シリーズ

遺伝子組み換え農産物を考える

一覧に戻る

誰のため何のための遺伝子組み換えなのか?

・途上国が4割
・安全性と表示
・環境とGM
・収量は増加

 昨年の食料危機は各国で食料増産が必要なことを改めて示したが、世界の人口増加を考えると遺伝子組み換え技術(GM)が食料供給にとって不可欠との指摘も盛んになってきた。
 実際、GM作物の栽培面積は年々増えている。それとともに自給率の低い日本への輸入も増えているのが実態だ。一方で、GM作物への安全性については国民の不安も根強い。遺伝子組み換え作物をどう考えればいいのか。シリーズで考える(不定期連載)。

遺伝子組換え農作物栽培国◆途上国が4割

2008年の日本への輸入状況 病害虫や干ばつに強い、あるいは特定の除草剤に抵抗性を持つなどの作物に改良するために特定の遺伝子を組み入れるのが遺伝子組み換え技術だ。世界で初めてGM作物が販売されたのは1994年。
 その後、96年から除草剤耐性の大豆などの本格的な栽培が広がり、08年では25カ国で商業栽培されている。
 栽培面積は1億2500万haに達した。日本の農地面積の約27倍。世界の耕地面積の8%を占めるまでになっている。
 栽培面積の第一位は米国。アルゼンチン、ブラジル、インド、カナダと続く。開発途上国の栽培面積も増え現在約5450万haに達しその割合は44%となった。
増える輸入
 GM作物の安全性審査には「食品としての安全性」、「環境への影響」、「飼料としての安全性」の大きく3つのチェックがある。
 現在、食品としての安全性が確認されているのはじゃがいも、大豆、てんさい、とうもろこし、なたね、わた、アルファルファの7作物98品種(21年4月末)。申請を受けた厚生労働省からの評価依頼を食品安全委員会が審査する。
 審査の基準はOECD(経済協力開発機構)が1993年に示した「実質的同等性」という考え方。そのGM食品がこれまで人間が食べてきた食品と「実質的に同等とみなせるかどうか」である。
 GM食品にはJAS法と食品衛生法によって表示義務がある。ただし、食用油やしょうゆなどは加工の過程でGM由来のタンパク質が分解されてしまうため現在の技術では検出できないことから表示不要となっている。
 表に示したように自給率の低い日本は1600万tのとうもろこしを始め大豆、なたねなどをほとんど輸入に頼っている。輸入先は米国やカナダ。前述したようにGM作付け世界トップクラスだから、日本はGM作物を多く輸入していると考えられる。
 
◆安全性と表示

 表示にはGM作物と分別管理されたものには「遺伝子組み換えではない」と表示できる。ただし、5%までの混入は認められている。また、この表示は消費者の知る権利を守るための制度で「GM食品が危険だから表示するのではない」(筑波大学遺伝子実験センター・鎌田博氏)との指摘もある。
 飼料としての安全性は農林水産省の評価依頼を受けて食品安全委員会が審査する。飼料を通じた人への影響も確認される。ただし、飼料には表示義務はない。
 こうしたことから消費者団体から例外のない表示制度とするべきだと意見も根強い。
 
◆環境とGM

 環境への影響は、GM作物の栽培が生物多様性を確保できるかどうかを審査する。国際的枠組みを決めたカルタヘナ議定書に基づきわが国は04年にカルタヘナ法を制定。農水、文科、環境の3省が関わる。
 現在認可されているのは10作物。輸入されたなたねが輸送途中にこぼれおちて発芽し環境に影響を与えないか問題にされているが、こうした環境影響を審査する(なたねは認可申請されていない)。 認可されれば国内で商業栽培が可能。サントリーが開発した青いカーネーションや今月発売のバラはカルタヘナ法による認可を受けたものだ。しかし、食品では生産者の不安も強く国内で栽培されていない。
 
◆収量は増加

 米国農務省のデータによると1998年の反収にくらべて大豆、トウモロコシは09年に10〜20%近くまで上昇した。一方、GMを導入していない小麦に反収の伸びは見られない。豪州では2年続き(06、07年)の干ばつでGM小麦の導入が検討されていることは本紙でも東大・鈴木宣弘教授が紹介している。
 一方、GM研究の必要性は認めるものの、安全性への不安は国内では強い。食品安全委員会の20年調査でも「不安を感じる」が依然58.5%に達している。
 次回から技術と可能性、安全性、表示などの論点別に考える。

 

 

生産者、消費者など市民が議論
―北海道の取り組み

遺伝子組換え食品を食べることへの不安
 北海道では05年に都道府県で初めて「遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」を制定した。
 GM作物の開放系での栽培(一般ほ場での栽培)によって一般作物との交雑、混入が起きれば生産・流通上の混乱が生じ、周辺生産者や地域農業全体への影響も懸念されることから厳重な管理ルールを定めた。
 03年の北農研センターによるGMイネの試験栽培の実施や、これと前後しての生産者のGM大豆栽培公表などの動きに対して消費者、生産者から不安や反対の声が上がったことがきっかけだ。一方で、信頼される北海道ブランドを確立しようと食品全般の安全・安心を確保するための「食の安全・安心条例」の制定に向けて検討が進められていた。GM条例と同時に制定されたこの条例では環境との調和に配慮したクリーン農業(減農薬栽培など)、有機農業の推進を掲げた。GM作物が一定のルールもなく栽培されればブランドイメージに影響するのではとの危惧もあった。
 専門家だけなく市民も加わった検討会では推進の立場と慎重論が出たが、研究は必要だが商業栽培は慎重に進めるべきとの立場から開放系での栽培は(1)試験栽培は届出制、(2)一般栽培は許可制とする内容で制定した。
 道庁は条例制定後もリスクコミュニケーションに力を入れている。また、交雑防止のための栽培に係る基準などの検証も続けている。道庁によるこうした取り組みでGM作物についての認知度は高まっていると思われるが、08年の道民意識調査では研究開発は必要だという意見は多い反面、GM食品を食べることに不安を感じる人は依然として8割にのぼっている(上図)。
 07年には全道から公募で選ばれた市民によるコンセンサス会議を開催。専門家や経済界などの意見も聞きながらGM栽培をめぐる論点や課題を明らかにし市民提案をまとめた。委員には生産者もいた。
 提案では「クリーン農業の推進こそ望ましい」とする慎重派と「生産者の負担軽減と食料危機を考えれば導入すべき」といった肯定派の意見を両論併記し、今後も徹底的に議論する場を設けることを提案しつつ、道民の合意が得られない段階では商業栽培に踏み切らないことを提言した。 「一人ひとりが自分の問題として捉える」としたこうした会議の取り組みは今後も注目される。

【著者】シリーズ(1) 技術と可能性、安全性と知る権利

(2009.11.10)