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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(27) 農地法改正法案――これでいいのか

“肝心”な部分はどう修正されたのか
農協の農業経営の問題点

4月25日、"農地法改正案 自・民が修正合意"が同日付日本農業新聞1面トップで伝えられた。いいニュースである。
 実をいうと3月31日付同紙が掲載した農政紙上座談会に、自民党農林部会長・宮腰衆議院議員の次のような発言
  "農地法の改正について明確にしておきたいのは、法律の理念はまったく変わっていないということだ。農地法が成立した昭和27年当時の農林水産大臣は、郷土の大先輩である松村謙三先生だ。この法律の理念は自作農主義で、自分で農業をやるという部分が最も大事だ。「所有から利用への転換」とは、「農地を農地として利用する人にスポットライトを当てて応援する」ということ。成立当時の理念の最も肝心な部分は、変わっていない。"

◆“肝心”な部分はどう修正されたのか

 4月25日、“農地法改正案 自・民が修正合意”が同日付日本農業新聞1面トップで伝えられた。いいニュースである。
 実をいうと3月31日付同紙が掲載した農政紙上座談会に、自民党農林部会長・宮腰衆議院議員の次のような発言
  “農地法の改正について明確にしておきたいのは、法律の理念はまったく変わっていないということだ。農地法が成立した昭和27年当時の農林水産大臣は、郷土の大先輩である松村謙三先生だ。この法律の理念は自作農主義で、自分で農業をやるという部分が最も大事だ。「所有から利用への転換」とは、「農地を農地として利用する人にスポットライトを当てて応援する」ということ。成立当時の理念の最も肝心な部分は、変わっていない。”
があるのを見て、“これは大修正があるのかな”と、私などは考えたのだが、“肝心な部分”の修正で“自・民が修正合意”したのはともあれ喜ばしい。修正ついでに、外の問題点も両党を中心に詰めて修正してほしいものだ。
 現行法第一条の書き出しの“農地は、その耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて、耕作者の農地の取得を促進する”としているところこそ、一般に自作農主義を宣言した規定とされているところであり、宮腰農林部会長が農地法“成立当時の理念の最も肝心な部分”といった部分は、この一句だといっていいだろう。
 その“肝心な部分”が、改正案では全部削られ、“農地を効率的に利用する者による農地の権利の取得を促進する”ことに変えられている。これでは“肝心な部分は、変わっていない”とはいえないのではないか。改正法案についている政府の改正法提案「理由」も、“農地について耕作者自らが所有することを最も適当であるとしてきた制度を改め”るのだと明記していることをつけ加えておこう。
 もっとも、自民党農林部会が2月4日、“了承”した「農地法等の一部を改正する法律案(骨子)」の当該箇所の文章は、農地法第一条の目的規定について“農地を自ら所有することを最も適当であるとする考え方を改める”という文章だった。“制度を改め”るのではなく、“考え方を改める”だったことを指摘しておくべきだろう。
 自作農主義に立つ“制度”のもとでも、“効率的な利用を促進する”という“考え方”で施策を組むことが必要だということは大いにあり得る。農地法の70年改正はまさにそういう考え方で、“並びに土地の農業上の効率的な利用を図るため”の一句を挿入したのだが、そういうこともあるので、或いは“考え方を改める”という役所の説明に、宮腰議員らは“制度を改め”るとは理解しなかったのかもしれない。
 が、改正案はまさに“制度”の“肝心な部分”を変える案なのであり、“農地を効率的に利用する者”であれば誰でも、所有権を含めての“農地の権利の取得”ができることを原則にしようとしているのである。一般株式会社の所有権取得禁止は続けるが、“解除”条件つきの賃貸借ならどこでもやれるようにする(改正案第三条第三項)のが今回の改正の最大の狙いだといっていいが、それは原則の例外としてである。特区→地区指定・特定法人→そして今回の改正に至るまで、僅か7年である。改正案のままにしておいたら、例外措置が消え原則に従って一般株式会社に所有権取得を認めることに、早晩なるであろう。
 “効率的に利用する者による農地の権利の取得を促進する”改正案のこの危険性に気づき、“耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ…農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進”に修正したのは、現行原則の再確認として、評価していいだろう。

◆農協の農業経営の問題点

 第一条改正案でもう1つ問題なのは、現行法が“もって耕作者の地位の安定と農業生産力の増進とを図ることを目的とする”と法の目的を規定している第一条最後の文章を、“もって国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする”に変えようとしていることだった。農地の権利関係のあり方を規制する農地法の“目的”規定としてはいただけない目的規定改正だったが、この点についても、“耕作者の地位の安定と”の一句を修正案では挿入している。適切な修正というべきだろう。
 修正案は取り上げなかったが、そのほかにも改正案には重要な問題箇所が幾つかある。新設の第二条の二でいっている“農業上の適正かつ効率的な利用”という表現など、“適正”な利用と“効率的な利用”は両立できる概念ではないし、現行20年最高の賃借権継続期間を50年にすること(改正法案一九条)、或いは経営基盤強化法から移して運用の強化を図ろうとしている特定利用権(改正法案第三九条)が、財産権侵害問題を惹起しないかが危惧されるといった問題もあるのだが、ここでは指摘にとどめておこう。
 最後に問題にしておきたいのは、“他の法人と同様に、農業協同組合自らが農業経営を行うことができるようにする”(農水省「農地改革プラン」の表現、傍点は私)措置が改正案に盛り込まれている(農協法改正案第十一条の三一第一項第1号)ことである。
 従来も研修目的の農業経営を行うことが農協には認められていた(現行農協法第十一条の三一第一項第一号)が、この研修目的の農協の農業経営にすら、正組合員の2/3以上の文書による同意という組合員の除名や組合の解散といった農協にとっての重要事項を議決するときの特別議決権をも上回る厳しい要件がつけられていた(現行法第3項)。研修目的とはいえ組合員の営農と競合しかねないことには慎重であるべき、ということだったのである。
 “その組合員…のために最大の奉仕をすることを目的(農協法第8条)とする農協”が他の法人と“同様に農業経営を行”なっていいのか。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2009.05.11)