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食肉の新しい文化を築く拠点に―公益社団法人となって― 公益社団法人全国食肉学校・山中 暁学校長

 昭和49年に農水省管轄の社団法人として開校し、食肉に関する総合教育機関として北海道から沖縄県まで全国に2000名の卒業生を世に送り出してきた全国食肉学校(群馬県玉村町)が、この11月1日「公益社団法人」として新たなスタートをきった。
 そこで山中暁学校長に、公益社団法人となった全国食肉学校の目指すものを聞いた。
 インタビューに先だって山中学校長自ら校内を案内し、着任後に手掛けた老朽化施設の耐震補強工事、給排水管の更新、省エネ節電の照明、空調設備の更新や最近増えてきている女子学生へ対応した改修、実習室等給湯熱源の重油からLPガスへのエネルギー転換などを丁寧に説明していただいた。そこには、その後のインタビューにもあるように、学校にかける並々ならぬ熱い思いが込められていた。

知識と技術を合体し新たな発想を

◆食肉に関する情報を広く発信する

公益社団法人全国食肉学校・山中 暁学校長 ――今年の11月1日に「社団法人」から「公益社団法人」に変わられましたが、学校としては具体的に何が変わったのでしょうか。
 「従来の教育事業とか研修事業などについては変わりませんが、公益社団法人になるにあたって、理念の中に“国民の食生活”という文言を入れたように、これからは食肉産業だけの学校ではなく、食肉を食べる国民のみなさんに食肉の知識や食べ方、さらには食肉ができあがるまでなど、食肉にまつわるいろいろなことを知っていただくことも、使命としていくことが公益社団法人としての役割ではないかと考えています」
 ――学生に教えるだけではなく、食肉について広く情報発信していくということですね。
 「最近は生肉問題などで食肉に逆風が吹いていますが、この問題は食肉にリスクがあることを充分に認識していないことによって発生し、食中毒にまでいたったと思います」
 「食肉に限らず食品を取扱うときには、供給する側はきちんとした衛生管理や品質管理が必要ですが、食肉の場合には、それがまだまだ充分に浸透していないのではないかと思います」
 ――それはなぜですか。

 「魚の場合は、日本での食文化としての歴史が長いので取扱いについて経験的に熟知しているので、刺身を買ったら早く帰ろうと思います。しかし、日本における食肉文化は50年?60年くらいしかなく、食肉文化が浅いからだと思います。しかしその反面で、食肉の取扱い方や美味しい食べ方とかはこれから出てくるのだと思います」
 ――日本人は冷蔵庫のない時代から生魚を食べていますから…
 「だから魚はこうしてはいけないとか自然と体得しています」
 「肉の取扱いのキーポイントはここだというようなことが分かってくれば、美味しい肉の食べ方が分かってくるだろうし、料理の方法も魚と同じように豊かになると思います」


◆食肉に携わるすべての人が基礎知識をもつように

 ――この学校は食肉の新しい文化をつくっていく拠点でもあるわけですね。
 「学生たちには、いろいろなチャレンジをして欲しいし、発想力を磨いて欲しいと思います」
 「とくに私が思うことは、食肉は生きた家畜をと畜をして加工し、一つの塊となったものを焼いたり調理をして初めて人の口に入るわけです。ところが、生きた動物をと畜してから口に入る手前までのことがよく分かっていないと思います。そこのところをもっともっと情報発信しなければいけないと考えています」
 「食肉は、枝肉・部分肉・精肉製造というように各段階でいろいろな人の手が関わっていますから、その関わった人びとが関わった場所で基礎知識なり技術を持たないと良い商品はできません」
全国食肉学校(群馬県玉村町) 「肉は筋肉ですから部位によって肉質が違います。その肉にあった切り方があるし、それにあった食べ方があります。硬い肉でもちょっと調理で工夫すれば味がでて美味しくなります。少し黒ずんで見える赤い肉は、よく動かしている筋肉ですから旨味があるので、こう調理したらとか…」
 ――食肉は奥が深い…。
 「食肉は、大きいか、小さいか、厚いか、薄いか、しかありません。それを切るときに斜めに切るのか、繊維に並行に切るのか、直角かで変わってきます。そして大きくても食べられる筋肉もあるし、小さく切らなければ食べられない筋肉もあり、ミンチのように砕かなければならない筋肉もあります」
 「そういう創意工夫をするときに、技術と知識が合体すると新しい発想が生まれてくるわけです」
 「しかし、学校では学べないことがあります。一つは売ることです。もう一つは生産効率つまりスピードです。今日、売上をいくらあげようというときに、それに必要な仕込みはこれくらいで、この時間帯で終わらなければいけない…」
 ――ビジネスの実際の部分ということですね。
 「それは学校を卒業してから学べることです」


◆基礎がなければ高い建物は建たない

食肉の新しい文化を築く拠点に―公益社団法人となって― ――定員は50名だと思いましたが、23年度の学生さんは何人ですか。
 「全部で51名入学しました。そのうち総合養成科が25名、短期コースの食肉販売科が26名です」
 ――どういう人が多いのですか。
 「総合養成科は生産者や食肉業界の後継者ですが、ここ2年くらいの特徴は知識と技術を学んで食肉産業に就職したいという人が増えてきていることです。総合養成科のなかには6カ月の前期コースがありますが、このコースは企業から派遣されてきた人が多いです。食肉販売科はすべて企業からの派遣です」
 ――なかなか学生が集まらない時期もありましたが、いまはほぼコンスタントに集まるようになったわけですね。
 「まだまだ安定した入学状況にはなっていませんが時間をかけて教育の質を高めることで、卒業生が口コミで広めてくれたりすることが大きいと思います」
 「そして、1日とか2泊3日で開催しているFMAセミナーや企業に出向く研修があって、それが評価され継続していることもあります」
 ――評価はかなり高いわけですね。
 「評価はお金を出してくれた企業のためになる人材を少しでも育成できたのかどうかですが、そういう結果はすぐにはでません。結果はでなくても受講した人たちが“これは自分のためになる”といってくれると違います」
 ――継続して社員を学校に派遣してくる企業がかなりありますね。
 「実技を基礎にしてしっかり教育していることが評価されているのだと思います。基礎がしっかりしていれば高い建物を建てられますが、基礎がなければ砂上の楼閣になります。それが教育だと思います」
 ――資格取得についても変わったと聞きましたが…。
 「公共職業訓練の認定を受けましたので、総合養成科、その前期コース、食肉販売科の3つの就学コースすべてが職業訓練の普通過程となりました」
 「資格制度としては、牛・豚部分肉製造マイスター資格と食肉販売技術管理士資格の2つの資格制度があります。最高位のマイスター資格に到達するための段階的な資格をつくり技術者の人びとが目標を設定できるようにしたいと思っています」
 「もう一つは、消費者の立場に立った“お肉博士”という資格ができないかなとも考えています。そのことで製造現場と消費者サイドが体系的につながっていけばいいと思います」
生産者の思い繋ぎ命を継いでいく
 ――最後に、学校長としてのこれからの夢はなんですか。
 「お肉に親しんで、お肉を美味しく食べてもらう。そして“美味しいな”という言葉を発せさせるために、何をするのか。お肉も食料ですから安全なのはもちろんですが、人の口に入るまでたくさんの人が関わりますが、そのすべての人たちが美味しく食べてもらおうと思い取組むことで、技術的にも産業としてもレベルアップできるのではないかと感じています」
 「そのことが生産する側の励みになります。生産者は自分が育てた牛や豚がそのまま食べれるのではなく、加工処理をする過程を経て食べられるわけですから、そこで生産者の努力を損なうようなことをしてはいけない。生産者の思いを繋いで、命を継ぐことで、安全なものを美味しく食べてもらう、そのことにつきると思っています」
 「夢ということでは、ハム・ソーセージ加工分野や家畜飼養分野については大学など研究機関がありますが、食肉に関しては特にと畜などは研究機関がありません。食肉産業の発展のためにも食肉の基礎研究をする施設がほしいと思っています」
 ――ありがとうございました。


全国食肉学校 HP:http://www.fma.or.jp/

           第1回

(2011.12.13)