シリーズ

時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

一覧に戻る

(31)  戸別所得補償制度の課題

・目的は食料自給率の向上
・飼料穀物をどう位置づけるか
・農地総量、早期に設定を

 10月1日、赤松農相は、大臣自らが本部長になる戸別所得補償制度推進本部を設置した。民主党農政始動である。どういう制度設計になるのか、誰しもが注目するところである。
 まずは政策対象にする「主要農産物」はどんな作物になるのだろう。一昨年、第168回国会に民主党が提案し、参議院は通ったが、衆議院で継続審議、翌年の第169回国会が衆議院で否決した「農業者戸別所得補償制度」では、"米、麦、大豆その他前条の目的の達成に資するもの"(第2条)となっていたが、そういうことに当然なるのだろう。

◆目的は食料自給率の向上

 10月1日、赤松農相は、大臣自らが本部長になる戸別所得補償制度推進本部を設置した。民主党農政始動である。どういう制度設計になるのか、誰しもが注目するところである。
 まずは政策対象にする「主要農産物」はどんな作物になるのだろう。一昨年、第168回国会に民主党が提案し、参議院は通ったが、衆議院で継続審議、翌年の第169回国会が衆議院で否決した「農業者戸別所得補償制度」では、“米、麦、大豆その他前条の目的の達成に資するもの”(第2条)となっていたが、そういうことに当然なるのだろう。
 その「前条の目的」は同法案第一条で、“食料の国内生産確保及び農業者の経営の安定を図り、もって食料自給率の向上並びに地域社会の維持の確保に資することを目的とする”と規定されていた。“食料自給率の向上”に“資するもの”でなければならないのであるが、この“食料自給率の向上”に関しては、民主党はかねがね“生産数量目標”が設定された年度から起算して10年度に達した年度において50%に、さらに10年度を経過した年度において60%に達することを目標とする”(民主党08.12.24「農山漁村6次産業化ビジョン」)といっていた。法案が第三条で“国、都道府県及び市町村は・・・主要農産物の種類ごとに生産数量の目標を設定するものとする”としている「生産数量の目標も、当然ながら10年後50%、20年後60%を目指す「生産数量の目標」であろう。
 自民党政権が、10年後の食料自給率目標45%と設定したのが2000年、10年では無理として、その達成を5年延ばしにしたのが05年だったが、今なお00年設定時の40%が動いていないのが現実である。この現実を重々承知のうえで改めて10年後50%、20年後60%達成を民主党は宣言しているのである。大変な決意といわなければならないが、私は、いや私のみならず、多くの人がこの政策目標の達成は強く期待している。「推進本部」はこの期待に応えてもらわなければならない。

◆飼料穀物をどう位置づけるか

 50%といえば、09年の暮れに自給率50%引き上げ工程表なるものを農水省は発表していた。462万haの農地確保、米粉用米、飼料米、裏作麦及び大豆などで水田をフル活用して、耕地利用率を110%に高めることで達成可能となっていたが、この工程表、その後どうなったのだろう? 09年に入ったら審議会にかけ、本格的検討に入るということになっていたはずだが、検討が始まったという話は伝わってこない。
 10年後50%、20年後60%への“食料自給率の向上”という“目的の達成に資するもの”である以上、戸別所得補償の対象作物は10年20年は変わらない戦略的重要性をもった作物、ということに当然なるが、そういう作物として、例示されている米、麦、大豆以外に何が選ばれるのだろうか。07年第168回国会での戸別所得補償法案の審議の際、発議者だった平野達男議員は、“そのほかに菜種、てん菜、サトウキビ、でん粉用バレイショ等々の作物については、これは対象になり得る”と答えていたが(07.11.1参院農林水産委)、その程度ですむのだろうか。
 でん粉用バレイショをあげていてでん粉用カンショを落としているのは腑に落ちないが、より以上に問題なのは飼料穀物に一言もふれていないことである。飼料穀物は輸入だと民主党も決めてかかっているのだとすれば、これは問題である。
 飼料穀物を問題にすることの重要性を、私は本欄でも今年の春、“食料安全保障”確立予算を問題にした際、論じておいたが、10年先20年先を見通しての施策樹立のためには、この問題は本質的重要性を持つことを、再度強調しておきたい。

◆農地総量、早期に設定を

 50%引き上げ工程表が前提していたのは、462万haの農地維持だった。が、08年の耕地面積がすでに462万haを上回ること僅かに9000haで、年率0.45?0.46%での減少がこの4、5年続いていることからすれば、462万haの維持は難しいとせざるを得ないだろう。“有事においても必要最低限の食料を国民に供給しうる食料自給力の指標として、確保すべき農地面積の目標となる農地総量を設定”(民主党INDEX2009)することは、民主党の重要施策の一つとなっているが、この事態の中で、どういう総量設定を行うのか、自給率目標にかかわる数字であるだけに、これにも早急に結論を出す必要があろう。
 もう一つ、民主党は“農林漁業再生プラン”以来“耕地利用率を上げるため”田の二毛作を特に促進する”ことを強調してきた。大賛成である。が、二毛作地帯は、農業従事者高齢化、高耕地減少率の農業衰退地帯に、今ではなってしまっている。“二毛作を特に推進する”ためには、特別の地域対策を用意する必要がある。「推進本部」は、地域対策をも議論できる体制にあるのだろうか。

【著者】梶井 功 
           東京農工大学名誉教授

(2009.10.13)