シリーズ

時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

一覧に戻る

(25) "食料安全保障"確立予算に望む

経済危機下の農政予算
若い担い手支援策はどこに?

 2月27日、09年度予算がようやく衆議院を通過した。これで参議院の審議如何にかかわらず今年度内に成立することは確実となった。10%そこそこという低支持率に喘いでいる麻生総理も、何はともあれホッとされていることであろう。
 30兆円という、この4年ほどなかった多額の新規国債発行額に支えられてだが、総額88兆5000億円という予算は、当初予算としては過去最大の予算である。そのうち政策費にあてられる一般歳出は、08年度当初予算に比べ9.4%も多い51兆7000億円だが、その半分近い24兆8000億円は社会補償費になっている。問題の定額給付金や基礎年金の国庫負担引上げ(1/3から1/2へ)、雇用・医療分野に重点配分をされたからである。それに100年来といわれている経済危機への対処費も一応は含まれている。経済危機への対処費としては、この予算では不充分だとして、衆議院を通過したばかりだというのにもう補正予算を組もうということになっているが、大型予算であるだけにそれなりの効果を期待する向きも多かろう。

◆経済危機下の農政予算

 2月27日、09年度予算がようやく衆議院を通過した。これで参議院の審議如何にかかわらず今年度内に成立することは確実となった。10%そこそこという低支持率に喘いでいる麻生総理も、何はともあれホッとされていることであろう。
 30兆円という、この4年ほどなかった多額の新規国債発行額に支えられてだが、総額88兆5000億円という予算は、当初予算としては過去最大の予算である。そのうち政策費にあてられる一般歳出は、08年度当初予算に比べ9.4%も多い51兆7000億円だが、その半分近い24兆8000億円は社会補償費になっている。問題の定額給付金や基礎年金の国庫負担引上げ(1/3から1/2へ)、雇用・医療分野に重点配分をされたからである。それに100年来といわれている経済危機への対処費も一応は含まれている。経済危機への対処費としては、この予算では不充分だとして、衆議院を通過したばかりだというのにもう補正予算を組もうということになっているが、大型予算であるだけにそれなりの効果を期待する向きも多かろう。
 が、農水予算は、全体としてはこれまでにない大型予算になったなかで、08年度当初予算に比べ2.9%減の2兆6000億円にとどまった。麻生首相特別配分の重要課題枠3300億円からは、その1/3近い1000億円を確保したけれど、である。
 その減少を公共事業費削減で行い、非公共、特に一般事業費を増やしたのが09年度農水予算の大きな特徴になっている。08年1兆1000億円あった公共事業は09年1兆円を割って9952億円になったが、非公共事業費は08年度よりも357億円多い1兆5653億円になった。非公共事業費が357億円も増えたのは、02年以来のことだという。総額は減ったとはいえ、経済危機下の農政として重点を置くべきところには、相応の手当ををしたということなのであろうか。

◆若い担い手支援策はどこに?

 農水省「平成21年度農林水産予算の概要」は、“平成21年度農林水産予算の重点事項”として“I 国際的な食料事情を踏まえた食料安全保障の確立、II 農山漁村の活性化、III 資源・環境対策の推進、IV 低炭素社会に向けた森林資源の整備・活用と林業・山村の再生、V 将来にわたって持続可能な力強い水産業の確立”の5つの柱を示している。前年度の農林水産予算の重点事項も5つの柱で示されていたが、その第Iは“強い農業づくりと地域を元気づける農山漁村の活性化”であり、第IIの柱が“食と農に関する国家戦略的取組”だった。去年は第2に位置づけられていた食料自給率問題(去年の第2の柱のなかでトップに据えられていたのが“食料自給率向上のための戦略的取組”だった)が、今年は食糧安全保障問題として第1の柱になったわけである。食糧安全保障問題を農政の最重要課題にしたということなのであろう。
 08年6月の国連食糧サミットで、“農業への投資を拡大”することを“かたく決意する”宣言に賛同し、“食料自給率向上を通じて、世界の食料需給の安定化に貢献できるようにあらゆる努力を払います”と約束したのは福田前総理だが、前総理のこの国際公約を果たそうとしていることを柱の立て方は示している。こうなっていなければ、国際的に批判されるところだったろう。この政策姿勢は高く評価されていい。
 高く評価すべきことではあるが、施策内容にはこれでいいのか、気になる点がいくつかある。まずは、この第1の柱に含まれている“食料安全保障の確立”のための対策とその予算額を一表にしておこう(「平成21年度農林水産予算の概要」による)。

shir142s0903111101.gif

  施策内容を見て、何よりも私などが気になるのは、前回にも問題にしたことだが、農業生産を現実に支えている農業者の高齢化、若い人がいなくなっている事態に対する施策がないということである。表の3の(1)の“担い手”は、相も変わらず認定農業者、農業法人、集落営農でしかない。繰り返すが、“若い新規就農者”のために“国は「サラリーマンよりももっと有利な収入だ」と思わせるくらいの大胆な支援が必要だ”ということを、もっと考えるべきではないか。

◆避けられない飼料穀物問題

 食料供給力強化施策の中心になるのが、1の(1)水田等の有効活用による食料供給力向上対策2210億円だが、この対策で取り上げられているのは大豆、麦、飼料作物、米粉・飼料用米である。米粉・飼料用米にはさらに1の(2)の予算も手当てされている。水田利用再編政策以来、食料自給力強化の観点から米とならんで、麦、大豆の“本作化”が強調されてきたことは周知のところであろう。施策の重点もそれに傾斜してきたのだが、ここへきて麦、大豆とならんで米粉、飼料用米生産が取り上げられるようになったのは、40%にもなる不耕作調整水田の活用を狙ってである。主食用穀物が過剰になれば飼料穀物になっていくことは、どこの国でも見られたことである。主食用との間の大きな価格差をどうやって埋めるかが問題だが、水田は是非とも守らなければならないわが国としては、もっと早く政策的に取り上げて然るべき米の用途だった。ようやくそれに政策的手当がなされることは、歓迎すべきことと私は考える。
 が同時に、飼料米を政策対象にするのだったら、どうして飼料穀物問題を取り上げないのかを問題にしたい。1の(3)で取り上げているのは、もっぱら飼料作物である。むろん粗飼料も2割を超える量が輸入されている現状からいって、国内生産の強化を図らなければならないことはいうまでもないが、今、畜産農家を苦しめている最大の要因が輸入飼料穀物の高騰である。国際的な穀物危機のなかでは今後とも続くことが予想されるのであり、飼料米とならんでトウモロコシ、マイロなどの生産増強政策をとるべきなのではないか。その上で、国産粗飼料、国産飼料穀物を原料とするTMRを奨励すべき、と考える。
 振興すべき作物でもう1つ、腑に落ちないのは、いも類である。“不測の事態”のケースIIなどでは、供給カロリーで米の1.4倍の688.4キロカロリー、1人1日当たり供給熱量2020キロカロリーの1/3を期待しているのがいも類である。そのいも類については、でん原ばれいしょが水田・畑作経営所得安定対策の対象作物になっているにすぎない。これでいいのだろうか。
 耕作放棄地解消対策を大きく取り上げているのも賛成だが、山間の耕作放棄地の再活用には、周辺の林野の混牧林としての利用を組み合わせることが有効である場合が多い。混牧林利用施策も検討されて然るべきではないか。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2009.03.11)