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原発事故を考える

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【原発事故を考える 】第2回 正しい「安全」理解に向けて  生協の放射能対策

・増加する問い合わせ
・独自の基準を設定
・調理品での検査も検討
・全品目で検査を実施
・国民的議論の指標に

 原発事故発生から9カ月がたった。事故以降、放射能汚染は目に見えない数値として、特に農作物への影響を及ぼしている。先日は福島市と伊達市の一部地域のコメから、暫定規制値を超える放射性セシウムが検出された。こういった報道が重なるたびに、消費者の国産への信頼はゆらぎ、不安は募るばかりだ。しかし事故後、政府はあくまでも緊急時の基準とする「暫定規制値」を示すだけで、今日までその先の指針や対応は示してこなかったが、先月、ようやく現在の暫定規制値を見直すと発表した。
 こうしたなかで、「国産」や「産直」に力を入れてきた生協は、独自に放射能問題に対応してきている。主な生協のこれまでと今後の取り組みを紹介する。

◆増加する問い合わせ

 日本生協連とパルシステムは、11月30日、都内で開いた会合で、放射性物質問題への対応についての取り組みを説明した。原発事故後、組合員から放射性物質に関する問い合わせが増加。「事故以前はほぼゼロだったのが現在はひと月1000件程度」(パルシステム)、「1カ月に約2000件」(日本生協連)と、消費者の商品の安全に対する敏感で高い不安がうかがえる。


◆独自の基準を設定

 パルシステムでは、組合員の食卓の安全・安心を守ること、日本の農業を応援して東日本の農地・農業を次世代に手渡すことを使命と考え、政府に暫定規制値の見直しを求めるとともに、10月からは独自のガイドラインによる基準を定めた。下表にあるように、設定した品目については政府の暫定規制値の5分の1としている。国の示す暫定規制値は放射線が人体に与える影響の緊急時の基準値「年間5ミリシーベルト」から割り出されているのに対し、パルシステムでは平常時の「年間1ミリシーベルト」という基準値で定めたという。しかしこの指標に留まるのではなく、今後は第2段階指標として、これまで知見のない魚なども含めて対象食品群を拡大し、さらに低い数値の基準を年度内に定めたいとしている。
 また、これまで外部依頼していた自主検査だが、ゲルマニウム半導体検出器2台を導入して、より大幅な検査の拡充を図っていくほか、これまで同様、商品カタログやホームページ、宅配職員による対応などで放射能についての調査結果やQ&Aの発信・提供に努めていくとしている。
 パルシステムの堀田澤義人広報部長は、「1年過ぎたからといって山が越えられる問題ではない。定型化してやっていかなければいけない」として産地の生産者とどのように消費者へ安心と安全の提供をしていくか考えながら取り組んでいきたいとしている。

パルシステムの第一段階指標


◆調理品での検査も検討

 一方、日本生協連では会員生協から依頼された産直品を中心に商品検査センターで放射性物質の自主検査をしているが、独自の基準値は設けていない。政府の基準に沿った対応を基本とし、今後も独自基準の設定は考えていない。しかし今回、暫定規制値の見直しを受け、より低濃度までの精密な計測や測定頻度についての見直しを検討中だ。現に11月からはこれまで50ベクレル/kgだった計測値の検出限界を20〜10ベクレル/kgに下げた。
 これとあわせて、リストアップした汚染リスクの高い産品を原料とする検体の検査や、加工品の原料が新物に切り替わる時期の検査、原料や製品だけでなく実際に食事する状態(調理したもの)での検査の実施で検査体制を強化していく方針だ。


◆全品目で検査を実施

測定器の所定の体積に対して詰め込む検体量を少しでも大きくするため、検体は刻む・潰すなどの一次加工をほどこす。検出限界は「測定時間」と「検体重量」の両方に反比例するため 生活クラブ連合会では、委託による自主検査体制を拡充させるため、9月から2つのデリバリーセンターに食品放射能測定装置を1台ずつ導入し、全品目検査を始めた。結果はすべて組合員ニュースやホームページで随時公表している。
 生活クラブの基準値は国の定める暫定規制値に合わせている。暫定規制値以下の独自基準を設定した場合、万が一、国の暫定規制値以下であってもその独自基準を上回った生産者への損害や風評被害の発生などを考慮してのことだ。しかし、「決して国の基準が安全とは思っていない」。基準値だけを低くして組合員に安全性をアピールしても、いつ、どれだけの品目を網羅して検査されているのか、その中身が不明確な「数値の一人歩き」では意味がない、というのが生活クラブの考えだ。
生活クラブ連合会が導入した測定器「Nal(TI)シンチレーションカウンター」 11月からは品目ごとの検査頻度や優先品目を見直し、測定時間をこれまでの3倍とすることで、検出限界値50ベクレルを目標とした精密な検査を実施している。基準値は国と同じでも、「検査結果は暫定基準値の1/5〜1/10以下の水準」となっている。
 今後は全品検査を続けながら検出限界値をさらに低くすることや、生産者段階、工場以前の段階で検査体制を行っていくことも検討している。

(写真)
上:測定器の所定の体積に対して詰め込む検体量を少しでも大きくするため、検体は刻む・潰すなどの一次加工をほどこす。検出限界は「測定時間」と「検体重量」の両方に反比例するため。
下:生活クラブ連合会が導入した測定器「Nal(TI)シンチレーションカウンター」

 

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◆国民的議論の指標に


 国民の信頼を得られるものとして機能していないのが現在の「暫定基準値」。「食品に含まれる放射性物質の規制値」はどうあるべきなのか――、11月21日、(株)大地を守る会、(株)カタログハウス、パルシステム、生活クラブ連合会の4団体が「食品と放射能問題検討共同テーブル」を開始した。公的基準の見直しを国任せにするのでなく、国民自身の健全な議論に寄与していくことを目標として、共同で検討・提示していくというものだ。
 呼び掛け団体は大地を守る会。これまで被災地支援やフードマイレージ運動などで横の繋がりがあった4者は、原発事故後、それぞれ独自の基準の設定や対応をしてきた。ここではそれぞれの自主基準を統一していくというのではなく、「公的基準に物申していくことで一致」(生活クラブ連合会)している。「(4者の)共通認識は人体への影響の程度がいくつならよいという指標がないという今の現状。これを整理して社会に公表していきたい。もしそれが国の示した規制値と差異がある場合は提言や議論をしていくことも考えている。社会に発表することで国民的な議論を深めていきたい」(パルシステム広報部)としている。
 原発事故による放射能汚染と食の安全との関係については、さまざまな意見がある。国には現在の暫定規制値も含めて、科学的な根拠に基づいた検討をし、多くの生産者と消費者が納得できる指標の早急な提案が求められる。いくつかの数値だけが一人歩きするような事態は社会的な混乱や正常な農業生産への多大なリスクになりかねない。少なくとも国民が数値だけで「安全」を判断するのでなく、正しい理解と知識をもって判断できる体制づくりが重要だろう。

(2011.12.12)