
 22年度に承認されたのは20JA中17JAという実績。残りの3JAでは市町村公社がその指定を受けたがJAとの連携体制は整備されているという。その結果、77市町村中、73市町村で農地利用集積円滑化事業が実施されることになっている。

 

◆JA出資法人による農業支援


 第3の柱はJA出資法人などによる農業経営である。
 担い手不在地域や、畑作・園芸地帯で遊休農地が拡大している地域では、地域での合意を前提に一部出資による法人育成も含めて、JA出資法人の設立を進めることとした。
 JA出資法人設立の目的を農地など地域資源維持・管理と農作業支援、生産量確保による産地維持とモデル農業経営の展開、新規就農者インターン制度などによる就農希望者の研修と育成などとした。
 さらに地域の食品関連業者などとの事業連携による共同出資も視野に入れている。
 4つめは遊休農地の解消対策で、ここではとくに一般企業の農業参入へのスタンスを決めたことが注目される。 地域農業の振興策の一環として企業との連携が必要な場合は、地域の担い手との農地利用や作付けでの調和、共同利用施設の維持管理などの役割、販売などでのJAとの連携、雇用の確保などの合意を前提にする、などをルールにすることとしている。
今後の目標は「ほ場から簿記が見える」経営支援 これまでのJA出資法人など農業法人の状況は、21年度実績でJA出資法人が21(JA子会社が9)、一般企業が33の参入となっている(22年3月末)。
 また、40歳未満の新規就農者は平成18、19年までは年間140〜150人程度だったが、その後は175人、178人と増加傾向にあることも特徴だ。
 そして5つめの柱は園地リース事業の拡大である。
 果樹やアスパラなど永年性作物は育成期間が必要だが、その間に営農からの撤退を余儀なくされる事態となると立木のまま伐採することになりかねない。一方、新規にこうした作物に取り組むには初期投資が必要になる。 園地リース事業はこうした問題を解決し、有効に農地を活用して産地を維持するために、立木も含めて園地を担い手に貸し付ける事業である。これも農地利用集積円滑化事業を活用して行うこととしている。

(写真)
今後の目標は「ほ場から簿記が見える」経営支援

 

◆地帯別に課題を明らかに

JAによる農地・農業管理と担い手育成のイメージ図 上図は以上で紹介した長野県が取り組んでいるJAによる農地・農業管理と担い手育成のイメージ図だ。
 しかし、冒頭でも触れたように県内ではそれぞれの土地条件のもとで米、果樹、野菜などの産地形成をめざしてきた。
 そのため県中央会では農地・担い手対策について県内の状況を地帯別に分析、それぞれの課題を明らかにしている。
 下図がその概要だ。縦軸が農地集積率、横軸が利用権設定率で、県内JAの状況を示している。
 水田地帯のJAでは農地集積率、利用権設定率ともに高い傾向が見られるが、ばらつきも大きく、今後、面的集積を進めるとともに、担い手の育成が課題となる。とくに地域内の多様な担い手による合意形成や集落営農組織づくりがテーマになる地帯だ。県内ではJA上伊那で48の集落営農組織がつくられているのが代表的な取り組みだ。
 一方、野菜地帯は農地集積率が高いところが多く、大規模野菜農家が地域農業を担っていることがうかがえる。 ただ、レタスなどの連作障害対策が課題となっており、その対策として組織されたJA松本ハイランドの出資法人、(有)朝日ホスピタルが先駆的な取り組みをしている。同法人では担い手農家から連作障害が発生した農地を預かり、キク科以外の作物を栽培することで土壌を健康にし担い手に戻すという事業を展開してきている。
 また、図の左下は果樹地帯と中山間・都市部地域が位置する。果樹地帯の対策では基本方針で掲げた園地リース事業による担い手の育成や、果樹団地の再編などが課題になるとしている。

JA管内別の利用権設定率と農地集積率

◆専任担当設置し農業経営支援へ


 「農業経営の持続と産地形成をどう図るかが対策を立てるときの入り口。そのための農地・担い手対策をどう実践するか、が考え方の基本」と小松専務は強調する。
 担い手対策は、認定農業者など中心的な担い手を核にしながら多様な担い手を結集させることが基本。そして、そのための農地利用について地域で合意する仕組みをつくる、ということになる。
 そのうえで今後は、中心的な担い手への経営管理支援にも力を入れる方針だ。JA段階では専任担当者をつくり対象とする担い手にアプローチ、経営コンサルタントまで行うことをめざす。支援のひとつが簿記記帳サービスでそのデータの蓄積から経営計画を立てるように支援する。
 「いわば簿記からほ場が見える、ほ場にいても簿記が見える経営づくり」だという。
 この4月にはJA長野県営農センターに農業経営管理支援センターを設置する予定で中央会段階でもJA支援体制を稼働させる方針だ。

【著者】シリーズ3

(2011.02.21)