シリーズ

時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

一覧に戻る

(23) サラリーマンより有利と思える大胆な支援策を

自給率50%への課題
耕地利用率 どう上げる?
どこの農地でどういう営農を展開するか

12月2日、カロリー表示食料自給率を、10年後50%に引き上げるようにする、という工程表が農水省から発表された。
 462万haの農地を確保、米粉用米、飼料米、裏作麦、及び大豆などで水田をフルに活用し、耕地利用率を110%に高めることが主内容になっている。現在は周知のように40%の自給率だが、米消費増で+1.3%、米粉で1.4%、飼料用米で0.1%、小麦で2.5%、大豆で1%、野菜生産増で0.5%、牛乳・乳製品増で1.5%、芋、果実などで1.4%、油脂消費増で0.3%、計10%の引き上げが目論まれている。09年1月末に食料・農業・農村政策審議会に現行基本計画見直しを諮問、本格的検討に入るという。

◆自給率50%への課題

 12月2日、カロリー表示食料自給率を、10年後50%に引き上げるようにする、という工程表が農水省から発表された。
 462万haの農地を確保、米粉用米、飼料米、裏作麦、及び大豆などで水田をフルに活用し、耕地利用率を110%に高めることが主内容になっている。現在は周知のように40%の自給率だが、米消費増で+1.3%、米粉で1.4%、飼料用米で0.1%、小麦で2.5%、大豆で1%、野菜生産増で0.5%、牛乳・乳製品増で1.5%、芋、果実などで1.4%、油脂消費増で0.3%、計10%の引き上げが目論まれている。09年1月末に食料・農業・農村政策審議会に現行基本計画見直しを諮問、本格的検討に入るという。
 05・4作成の現行基本計画が、作成時から10年後の15年食料自給率を45%としていることは、御存知の方も多いだろう。その45%では、世界的な食糧需給の緊迫化が見通される状況下では不可とした若林前農相が、福田前首相の了承も得て50%以上への修正を指示したのが7月2日のことだった。
 それから半年かけての農水省内での検討結果がこの工程表になったのだが、この経過自体に私は疑問を持つ。来年に入って審議会にかけるわけだが、45%では不可と農相が判断し、国連食料サミットの場で“食料自給率の向上”を公約してきた前首相が50%以上への修正検討を了承したからには、すぐにでも審議会に諮問し検討を開始すべきだったのではないか。“政府は…基本計画を定めようとするときは、食料・農業・農村政策審議会の意見を聞かなければならない”(基本法第15条第5項)のに、半年も工程表づくりに費やしたのは、一体どうしてなのだろう。
 本当に自給率を50%に引き上げるためには、今の農政を抜本的に変える必要がある。論議がそこへ及んでいくのを避けようとして、審議会にかけようとしていないのではないのか、などと私など邪推もしていたものである。

◆耕地利用率 どう上げる?

 自給率50%引き上げのために出された工程表には、大変難しい問題が含まれている。第1に10年後も462万haの農地を確保することが前提されていること。
 07年の耕地面積はすでに465万haになっている。現行基本計画は、計画作成時点の04年470万haを2015年にも450万ha保持することを前提に計画されていた。年率0.41%の減を想定したのだが、それは“これまでのすう勢”に従えば年0.8%で減少し2015年には431万haになってしまうであろうのを、“耕作放棄地の発生抑制・再活用等”の“施策効果”で450万haを確保するようにしようという政策意図のもとにつくられた数字だった。
 その政策意図をはるかに超える政策意慾を10年後462万ha農地保持の数字は物語る。07年すでに465万haになってしまっているということからすれば、今後は農地の転用潰廃は一切認めないというに等しいとしていいだろう。465万haになるこの数年の農地面積の動きを見ると、02〜03年0.55%、03〜04年0.47%、04〜05年0.47%、05〜06年0.45%、06〜07年0.45%と減ってきているが、その流れを断ち切ろうというのである。大変な決意といわなければならない。
 この工程表発表に続いて、農水省は“農地制度を抜本的に見直す「農地改革プラン(素案)」”を経済財政諮問会議に提示した。一般株式会社の農地貸借をより一層自由化しようとするこの「農地改革プラン」については次回取り上げることにしたいが、ここで特にふれておきたいことは、“農地の減少に歯止めをかける”ために“農地転用規制の厳格化”がこのプランで強調されていることである。“現行では転用許可が不要になっている病院、学校等の公共施設の設置”も“新たに転用許可の対象とすること”や“原則として転用を許可することができない”とされる“集団的に存在する農地”の要件になる基準面積の引き上げ、“違反転用に対する罰則の強化”などがいわれている。462万haの確保を目指してであろう。
 “転用規制の強化”は私も賛成だが、この「農地改革プラン」が制度化したとしても、農地減少は食い止められるだろうか。今のようなコストもまかなえない状況、農業では食っていけないと嘆かざるを得ない状況が続く限りは、駄目だと私は思う。この状況を変える農政転換が行われるかどうかだが、その点がより深く関わると思われるのが、現状94%の耕地利用率を110%に高めることの可能性である。

◆どこの農地でどういう営農を展開するか

 可能性検証のために、110%の耕地利用率を実現していた1970年は、どの地域の営農で実現していたのか、それがどう変わったのかを見ることにしよう。を見られたい。

shir142s0812180601.gif

 第1に常識的な話だが、耕地利用率は全国一律にはいかない。北海道、東北、北陸は1970年時点でも耕地利用率は100を切っていた。108.9%の耕地利用率は関東以西、特に四国、九州の高い耕地利用率によるところ大きかった。西日本農業こそが集約多毛作農業だったのである。が、関東以西のその耕地利用率も、現在は軒なみ100を切っており、九州だけが辛うじて100を上回っているという状況になってしまっていることにまず注目する必要がある。
 耕地利用率を110%にまで高めようとするなら、何よりもこの本来的に多毛作集約農業だった地域の耕地保全に努め、その利用度が高まるようにしなければならない、ということに当然ながらなる。
 が、この本来的多毛作集約農業地域にこそ、今、日本農業でもっとも問題にしなければならない事態が顕著に進行していることに注目する必要がある。第1に、この地域でこそ耕地減少率が高いということがある。第2に農業就業者の高齢化率が高い。中国地方は65才以上農業就業人口比率は7割になろうとしている。四国も60%を超えた。反面は29才以下の若い農業者の割合が低いことである。北陸も農業就業者高齢化率が高いが、ここは若い農業者比率が一番高いことが救いになっている。
 若い働き手がいなくなり、高齢農業者の支える農業の存続の難しさを、高耕地減少率が象徴に示していると見ていいだろう。
 この事態をどう変えるか、に指針を出すことができて始めて自給率50%達成は可能になる。米粉米生産や飼料米生産の拡充による水田のフル活用は、私も大賛成である。そういう水田のフル活用を含めて、どこのどういう農地をどういう営農方式で活用していくのかという生産政策、その営農でまともな生活ができるような農業所得確保政策を基本計画は示さなければならない。“若い新規就農者”を増やすには“国は「サラリーマンよりももっと有利な収入だ」と思わせるくらいの大胆な支援が必要”だという「社長島耕作」の原作者弘兼氏の発言(08・5・13付 日本農業新聞)をまた引用させていただいておく。審議会の検討に期待したい。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2008.12.18)