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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(47) 36年ぶりの低予算への疑問

・営農意欲がわくのだろうか?
・地域の課題が見えているか
・飼料用米増産、喜べるか?

 この先どういうことになるのか定かではないが、11年度予算案が3月1日衆議院は通過した。ともあれ一つの関門は抜けたということだろう。
 一般会計総額前年比0.1%増の92兆4110億円は過去最大の予算といわれるが、そのなかにあって農林水産予算は11年連続低下、前年比7.4%減の2兆2712億円になっている。

◆営農意欲がわくのだろうか?

 この先どういうことになるのか定かではないが、11年度予算案が3月1日衆議院は通過した。ともあれ一つの関門は抜けたということだろう。
 一般会計総額前年比0.1%増の92兆4110億円は過去最大の予算といわれるが、そのなかにあって農林水産予算は11年連続低下、前年比7.4%減の2兆2712億円になっている。国庫補助金を地方自治体が自由に使えるようにする一括交付金5120億円のうち、1090億円が農水関係なので、これも農林水産予算に含めるとしても2兆3802億円にとどまる。
 農林水産予算が2兆4000億円を下回るのは1975年度以来のことで、実に36年ぶりのことである。
 政権獲得後、初めてつくった「食料・農業・農村基本計画」で、自民党政権下で進められた“これまでの農政の反省に立ち、今こそ食料・農業・農村政策を日本の国家戦略の一つとして位置付け”ると宣言した民主党政権下初の農林水産予算としては、いささか淋しい予算といわなければならない。こんな予算でこの10年40%に低迷している食料自給率を50%に引き上げることが可能になるのか、何より大事な農家の皆さんの営農意欲をかき立てられるのか、を問わなければならないのではないか。
 11年度予算案の幾つかを取り上げて問題にしたい。

◆地域の課題が見えているか

 農林水産予算としては全体が減るなかで、大きく増額になっているのが戸別所得補償制度の本格実施のための予算であり、前年比42.4%増の8003億円が手当てされている。民主党農政の目玉政策だから当然といえば当然だが、畑作物の所得補償交付金2123億円、各種加算150億円が新たに組まれている。更に加えて“戸別所得補償制度の導入円滑のための特別対策費として”戦略作物生産拡大関連基盤緊急整備事業220億円、戦略作物生産拡大関連施設緊急整備事業87億円といった予算も新たに組まれた。(“ ”は平成23年度農林水産予算の概要の表現。以下同じ)11年度予算で初めて組まれた予算として今列挙した予算を合計すると2580億円となる。
 随分手厚く手当てされたように見える。が、これで充分だろうか。
 問題の第一は、前回の本欄で指摘したが、全国一本の単価設定では、米の場合で経営費+8割自家労働費基準が31%の、全算入生産費基準にしても61%の米生産しかカバーされないことである。
 畑作物の場合は生産条件の地域差は米より大きいし、当然コストの地域差も大きい。全算入平均生産費補償ではカバーされない地域は、米の場合より高い比率を占めるのではないか。
 “条件不利地域における戸別所得補償制度の適切な補完となるよう、農業者に生産条件の不利を補正する交付金を交付”する中山間地域等直接支払交付金270億円が組まれてはいるが、その額が前年度とほぼ同額であり、適用地域の見直しや、“交付金の1/2以上は農業者個人に支払うことを原則”とするように若干の手直しはされているものの、拡充強化された戸別所得補償制度に見合って、“適切な補完”ができるようになっているといい難い。
 新たに組まれた各種加算のなかに、“農用集積円滑化団体を通じて面的集積(連担化)がなされた農地に利用権を設定して経営規模を拡大した場合”に加算する規模拡大加算100億円があるが、1.10付本紙所収の拙稿でも指摘しておいたように、面的集積よりも圃場整備事業の方が生産性向上効果があることからいって、こういう規模拡大加算に100億円も投ずるよりは中山間地域等直接支払交付金をより手厚くすることの方が有意義だろう。

◆飼料用米増産、喜べるか?

 09年度4123haだった飼料用米作付面積が10年度1万5971haに急増した。いうまでもなく10年度の戸別所得補償モデル対策が飼料用米に10a8万円という手厚い交付金を用意したからである。
 その交付金はむろん11年度戸別所得補償制度のなかでも引継がれている。粗飼料としての飼料作物だけでなく、濃厚飼料原料としての飼料穀物生産の重要性をかねてから主張してきた一人として、この作付増を私は喜んでいたのだが、喜んでばかりはいられなくなった。
 米備蓄制度が“米穀の供給が不足する事態に備え、国民への安定供給を確保するという備蓄制度本来の役割を明確化するため、これまでの回転備蓄方式を見直し、棚上備蓄方式に移行”することになったからである。100万トンを常時備蓄し、“5年間の棚上備蓄”にするが、備蓄米の主食米としての“放出を要する不足時以外は、備蓄後に飼料用等の非主食用に販売(毎年20万トン)”することになっている。
 備蓄米放出が、平時には飼料米生産ともろにぶつかることになるわけである。調整が当然必要となるのに、この問題について何の言及もない。飼料用米の生産数量目標を早く提示すべきだろう。原則的には田畑輪換でとうもろこし生産ができるよう助成策をすべき、と思う。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2011.03.17)