シリーズ

時の人 話題の組織

一覧に戻る

農業と科学の調和をめざして  住化農業資材株式会社・榎 清春 代表取締役社長

・多岐にわたる事業展開で農業を支援
・ニンジンを中心に野菜種子に取組む
・安定した発芽率を確保し機械播種を容易に
・露地でもハウスでも効率よく均一に散水

 住化農業資材(株)は大阪に本社を置き、住友化学アグログループの一員として、潅水資材や肥料の農業資材、種子販売や種子コーティングを行う種苗事業など、幅広い事業を展開している。
 本紙が同社に注目したきっかけは、住友化学の貫和之アグロ事業部長がこのコーナーに登場(/series/cat161/2012/cat161120424-16760.html)し、その最後に「グループの住化農業資材(株)で種子の開発をしていますがニンジンでいい種子がでてきそうだと思いますし、播種作業や間引省力化に大きく貢献する種子コーディングの技術をもっており高い評価を得ています」といわれたことだ。
 そこで6月上旬に大阪の本社に榎清春社長を訪ねインタビューさせていただいた。

種子コーティングは野菜生産に欠くことのできない技術


◆多岐にわたる事業展開で農業を支援

住化農業資材株式会社・榎 清春 代表取締役社長 インタビューに入る前に、同社の事業内容について簡単に紹介しておく。
 同社の「会社概要」によればその事業内容は、(1)潅水資材などの農園芸用資材の開発、製造、販売、(2)種子コート・発芽改良の開発、加工受託、(3)種子・苗の育種、開発、生産、販売、(4)肥料・培土・土壌改良材の開発、製造、販売、(5)緑化、造園用施設などの設計、施工、監理と多岐にわたっている。
 住友化学アグリ事業部やグループ会社と協力することで、農業の多くの部分をカバーし支援することが可能だといえるだろう。榎社長からは全般的に事業内容についてレクチャーを受けたが、このなかで本紙が注目したのは、種子と種子コーティング、そして潅水資材だ。紙面の都合もあるので、そこに絞って掲載する。


◆ニンジンを中心に野菜種子に取組む

 ――まず種子事業についてお聞きしたいのですが、具体的にはどういう種子を開発・販売されているのですか。
 「北海道の札幌と九州の熊本に試験農場があり、生産性や食味を重視した野菜の品種を育成し、徹底した品質管理を行って生産・調整したハイクオリティーの種子を全国の生産者に提供しています」
 「種子の開発は、DNAマーカーなども活用しますが、基本的にはこれはと思う品種同士を交配し、そこから選抜してという作業を繰り返し品種改良していくのでこれはという種子が開発されるには10年くらいかかります」
 ――いま中心となっている種子は何ですか。
市場で人気のある愛紅(ニンジン) 「ニンジンです。中心となっているのは、8月1日以降に播種して11月以降に収穫する関東や九州の夏まきと、11月以降に播種して4月中旬以降に収穫する関東や徳島の冬まきの”愛紅”です。多収性で肌のつやがよく市場などで人気のある品種です。その他に春・夏まきの高品質早生の”愛美”(まなみ)や、越冬作型に最適で、鹿児島県などで好評をいただいている”敬紅”(けいこう)など、産地への適応や農家のニーズに応えるための品揃えをしています」
 「ニンジンの作付面積は約1万9000ha強(農水省調べ)ですが、わが社のシェアは九州を中心にその1割強だと思います」
 ――そのほかの野菜では…。
 「レタスとかメロン、さらに白菜についても開発しています」
 「レタスについては長野県に育苗センターがあり、周辺の生産地を中心に、高品質の野菜苗を提供しています。また、株元をワンカットすることで均一な葉が一度にたくさんとれ、すぐにサラダを準備することができる”サラノバ”というまったく新しいレタスもあります。これはこれからが楽しみなレタスです」
 「野菜ではありませんが、長野県の富士見試験農場は花の開発拠点として、トルコキキョウなどの花の種子や苗を開発し提供しています」

トマトの種子

(写真)
上:市場で人気のある愛紅(ニンジン)
下:トマトの種子


◆安定した発芽率を確保し機械播種を容易に

 ――そうした野菜や花の種子をコーティングするというのはどういうことですか。
 「種子にはいろいろな大きさや形がありますが、その表面を天然物成分でコートし、取り扱いやすい形と大きさにすることで、独自技術で開発した”住化式コーティング種子”です」
 「そのことで播種しやすくなりますし、間引き労力の大幅削減とか間引き傷みの減少による秀品率と収量の向上が可能になります。また、わが社でコーティングした種子は粒径揃いがいいので機械播種にも適しています」
 ――ということは自社の種子だけではなく、他社の種子のコーティングを受託しているわけですか…
 「そのとおりです。ご要望に応じて殺菌剤を添加することもできますし、レタスなどは発芽改良処理を行っていますので、発芽適温が広くなります。さらにコート層には通気性、吸水性の調整機能もあるので、安定した発芽率が確保できます」
 「自社でコーティングされる種子メーカーもありますが、住化式コート種子のこうした優れた品質・機能を評価され、多くの種苗メーカーさんから受託しています。国内受託加工市場ではかなり大きなシェアをもち、いまや、国内の野菜生産には欠くことのできない技術になっています」
 「さらに周辺の関連資材として、直播用播種機や育苗トレー用播種機、育苗用培土などの技術集約された特徴ある資材も開発・販売しています」


◆露地でもハウスでも効率よく均一に散水

 ――最後に潅水資材についてお聞かせください。
 「農作物の栽培に水は欠かせないものですが、露地でも施設内でもいかに効率よく、しかも均一に水を作物に供給するかは大事な問題です」
 「わが社の潅水チューブは、例えばハウス向け噴霧散水タイプなら、小さく散水するのか大きく散水するのか、あるいは頭上からの散水かハウスサイドからの散水、葉水やり簡易冷房。水平散水タイプなら上向+下向きにも散水とか株元散水あるいは畝を平面に濡らすとか点滴潅水など、さまざまな潅水スタイルに合わせ、レーザーで穴をあけて、それらの用途に合わせたチューブを提供しています」
露地でもハウスでも用途にあわせ均一に散水する 「長いものでは100m巻というのもありますから、露地でもハウスでもほぼ端から端まで均一に散水することができます」
 「さらにタイマーと給液ユニットの組み合わせで潅水/施肥の切り替えが自動化できる住化式自動潅水施肥システムなど、潅水・施肥作業の省力化、栽培管理の安定化を実現できるシステムなど、さまざまな関連資材を品揃えしています」
 ――最後にこれからの抱負があれば…
 「私たちは、農業の基本である水・土・肥料・種子と苗を根本から科学的に見つめることを通して、農業と科学を調和させ、農業のさらなる発展に役立つような技術や製品を開発してきていますが、これからも生産者や農協の方々、さらに消費者の皆様のご意見を最大限に活かして、農業に貢献できる企業を目指していきたいと考えています」
 ――今日はありがとうございました。



(写真)
露地でもハウスでも用途にあわせ均一に散水する

           第5回

(2012.06.20)