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遺伝子組み換え農産物を考える

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少ない資源利用で高収量実現をめざす  モンサント・カンパニー

・日本で認められなければ商品化しない
・地域のニーズに合わせてスタックを開発
・開発コンセプトは「持続可能な農業」
・力を入れているのは高収量と乾燥耐性

 遺伝子組換え(GM)作物の開発は米国やEUの企業そして中国などで、さまざまに研究され開発されてきている。そして今後もその勢いは止まることはないだろうと思われる。そこで、日本で認められたGM作物を開発しているメーカーに、今後の開発方向などを取材していく。第1回目はGM作物のトップランナーであるモンサント・カンパニー。

◆日本で認められなければ商品化しない


 日本で現在認められているGM作物(「安全性審査の手続きを経た遺伝子組換え食品」厚労省食品安全部、平成23年3月18日現在)は、表1のように158品種ある。
 対象品種ではトウモロコシがもっとも多く約6割を占めている。メーカ別に見ると、ダウケミカルとの共同開発を含めるとモンサント・カンパニー(以下、モンサント社)が57件・36%ともっとも多い。
 除草剤「ラウンドアップ」(日本では日産化学が輸入販売)でも知られるモンサント社は、GM種子開発のトップメーカーであり、米国のセントルイスに本社を置き、年間約1兆円(105億米ドル、2010年)を売り上げている。
 GM作物については「モンサントでは日本は輸入国として重要なので、米国、カナダそして日本で認可がとれたら商品化する」。(日本モンサント株式会社広報部長)という。

GM承認数

 

◆地域のニーズに合わせてスタックを開発


 除草剤耐性の「ラウンドアップ・レディー大豆」や「ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ」、害虫抵抗性トウモロコシの「MON810」など、モンサント社の代表的なGM作物をあげれば切りがない。
 GM作物開発の当初は、除草剤耐性や害虫抵抗性が中心で、除草剤耐性では大豆・トウモロコシ・ナタネ・綿が、害虫抵抗性ではトウモロコシ・綿が商品化されてきた。
 トウモロコシの害虫抵抗性といても、チョウ目やコチョウ目など、害虫に合わせたGM開発がされている。
 ネキリ虫に困っている地域もあれば、虫害がほとんどない地域など、地域によって異なるニーズに合わせて開発することで生産者にとって「コストパフォーマンスの一番よい商品を提供していく」ことができるので、例えばブラジルでは大豆の虫害が増えているので、そのニーズに合わせて害虫抵抗性大豆の開発を進めている。
 そして最近では除草剤耐性+害虫抵抗性とか、複数の除草剤耐性+複数の害虫抵抗性を組み合わせたスタック(掛け合わせ)製品が増えているのが、モンサント社に限らずGM商品の世界的な傾向だといえる。
 スタックは、一部に遺伝子操作でつくるものもあるが、基本的には、除草剤耐性作物と害虫抵抗性作物など、異なる形質をもつものを「交配」してつくるのだという。
 なぜスタックにするのか。1つの作物に複合的な特性を付与することで、生産者の多様なニーズに応えていくためだ。
 また現在スタックの中には、同じ種の害虫に対して効果を発揮する異なる2つの遺伝子が入っているものもある。農薬では同じ薬剤や成分を使い続けると抵抗性を持つ虫や雑草が発生するが、それと同じことがGMでも起こる。そのときに複数の遺伝子が入っていると「抵抗性を獲得する確率が低くなるという効果も期待できる」という。

 

◆開発コンセプトは「持続可能な農業」


 今後のモンサント社の開発のコンセプトは「持続可能な農業」に取り組んでいくことだという。それは世界的な人口増加と食料需要拡大に農業が応えるためには、「収量をあげる」ことが必要だ。しかし「緑の革命」では肥料などを多く投入することで収量をあげることをめざしたが、今後は「使う資源をできるだけ少なくしながら収量をあげていく」ことをめざす必要があるというものだ。
 そうしたコンセプトにたった今後の開発方向は、大きくは「農学的ベネフィット」「収量増・環境ストレス」「付加価値形質」の3つの分野がある。
 「農学的ベネフィット」は、これまでの路線の延長線上にあり、「虫の種類を増やしたり、新しい除草剤への耐性を持たせたり」するなど「基本の特性を維持し、さらに強化」していくものだ。
 同社の研究開発パイプラインは開発以後の段階を4つのフェーズに分け、第4フェーズに入れば商品化が近いことになる。農学的ベネフィットでは、トウモロコシで2つ、大豆で2つが第4フェーズに到達していた。

 

◆力を入れているのは高収量と乾燥耐性

収量の増加により、資源の利用効率が改善


 そしていま力を入れている分野が「収量増・環境ストレス」。「高収量大豆」「高収量トウモロコシ」など、単位面積当たり収量をいかに増やすかが「収量増」のテーマだ。
 「環境ストレス」の代表は「乾燥耐性」だ。現在、「乾燥耐性トウモロコシ」が第4フェーズまで進んできている。さらに「生産者から多くのニーズがあがっている」「乾燥耐性小麦」の開発が始まったという。
 このほか「窒素有効利用トウモロコシ」というのもある。これは窒素の利用効率をたかめ少ない肥料で栽培できるようにしようというものだ。
 表2はGMによって収量をあげれば資源の利用効率があがることを示したものだ()。単位面積当たり収量が増えるということは、同じ収量を取るために必要な面積は少なくてすむからトウモロコシの土地利用は「マイナス37%」になる。「土壌損失」は除草剤耐性作物によって、雑草防除のために耕起する必要はなくなったからであり、「灌漑用水利用」は、ネキリ虫抵抗性作物の開発で、根が虫に食われないので、根が強く張れ水分吸収が効率的なり、水の使用量が減るという計算だ。
 こうした新たなGM作物の開発などによって、例えば、米国のトウモロコシ生産量を2030年には10年の倍にすることをモンサントは目標としている(図1)。

GMによる生産性の向上(米国のトウモロコシ)

)この表は、生産者、モンサントやシンジェンタなど農業関連ビジネス、食品産業、小売業、自然保護団体など関係者が連携し、農業の持続可能性を実現するためのサプライチェーンシステムの構築に取り組んでいるグループ「Field to Market」(ほ場から市場へ)が試算した。

           シリーズ(8)  メーカー編(1) モンサント・カンパニー

(2011.06.22)