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遺伝子組み換え農産物を考える

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農薬含めた総合的な技術提供で食料生産支える

・GMトウモロコシ開発に積極的に取り組む
・複数の形質持つスタックは“当たり前”
・より高いパフォーマンスの実現めざす
・優れた種子をどれだけ持っているかが大事
・GMは万能ではない

 日本で認められているGM作物を開発しているメーカーに今後の開発方向などを聞く、メーカー編の第2回は、世界90カ国以上で農業関連のビジネスを展開しているシンジェンタにGM開発について取材した。

GMトウモロコシ開発に積極的に取り組む◆GMトウモロコシ開発に積極的に取り組む

 シンジェンタはスイスの本社を中心に世界の90カ国以上で、農薬・種子・ローン&ガーデン事業など農業関連事業を展開し、農薬事業では世界トップ、種子事業では世界第3位の実績(2010年度)をあげている。
 最近、農薬事業と種子事業の統合を発表したシンジェンタ だが、日本のシンジェンタ社は昨年先んじて事業を統合し、農薬事業から花や野菜の種子・苗など幅広い事業展開を行っており、多くの農協や生産者にはおなじみの企業だといえる。
 日本では商業栽培が行われていないのであまり知られていないが、種子事業の一環として遺伝子組換え(GM)作物の開発にも、トウモロコシを中心に積極的に取り組んでいる。日本で認められているGM作物は6月時点で160品目、そのうちトウモロコシが95あるが、その半数を超える49がシンジェンタの開発によるものだ。
 表(下)は、今年に入って日本で認められたGMトウモロコシをまとめたものだが、25種のうち18種までがシンジェンタの開発で、同社のGMに対する積極的な姿勢がみてとれる。

(写真)
シンジェンタ ジャパン社中央研究所神座サイト(静岡)のGM展示ほ場


◆複数の形質持つ「スタック」は“当たり前”

 そしてこの表で注目して欲しいのが、25番目のモンサント社の乾燥耐性トウモロコシを除いたすべてが複数の遺伝子形質をもったスタックといわれるものであることだ。
 スタックとは、例えば除草剤耐性の形質を持ったGMトウモロコシ(シングル)と害虫抵抗性の形質をもったGMトウモロコシ(シングル)を、通常の品種改良を行うのと同じように交配することで、除草剤耐性と害虫抵抗性の両方の形質を持つことができるようになったもののことをいう。
 そのことで、生産者は雑草と害虫をまとめて防除することが可能になり、より効率的に生産をすることができるようになる。
 スタックは当初はグリホサート除草剤に耐性を持ったものと、トウモロコシ栽培にとってもっとも厄介な害虫であるアワノメオガに抵抗性のあるGMトウモロコシを交配したものだった。そして、米国のように大規模に農業生産するところでは、これは「いまや当たり前のこと」になっていると、シンジェンタジャパンの坂本智美コーポレートアフェアーズ部長はいう。


◆より高いパフォーマンスの実現めざす

 そして最近は表のように3種とか4種を交配したスタックが多くなってきているとも。
 トウモロコシにとっての害虫は、アワノメイガのように茎や雌房(子実が入っている房)の内側に入り込み作物を食い荒らすものだけではなく、土の中にある根を食い荒らすネキリムシのようなやっかいな害虫も存在する。
 これらの害虫の被害は、気づいたときには作物自体が収穫できなくなってしまう可能性が高いので、これら複数の害虫に抵抗性を持ったスタックを作付けすることで「より高いパフォーマンスを得られる」と生産者に受け入れられている。
 また、農薬と同じように、同じGMトウモロコシを栽培し続けると、虫が抵抗性を持つようになるので、Bt11とTC1507というように、アワノメイガに効果がある2種類の遺伝子を使うことで、そうした害虫の発生を抑制できる。
 さらに米国では、害虫抵抗性GMトウモロコシを栽培する場合、緩衝区を設け、そこには非遺伝子組換えトウモロコシか除草剤抵抗性のみを持つトウモロコシを作付けすることになっている。なぜなら、GM区で抵抗性を獲得したと思われる害虫が、緩衝区にいる害虫と交尾しても、GM区で獲得した抵抗性遺伝子は劣性なのでその遺伝情報を子孫に伝えられないからだ。
 その緩衝区は単一遺伝子(シングル)の場合は作付面積の20%と決められているが、複数遺伝子(スタック)の場合は小さくできるので、生産者にとってはそれだけ多く収穫できることになることも、スタックが受け入れられている大きな理由だといえる。


◆優れた種子をどれだけ持っているかが大事

 GM作物の普及には「どのような遺伝子を組み込む」かとか、技術的なことだけではなくて、「どれだけ優良な種子を多く持っているか」が大事だと坂本部長はいう。
 トウモロコシにも、日本の稲にコシヒカリがあり、ひとめぼれやあきたこまち、日本晴れがあるように、いろいろな品種がある。さらに早生だったり晩生だったり、乾燥した土壌に強いとか、地域の特性にあった品種もある。そうした多様な品種の種子に遺伝子組換えを施すことで、多様な地域の多様な生産者のニーズに応えていくことが、種子メーカーのビジネスだということだ。


◆GMは万能ではない

 シンジェンタではさまざまなスタックの開発計画を進めているが、それで雑草や害虫の防除が必要でなくなるわけではない。グリホサート耐性とは、雑草防除のためにグリホサート剤を散布しても、雑草は枯れるがトウモロコシは枯れないということで、雑草防除は不可欠だ。
 また、トウモロコシの害虫はアワノメイガやネキリムシだけではない。カメムシやアブラムシ類もトウモロコシの栽培にとっては害虫だが、これらはアワノメイガのように作物の内部に入り込んで被害を及ぼすことはないので、目視した段階で防除することができる。これらの発生が確認されれば、当然、農薬による防除が必要になる。
 つまり、「GMは万能ではない」。農薬などによる防除を含めて総合的に栽培管理することで、より品質の高い作物を、より多く収穫ができることになる。
 シンジェンタは農薬では世界のトップ企業だ。そうした「農薬や遺伝子組換えなど生産者のニーズに合せた最適な技術を提案する」ことがこれからもシンジェンタがめざす方向だと坂本部長は強調する。

2011年2月から現在までに厚生労働省の安全性審査手続きを経た遺伝子組換えトウモロコシ

           シリーズ(9)  メーカー編(2) シンジェンタ

(2011.08.17)