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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(48) 国難にどう立ち向かうのか!

・評価できる緊急提言
・原発被害も万全の補償を

 "東日本巨大地震・津波によって、私たちはかつてない厳しい試練に直面している。未曾有の国難というべきこの事態にどのように立ち向かっていくべきか、わが国の将来の命運は、いまこの時にかかっている"

◆評価できる緊急提言


 “東日本巨大地震・津波によって、私たちはかつてない厳しい試練に直面している。未曾有の国難というべきこの事態にどのように立ち向かっていくべきか、わが国の将来の命運は、いまこの時にかかっている”

 これは、3月30日、自民党谷垣総裁・石破政調会長が菅総理へ申し入れた自民党法整備等緊急対策プロジェクトチーム「緊急提言」の冒頭の一節である。その通りである。
 「?.政府の支援体制の確立」から始まって、災害対策から産業復興方策に至るまで、広汎な領域にわたって、今取り組まなければならない課題について貴重な整理を行っている。
 この緊急提言を菅総理がどう受けとめるのか、知る由もないが、提言のなかには、これは民主党の先生方も同意見なのでは、と思われるような事項が結構あるように私には読めた。
 例えば、これは自民党緊急申し入れの翌日発表された民主党農林水産部門会議取りまとめの“農林水産関係の復旧・復興対策に係る提言”だが、その真っ先に書かれていた<?.緊急に対応すべき事項>の1は

 “復旧・復興のための体制整備
 省庁間の縦割りを廃し、効率的・一元的に復旧・復興を推進するため、強力なリーダーシップを持つ体制を立ち上げる。具体的には、特命大臣の下に「防災復興府」を設置し、各府省の上に立つ特別の権限と財源(特別会計等)を有するものとする。被災県の参画も求めるものとする。”

だった。自民党緊急提言も真っ先に“政府の支援体制の確立”をあげ、

 “1.震災特命大臣及び特命室の設置
 被災者支援・生活支援・産業復興・インフラ復旧等を担当する特命大臣を設置、対策実施権限を付与し、「政治決断」を可能とする。関係省庁を調整し得る精鋭を大臣特命室に集約させ、特命大臣をサポートする。必要な情報は特命室員を通じて的確に大臣に集約され、方針は特命室員により速やかに関係方面に伝達される体制を確立する。
 2.政府現地対策本部の機能強化
 被災県ごとに副大臣クラスを長とする現地対策本部を設置、関係省庁出向職員によるサポート体制を確立、本部長に一定の即応権限を持たせ、現場対応すべきは即応し、調整を要する案件については震災特命大臣に直結する。本部員は、被災現場、避難所、ガレキ処理現場、仮設住宅建設現場を巡回しつつ、ニーズを把握し、要望事項の取りまとめにあたる。”

と書かれていた。ほとんど同じことを考えているといっていいのではないか。大連合がどうなるかにかかわらず、意見の一致するところは早急に具体化を図ってもらいたいものである。


◆原発被害も万全の補償を

 「提言」が一致して取り上げている事項に「原発被害の緊急の対応」(民主党の表現)がある。
 “原賠法に基づく責任関係の確定を待つことなく、被害者のために、国が主導して一時金を機動的に支払う仕組みを整備する。また、担当大臣が責任を持って農作物等の出荷制限やその解除を機動的に行える仕組みを整備する”(民主党)、“出荷停止等の被害を受けた生産者や関係事業者に対して、万全の補償を行うこと。出荷自粛や風評被害により売上げが減少した農畜産物についても同様に万全の補償を行うこと”(自民党)といったように、である。
 この問題について“JAグループが被害額を取りまとめ、補償請求額の半額を福島原発の事業者である東京電力に請求する。当面の仮払いは系統金融が立て替え、補償が確定した段階で東電が系統金融に立て替え分を支払う仕組み”(3.30付日本農業新聞)で対処するという報道があったが、これは正確ではなかったようだ。JAグループは、“行政などと連携し無利子融資による被災農家への当面の資金供給や飼料、肥料、農薬など購買品の支払期限の延長を柱に、できる限り農家の資金繰りを支える”(4.1付日本農業新聞)ことは決めているが、対東電対策はこれかららしいJAに協力を求めるのはいいが、本来、“万全の補償”は国がたてるべき方策である。補償の範囲等を審議する原子力損害賠償紛争審査会すらまだ立ち上がっていないという。問題である。
 早急に活かしてほしい提言としては、農地や農林水産関係施設の復旧・整備等に対する“補助率、国庫負担率の嵩上げ等(民主党)”“特段の支援措置”(自民党)もある。4兆円という補正にはこういったことに応える内容が盛り込まれているのだろうか。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2011.04.13)