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誕生物語

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【第2回 「半蔵」 BASFジャパン株式会社】

・田植同時処理を可能にしたユートピア
・抵抗性雑草を撃退するために
・土着吸着性に優れ安定した効果を発揮する
・製剤技術が薬剤の効果を引き出す
・三又の槍をかざして「半蔵」参上

 農産物自身がもつ能力を最大限に発揮させて高い品質を保ち安定した収量を得るために、農薬はいまや欠かせない生産資材だ。いま、生産現場で活躍する農薬は数多くある。その農薬が誕生するには、特定のあるいは一定の範囲の病害虫や雑草の防除に効果がある新規化合物が開発され、新剤として商品化されることが多いが、既存の農薬(商品)に新たな有効成分を加えることで、抵抗性や耐性をもつ病害虫や雑草の防除にも有効となり、従来以上に強力な剤となる場合もある。BASFジャパン社の水稲用一発処理除草剤「半蔵」は、まさにその代表といえる。

1成分加えることで強力な効果を発揮


◆田植同時処理を可能にしたユートピア

 BASF社は1865年(慶応元年)に設立された世界的な化学会社で、1888年(明治21年)に日本市場に接触、その10年後には同社の代表的な染料であるインディゴ・ピュアを日本が輸入するなど、日本とはなじみ深い関係にある。
 農薬の分野では、水稲の大敵であるいもち病と紋枯病の両方を1成分(オリサストロビン)で抑える「嵐」シリーズがよく知られている。
 そのBASFが1997年(平成9年)に農薬登録を取得したシクロスルファムロンとペントキサゾンの混合剤として、田植同時処理ができる除草剤「ユートピア」や「ネビロス・ジャンボ」などの製品を開発し販売を開始する。
 「シクロスルファムロン」は、植物の根や幼芽部、茎葉部から吸収され、植物内での細胞分裂に不可欠な分岐鎖アミノ酸の生合成を阻害することで、植物の生長が停止し、雑草を枯れさせる効果がある成分だ。
 一方、「ペントキサゾン」は、幼芽部や根部から植物に吸収され、クロロフィルの生合成を阻害する。光の存在下で活性酸素を発生させ、膜脂質過酸化による細胞構造の破壊を起こし、雑草は褐変枯れ死する。
 こうした有効成分をもつ「ユートピア」は、田植機にアタッチメントを付けることで田植同時処理ができる剤として販売された。いまでこそ田植同時処理は珍しくもないごく当たり前の技術だが、この当時は登場したばかりの「はしり」の技術だったこともあり、評判となった。
 同時に発売した「ネビロス」はジャンボ剤として話題になったが、両剤とも長期的に効果が持続する(残効性)剤として、またこのころから発生し始めていたスルホニルウレア抵抗性(SU抵抗性)雑草のアゼナ、コナギなどには、ペントキサゾンが効果を発揮したことも生産現場から支持される大きな要因だったといえる。


◆抵抗性雑草を撃退するために

 しかしその後、九州を除いた全エリアでイヌホタルイのSU抵抗性雑草の発生が増加してくるのだが、ユートピアは必ずしも十分な効果を発揮することができず苦戦を強いられるようになる。
「半蔵」 さあ、どうするか。社内でさまざまな角度から検討がはじまる。ホタルイを含めてSU抵抗性雑草に効果がある新規化合物が開発されればいうことはないが、開発には10年以上の時間と莫大な経費がかかる。開発されるにしてもそう都合よいタイミングで誕生してくるわけでもない。
 そこで「ユートピアに何を加えたらいいのか」を検討したと、同社の化学品・農薬統括本部農薬事業部で水稲関係のマーケティングを担当している水野純一さん。
 そこで登場したのが、植物の根部、幼芽部や茎葉基部から吸収され、伸展する雑草の新葉を白化させ、生育の抑制・枯れ死に至らしめる「ベンゾビシクロン」だ。「ユートピアの穴を埋めるにはちょうどいい組み合わせ」だったという。


◆土着吸着性に優れ安定した効果を発揮する

 2004年から公的試験を開始するが社内事情から一時中断し09年から開発が再開され、10年12月に農薬登録を取得し、11年から水稲用一発処理除草剤「半蔵」(1kg粒剤)として販売が開始される。
 「半蔵」は、シクロスルファムロンとペントキサゾンにSU抵抗性雑草に高い効果を発揮するベンゾビシクロンを加えたことで、いま全国で問題となっているホタルイ、コナギ、アゼナ類のSU抵抗性雑草に安定した効果を発揮すること。さらに、この3成分とも土着吸着に優れた特性を持っており、そのことが長期間安定的な効果を発揮すること。そしてユートピアと同様に田植え同時散布機により移植時処理ができるという省力化にも貢献できるという特長をもっている。


◆製剤技術が薬剤の効果を引き出す

 半蔵の製剤開発にも携わり現在は製造を担当している鈴木宗浩さんは、「この3成分を田植え同時処理剤として最適化するためには、有効成分以外の副資材や製剤の粒径、有効成分の大きさなど、製剤化に特別な工夫が必要だった」という。
 なぜか。半蔵の3つの有効成分はいずれも土着吸着性に優れており「しっかりした層をつくる」が、そのためには均等に散布されないとムラになる。
 それを防ぐためには「粒剤の面あたりに落ちる数を増やす必要」があり、できるだけ細かい粒にした方が広がりやすくムラなく「しっかりした層」ができるからだ。
 「薬剤の効果をどれだけむだなく引き出すか」が製剤の腕のみせどころだと鈴木さん。「生産現場で散布するのが楽になることは、製剤がそれだけ苦労している」のだとも。
 農薬が対象病害虫に的確に効果を発揮するためには、有効成分の研究・開発や複数の有効成分を組み合わせることでより有効性を発揮させることはもちろんだが、生産現場での省力化を実現し、効率よく効果を発揮させる製剤技術の役割も大きいということだ。


◆三又の槍をかざして「半蔵」参上

 製品化され販売に当たって大事なことの一つに商品名をどうするかがある。
 ユートピアが推進してきた田植同時処理のイメージを継承するのか、新規開拓を前面にだしたイメージにするのか社内でいろいろな意見があったが、最終的には社内公募を経て「半蔵」に決まった。
 歴史上有名な服部半蔵は「2代目」で槍の名手で誠実であることなどが、ユートピアの後継で、雑草を的確に防除し、生産者の信頼を裏切らないといったイメージに重なることが命名の由来だ。
 半蔵を紹介する冊子などには、三又の槍を構える服部半蔵の凛々しい姿が使われているが、三又の槍の穂先は、3つの有効成分を含んでいることと、SU抵抗性雑草の撃退、省力散布、安定効果という半蔵の一発処理の3つの特長も表している。
8条田植機で田植同時処理 実際に半蔵を使用した生産現場の評価はどうなのだろうか。
 11年(平成23年)は田植え後に天候不順だった地域が多かったが、石川県でも半蔵を田植同時処理した翌日から多量な降雨が続き、ほ場から湛水した水があふれ出すオーバーフローが起こった。しかし、半蔵を散布したほ場は、難防除雑草のオモダカに対して、慣行薬剤に比べて高い効果があった。
 また兵庫県のある地域では、水持ちの悪いほ場での半蔵の効果が良かったと生産者に満足されたという報告もある。これは、半蔵の3有効成分のすべてが土着吸着に優れているからだといえる。
 水稲用除草剤は各社からさまざまな製品が発売されまさに「戦国時代」の様相を呈しているが、半蔵が三又の槍をかざして、勝ち残ってくるのは間違いないだろう。

(写真)
8条田植機で田植同時処理

「半蔵」の殺草スペクトラム

           第2回

(2012.10.31)