シリーズ

時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(37) 課題山積の新基本計画

・「50%」は掲げたが…
・耕地利用率をどう高める?
・不可欠な地域政策

 3月30日の閣議で、新しい「食料・農業・農村基本計画」が決定された。これまでの「基本計画」は平成12年3月の最初の策定以来、すべて自民党政権下で作られてきたが、今回は民主党政権に替わっての初の「基本計画」である。マニフェストで、あれだけ自民党農政とのちがいを強調していた内閣の初「基本計画」だけに、これまでとは大きくちがう「計画」が示されるもの、と大方が期待していたのではないか。私も期待していた一人である。が、若干期待外れだった。1つ2つ問題点を挙げておきたい。

 3月30日の閣議で、新しい「食料・農業・農村基本計画」が決定された。これまでの「基本計画」は平成12年3月の最初の策定以来、すべて自民党政権下で作られてきたが、今回は民主党政権に替わっての初の「基本計画」である。マニフェストで、あれだけ自民党農政とのちがいを強調していた内閣の初「基本計画」だけに、これまでとは大きくちがう「計画」が示されるもの、と大方が期待していたのではないか。私も期待していた一人である。が、若干期待外れだった。1つ2つ問題点を挙げておきたい。


◆「50%」は掲げたが…

 第一に、10年後50%、20年後60%をめざすとしていた自給率目標だが、確かに10年後の“平成32年度の総合食料自給率目標は・・・供給熱量ベースで平成20年度41%を50%まで引き上げることとする”と書かれてはいる。
 が、気になるのはその書き方である。いま“・・・”にしたところには、“わが国の持てる資源をすべて投入した時に初めて可能となる高い目標として”と書かれてあった。この文章から私は、50%でも“持てる資源をすべて投入”して“可能”になる大変な“高い目標”なんだ、だからマニフェストでいった20年後60%など不可能、ということを言いたいのかと考えてしまった。
 平成12年策定の最初の「基本計画」も、“基本的には・・・熱量の5割以上を国内生産で賄うことが適当である”としつつも、消費・生産両面にわたる多くの“課題が解決された場合に実現可能な水準”として10年後45%を提示したのだった。その45%への接近の兆しもなく、策定時の40%ラインで推移してきたのが現実である。困難な課題であることは誰しもが認めるところだが、それにしてもマニフェストで提言していた60%はもう言わないのか、と受け取られかねないこの表現は問題ではないか。民主党の先生がたはこの文章をどう読まれたのだろうか。
 

◆耕地利用率をどう高める?

 60%問題以上に問題にする必要があるのは、自給率引き上げのための農業生産面での課題として、10年後も461万haの耕地を確保し、現在92%の耕地利用率を108%に高めるとしていることである。
 昨年の数字で、耕地面積はすでに461万haになってしまっている。“農地転用規制の厳格化、耕作放棄地の解消に向けた対策の推進により優良農地を確保する”というのだが、それで本当にこれからは耕地減少をまったく生じさせないようにできるだろうか。前々回の本欄で問題にしたように“政治的態度が悪い”から予算をつけないなどということはやめてもらう必要がある。農道や農地の改良整備、さらには場所によっては農地造成にも財政投資を惜しんではならない。
 耕地利用率を高めることが地域政策にかかわることを、「計画」ではまったくふれていないが、この点は大問題である。
 一昨年の暮れ、462万haの耕地、耕地利用率110%で自給率を50%に引き上げるという意欲的な工程表を農水省が発表したが、そのとき本欄で問題にした(08.12.20付本紙)ように、“耕地利用率を110%にまで高めようとするなら、何よりも…本来的に多毛作集約農業だった地域の耕地保全に努め、その利用度が高まるようにしなければならない。”本来的多毛作集約農業地域としたのは中国、四国、九州等の西日本だが、それらの地域は、唯一九州を除いていずれも耕地利用率が100%を割ってしまっている現実を踏まえての問題提起だった。


◆不可欠な地域政策

 その際、これらの地域が若い農業者が極端に少なく、高齢農業者率の高い地域であり、耕地減少率も高い地域であることに注意を促し、“この事態をどう変えるか、に指針を出すことができて初めて自給率50%達成は可能になる”と指摘しておいた。
 地域政策が必要なのである。「基本計画」はこれまで地域政策を論ずることはなかった。それだけに具体性が無かったのだが、耕地利用率高度化を必須の最重要課題とするからには、地域政策が不可欠であることを強調しておきたい。どういう作物を基軸作物としてやっていくのか、若い担い手を確保するには何をやったらいいのか、全国画一政策ではなく地域の判断で手を打てるようにする必要があることを考えるべきだ。
 もう一つ、“食料の安定供給の確保に関す施策”のところで、最初に“不測時のみならず、平素からの対策を含めた総合的な食料安全保障を確立する”といっているのに、“平素からの対策”の重要な一環になる備蓄政策については“備蓄のあり方を検討するとともに、その適切かつ効率的な運営を行う”としているにすぎない。
 “食料安全保障の観点から棚上げ方式に転換し、300万トン・・・備蓄体制を確立する”は、民主党の公約だった。回転方式から棚上げ方式への転換の重要性については前回ふれたばかりなので繰り返さない。そして総理大臣も「棚上げ」転換を“明言”されている(3.6日本農業新聞)のにこれから“検討する”でいいのか。問題だろう。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2010.04.13)