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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(38) 行政刷新会議に"協同"や"相互扶助"の視点なしか?

・独禁法適用除外は国際常識
・共済当然加入は合憲

行政刷新会議がまた農業問題を大きく取り上げている。5月末〜6月初めに答申をまとめるらしいが、"農業の検討テーマとして事務局は(1)JAに対する金融庁検査・公認会計士監査の実施、(2)JAなどの独占禁止法の適用除外の見直し、(3)新規農協設立の弾力化、(4)農業生産法人の要件(資本・事業・役員)の一層の緩和、(5)農業委員会の在り方の見直し、(6)農業共済における米と麦の強制加入制の見直し、(7)食用油の原料原産地表示の導入など――を示した"という(3.31日本農業新聞)。

◆独禁法適用除外は国際常識

 行政刷新会議がまた農業問題を大きく取り上げている。5月末〜6月初めに答申をまとめるらしいが、“農業の検討テーマとして事務局は(1)JAに対する金融庁検査・公認会計士監査の実施、(2)JAなどの独占禁止法の適用除外の見直し、(3)新規農協設立の弾力化、(4)農業生産法人の要件(資本・事業・役員)の一層の緩和、(5)農業委員会の在り方の見直し、(6)農業共済における米と麦の強制加入制の見直し、(7)食用油の原料原産地表示の導入など――を示した”という(3.31日本農業新聞)。
 こうした事項を問題にする“その視点は市場原理主義”だが、JA全国大会での鳩山総理のあいさつにあるように、民主党政権は市場原理主義を捨てたはずではないか。こんな議論をまた始めるのはおかしい――ということを4.30本紙風見鶏が的確に指摘している。その通りである。私も“新政権はどこからスタートしたのか。そこを忘れず徹底して議論を注視”していくことにするが、論議の始まる前に、(2)と(6)については論議のしかたに注文をつけておきたい。
 前に(2)が議論されたときは、独禁法第22条の( )のところだった。連合会、特に全農は適用除外組合から外そうということであり、端的にいって全農いじめといってよかった。それをあえて継続としてではなく新規として審議対象にするということは、JA全体の問題にしようということなのだろうか。「農協との決別なしに農業は復興しない」(WEDGE08.9月号所収)などの論稿でJA批判に躍起になっている感のある人も新たに委員に加えて、ということだから、或いはそういうことかもしれない。
 が、JA全体を適用除外廃止にするということになれば、それは国際的常識――独禁法の元祖アメリカにも、そしてEUもそれぞれ協同組合は独禁法適用除外とする規定をもつ法律がある――に反することをやろうということになる。どういう論理を用意しているのか。JAの今のあり方を否定するからには、その論理は日本の協同組合のあり方を高く評価したレイドローやバーチャルの論理をも批判できるものでなければならないだろう。


◆共済当然加入は合憲

 (6)の“農業共済における米と麦の強制加入制の見直し”に関連しては、共済掛金及び事務費賦課金不払いに対する滞納処分の差し押さえを不当として提訴された裁判で、05年4月、最高裁第3小法廷が、米の強制加入は“憲法第22条第1項に違反しない”という合憲判決を出していることをまず紹介しておくべきだろう。一般にはあまり知られていないと思われるので、些か長文になるが判決文の中から合憲とした理由を抜き書きしておこう。( )は筆者の補足である。

  (農業災害補償法が、一定規模以上の水稲等耕作者について「当然加入制」=強制加入制をとっている)趣旨は、国民の主食である米の生産を確保するとともに、水稲等の耕作をする自作農の経営を保護することを目的とし、この目的を実現するため、農家の相互扶助の精神を基礎として、災害による損失を相互に分担するという保険類似の手法を採用することとし、被災する可能性のある農家をなるべく多く加入させて危険の有効な分散を図るとともに、危険の高い者のみが加入するという事態を防止するため、原則として全国の米作農家を加入させたところにあると解される。・・・・主食である米の生産者についての当然加入制は、米の安定供給と米作農家の経営の保護という重要な公共の利益に資するものであって、その必要性と合理化を有していたということができる。
  (法が制定された47年当時と今日では、米の需給事情も大きく変わり、食管法も食糧に代わっているが、05年の時点でも)米は依然として我が国の主食としての役割を果たし、重要な農作物としての地位を占めており、その生産過程は自然条件に左右されやすく、時には冷害等により広範囲にわたって甚大な被害が生じ、国民への供給不足を来すことがあり得ることには変わりがないこと・・・・災害補償につき個々の生産者の自助にゆだねるべき状態になっていたということはできないことを勘案すれば、米の生産者についての当然加入制はその必要性と合理性を失うに至っていたとまではいえないと解すべきである。

 鳩山内閣は、米・麦、大豆の増産で10年後50%の自給率達成を国家戦略とする新基本計画を閣議決定している。それなのに、行政刷新会議は、米はもう“重要な作物としての地位は占めて”はいないというつもりなのだろうか。また基本計画は“農産物価格が下落傾向をたどる中で生産コストとなる資材価格が上昇し、収益性が著しく悪化・・・農業の再生産の確保が困難になっている”ことを確認、“再生産可能な農業経営の基礎をつくること”を強調している。であるのに、“災害補償につき個々の生産者の自助にゆだねるべき”と会議は主張するつもりなのだろうか。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2010.05.11)