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グループの総合力で農業活性化に貢献する  住友化学株式会社・貫 和之アグロ事業部長

・国内農業活性化に向けて
・種子から生産資材までトータルで支援
・“売る”支援をさらに拡大していく
・製造業の工程管理取り入れノウハウ蓄積
・JAや周辺生産者と技術を交換
・経営サポートがこれから大事になる
・種子から新農薬まで役立つ製品を開発する

 肥料の製造・販売を創業ビジネスとする住友化学(株)は、いまや世界的に事業展開をする総合化学メーカーだ。農業分野についてみれば、肥料や上市から50周年を迎える殺虫剤の「スミチオン」などの農薬だけではなく、同社グループのさまざまな技術力を活かして生産資材から各種分析や栽培指導まで生産者を総合的に支援する事業を展開している。
 さらに最近は、地元のJAや生産者と提携して実際に農産物を生産する農業法人等を設立し、文字通り生産から販売まで一貫したビジネスも展開している。
 そこで同社の貫和之アグロ事業部長に、同社の戦略などを聞いた。

農業法人経営で栽培技術の知見を蓄積


◆国内農業活性化に向けて

住友化学株式会社・貫 和之アグロ事業部長 ――最初に、最近の日本農業についてどのように見られているか、そうした状況に対して御社としてどのような戦略を考えておられますか。
 「国内農業の実態をみれば高齢化は進んでいますし、耕作放棄地が増えているなど、厳しい環境下にあると思います。そういうなかで農業をどうするかについては、やっと政府から少しずつビジョンが出てきだしましたが、これをもっと明確なビジョンにしていただいて、それをいろいろな関係者の方々が共有化して協力していく必要があると思います」
 「そういう意味では農地の集約化とか、6次産業化などの政策は期待する方向性だと思います」
 「私たちの力で貢献できることを実行していきますし、国内農業の活性化に向けて何かできないかと考え、いろいろな取り組みをしています」


◆種子から生産資材までトータルで支援

 ――具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。
 「住友化学グループとしては、住友化学で農薬・肥料を製造・販売していますが、グループ会社では種子の開発販売や種子を機械で播きやすくする種子コーティング技術から、ハウスのビニール、残留農薬や土壌分析など、種子から生産資材全体を網羅することができます」
 「これをそれぞれの会社が個別に推進するのではなく、トータルで生産者や農業現場を支援することで、生産力の向上とか農業経営が成り立つような支援にならないかと考えています。それを私たちは“トータル・ソリューション・プロバイダー”(TSP)と呼んでいます」
 「とくに最近は、20〜30ha規模の経営ということがいわれていますが、こうした大規模経営を行う場合、農薬や肥料、そのほかの生産資材とか農業機械は変わってくると思いますので、私たちも技術を結集して、そうした要望に合った高性能な生産資材を開発し導入していかなければならないと考えています」
 ――農薬でも同じような発想で取組んでいかれる…
 「従来は、原体開発とか新たな成分の創製などに力を入れていましたが、これからは生産現場での使いやすさとか、効率の良さに配慮した製品製剤技術にも目を向けて、研究・技術陣を拡充してきています」


◆“売る”支援をさらに拡大していく

 ――農業法人の設立はそうした御社のTSP戦略の一環としてあるわけですか。
 「まずは、生産現場の栽培技術や経営ノウハウの蓄積を目標としております。」
 ――いま農業法人は何社あるのですか。
 「いちごを栽培している(株)住化ファーム長野、トマト栽培の(株)住化ファームおおいたと(株)住化ファーム山形。そして経団連未来都市プロジェクトの一環として愛媛県西条市に設立した(株)サンライズファーム西条、ここではレタスやキャベツの実証実験に取組んでいます。そして今年1月からみつばの水耕栽培を行う(株)住化ファーム三重の5社です」
 「そして、日本エコアグロ(株)という生産物を販売するグループ会社があります。この会社は生産法人やJAの生産部会とも提携して生産物の販売を手がけています。このことで、農産物を“つくる支援”だけではなく“売る支援”を行っています。この売る支援をもう少し拡大していこうと考えています。生産物がきちんと売れることで、グループの生産資材も効率的に使われればという期待もありますから…」
 ――農産物の販売まで含めて支援することがTSPというわけですね。
 「そうです。農業法人を設立して実感したことは、地域、作物そして気象変動によって、出来具合とか収穫量が変わることです。そうした違いを超えて、安定的な収量が得られるような工程管理についても、ノウハウを蓄積していきたいと考えています」


◆製造業の工程管理取り入れノウハウ蓄積

 ――具体的に何か取組まれていますか。
 「住化ファームおおいたでは、住友化学の大分工場の製造現場の経験者も農作業に携わっています。彼らは農業は素人ですが、工場でモノを計画的に生産する工程管理の意識を持っていますので、そういう考えを農業でも取り入れようと考えています。つまり、安定した収量を約束した時期に出荷することが農業現場の課題の一つですから、その場その場で考えるのではなく、事前に準備をしていくという工場の工程管理の意識を農業でも活かすようにと取組んでいるところです」
 「農業はどちらかというと、経験と勘に頼ることが多いと思いますが、それだけでは高品質なものを安定的に供給していくことは難しいので、工程管理の考え方を取り入れ、いろいろな知見をデータ化して取り入れていくのが、大分の役割だと考えています」


◆JAや周辺生産者と技術を交換

 ――大分ではJAや周辺の生産者との連携につながってきていると聞きましたが…
 「大分では、実証中である栽培体系モデルをJAの生産部会と勉強会や技術交換会を行っています」
 ――5つの生産農場を経営されているとさまざまなノウハウが蓄積されるわけで、それを開発だけではなく営業場面でも活かしていくわけですね。
 「各地域で、新規参入や若手農業者の育成に取り組まれていますが、“育成”を誰がするのかが重要だといえます。技術の継承などの場面で私たちが蓄積したノウハウを活かした支援とか、地域農業の活性化につながることができればと考えています」


◆経営サポートがこれから大事になる

 「さらに、長野、大分、山形では、30歳代の人を採用して、技術を習得すると同時に、管理能力や出荷から販売といった事業経営までを勉強してもらおうとしています。それを先ほどの大分のように周辺の生産者とも交換して活かしていければいいと思います」
 ――JAも含めて、どう技術支援していくかは大事な課題ですね。
 「オランダが農業立国できたのは技術支援・技術コンサルが大変にしっかりしているからだといえまず。70年代から経営から栽培技術まで有料でコンサルしてきています。ここで大事なことは、技術だけではなく、出荷のタイミングとか複合栽培など経営のサポートをしていることです。
 日本でもこれからはJAの営農指導員さんもそのことが求められるようになるのではないでしょうか」


◆種子から新農薬まで役立つ製品を開発する

 ――最後になりましたが、御社の殺虫剤スミチオンが上市50周年を迎えられるそうですが、これだけ長く生産現場から支持されている薬剤はそうありませんが、それだけ御社の研究・開発力が優れているという証だと思います。そのうえで、国内農業を活性化させるための新剤の開発もあると思いますが…
 「来年以降新規原体として灰色かび病や菌核病に効く殺菌剤を上市する予定です。また、既存原体を活用した新製品として、水稲剤を中心に開発を行なっています。2013から2014年にかけて、水稲用殺虫・殺菌剤、水稲用除草剤等を新たに市場投入する予定です」
 「大規模化にあった肥料や農薬の新製品も上市していきたいと考えています」
 「そのほかグループの住化農業資材(株)種子の開発をしていますがニンジンでいい種子がでてきそうだと思いますし、播種作業や間引省力化に大きく貢献する種子コーディングの技術をもっており高い評価を得ています」
 ――今日は貴重なお話をありがとうございました。

           第4回

(2012.04.24)