シリーズ

時の人 話題の組織

一覧に戻る

世界で戦える企業をめざして 日本農薬株式会社・神山洋一代表取締役社長

・独自開発新剤と海外市場が好調に伸長
・農業の役割は今後も高くなる
・事業基盤を強化し研究開発に注力する
・国内を基盤に南米などへも事業を展開
・中長期的には異なる農業形態に

 日本農業のおかれた環境は、生産者の高齢化や後継者不足、遊休農地の増加など、厳しいものがある。そうしたなか国内有数の農薬メーカーである日本農薬株式会社は平成24年(2012年)9月期決算で、既報の通り前年度実績を上回る業績をあげた。さらに平成25年度からは「成長戦略の推進」と「高収益体質の追求」を2本柱とする「新中期経営計画」をスタート。さらに平成30年度(2018年)には売上高1000億円企業をめざし、最終的に世界トップ10(売上高2000億円以上)に入る研究開発型企業を目指すという。
 そこで、こうした日農グループの将来ビジョンなどについて、神山洋一社長に聞いた。

グローバル化のなかで
重要さ増す国内農業の役割


◆独自開発新剤と海外市場が好調に伸長

日本農薬株式会社・神山洋一代表取締役社長――御社は好調な決算をされました。その要因は何ですか。
 「2004年以降に発売した独自開発の水稲用殺菌剤ブイゲットや園芸用殺虫剤フェニックスなどの大型剤が国内外で順調に伸長しました。海外では米国の当社主力市場が、旱魃の影響が大きかった中西部ではなく西海岸等であったため、その地域でのビジネスが順調でした」
 「もう一つは、米国販売子会社ニチノーアメリカと残留農薬分析を中心とした日本エコテックの業績が伸長したことです」


◆農業の役割は今後も高くなる

――世界的には食料を安定生産する農業の役割、その農業を支える農薬など生産資材の役割はさらに重要になると思いますが…。
 「人口は2050年に約90億人といわれ、バイオ燃料も依然として需要があると考えると、世界の作物需要は増えていきますが、耕地面積を広げることは容易ではありませんから、生産支援資材の必要性は今後も大きくなっていくと考えています」
 「そうしたなかで海外では、トップ企業はGMO(遺伝子組換え農産物)と大型畑作用の農薬をカバーしていくと思います。そしてどんな大企業でも1社でポートフォリオを完結させることは難しいので、日本を含めて各国の農薬会社が全体のポートフォリオを補完していくと考えています」
 「海外における当社の戦略としては、得意な園芸や水稲分野での伸長を継続しながら、畑作への展開も進めていこうと思います]
――国内では…
 「担い手問題にからむ構造問題、農産物価格の低迷や食習慣の変化などあって、残念ながら微漸減という傾向が続くと思いますが、一方で収量や品質の確保の要請がでてくるとみていますので、引き続き国内における農薬の必要性は高いと考えています。したがって当社は引き続き農家のニーズをきちんと把握しながら、新たな薬剤や技術を提供する役割を担っていきます」


◆事業基盤を強化し研究開発に注力する

――今回策定された中期経営計画「Shift for Growing Global 2015成長へのシフト」、さらに6年後を見据えた日農グループビジョン「Nichino Group-Growing Global 世界で戦える優良企業へ」では、海外にかなりウェイトをおいた事業展開を考えておられると思いますが…
 「新中期計画を策定するにあたって、3か年ごとの一つひとつの計画だけではなく、中長期的な視点のある計画をつくっていかなければいけないと考えました。新たな事業環境をどうとらえて、そこで農薬の新規剤や技術などの新たな価値を提供して農業生産を支援し社会貢献するという企業理念を達成するためには、何をしていったらいいのかと、もう一度ビジョンを見直したということです」
 「有機化合物は有限なもので、世の中にある多くの化合物はすでに農薬としての評価がされています。今後、生理活性のある化合物を発明していくことは、かつては2万個に1個でしたがいまは10万個に1個というように極めて難しくなっています」
 「一方でEUの再登録問題のように登録規制の強化によって新規剤の安全性評価コストが高くなり、開発コストがこの10年間で1.7倍に増大しています。そしていずれ日本もそうなるのでしょうが、既存剤の再登録にもコストがかかるようになり、EUでは登録を断念せざるを得なくなった剤もあって、再登録数は3分の1、4分の1になっています」
 「こうしたことを考え合わせたうえで、当社は売上げの10%を引き続き研究開発投資にし、この投資によって3年に1剤の新規剤上市を達成していこうと考えていますが、いま申し上げましたような創薬環境をみたときにこの投資レベルでは難しいので、もう一段、売上げを伸ばして研究開発費の絶対額を増やして機能強化する必要がある。そのためには、抜本的な収益拡大が必要という結論にいたったわけです」
 「そして今後、世界が主戦場になっていくとすると、世界において開発・販売・普及・生産機能をもう一段強化する。それを支える財務力も必要です」
 「この2点をベースにして従来のビジョンを大きく見直して、さまざまな積極策を展開して収益拡大をはかるべく、大きく舵をきったわけです」


◆国内を基盤に南米などへも事業を展開

――海外市場は米州中心ですが、今後は…
 「日本を含めたアジアと北米やEUに今後も注力をしていきますが、いま一番農薬市場が伸びているのは南米です。すでに現地開発普及員を南米4か国で採用して事業インフラの整備を含めて実施しています。それを核に、事業展開を広げていきたいと考えています」
――そして“世界と戦える企業”をめざしていくわけですね。
 「世界的な大手企業やいま台頭してきているジェネリック企業と各現場ではぶつかっていますから、そこできちんと事業競争ができるような会社になっていかざるをえません。そのために先ほど申し上げた財務力とポートフォリオの強化が必要になってきます。加えて当社の強みである新規薬剤を創出していく。この3つを強化していくことで、世界で戦える会社にしたいと考えています」
――国内市場についてはどのようにお考えですか。
 「当社はあくまでも日本のメーカーですので、今後も事業基盤も収益基盤も日本が中心であり続けます。したがって、国内農業や農家のみなさんのニーズを的確にかつきめ細かく把握し、当社の製品・技術やサービスを通じて農業生産に貢献していきます」
 「研究開発においても日本特有のニーズ、あるいはそのニーズにあった製品や技術開発、既存剤の適用拡大についても引き続き注力していきます。そういう意味で、日本農業に対するスタンスは今後も変わりはありません」


◆中長期的には異なる農業形態に

――日本農業を元気にするためにはどうしたらいいとお考えですか。
 「食料だけではなく世界の作物需要が間違いなく大きくなっていくなかで、日本における安定的な食料の確保という視点でみると、必ずしも常に潤沢にしかも自分たちが欲しいときに輸入させてもらえるという状況だけではないと思います。そういう意味では日本農業の重要性は増してくると思います。一方では高齢化や担い手の問題など構造的な課題と農産物流通のグローバル化が進んでくると考えます」
 「そのなかで中長期的には、一つは日本農業は、米や畑作を中心とした大規模経営になる。二番目は、高品質な日本ブランドを武器にした輸出用作物栽培を進める品質追求型経営。三番目は、自家用の3分野になると思います」
 「こうした形態が異なる農業分野があると想定すると、生産資材供給にしても収穫物流通にしても異なるニーズをもつだろうと思いますし、農地集約も必要になってくると思います。そうなるとその地域と農業を知るJAが、その3つの形態にきめ細かく支援をしていっていただきたいと思いますし、それができるのはJAだけだと思います」
 「そして、私たち生産資材を提供する側も形態が異なる農業形態に合わせた資材提供をしていかなければいけないと思います」
――最後に生産者の皆さんへのメッセージをお願いします。
 「適正に農薬が使用された作物は“安全で品質が高い”」ことに生産者のみなさんは自信をもっていただきたいと思います。私たちメーカーも農薬工業会も消費者に農薬の安全性と有用性について理解を深めていただく活動をさらに強化をします」

           第8回

(2012.12.19)