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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(51) 米の先物取引、国会で議論を

・変わっていない「生産調整」政策
・戸別所得補償制度との整合性は?

 農水省は7月1日、東京穀物商品取引所と関西商品取引所が申請していた米先物取引の試験上場を認可した。"鹿野道彦農相が近く認可を表明する見通しだ"と報じた日本農業新聞(6.24)の解説では"政府・与党ではほとんど議論しないまま、同省は認可する方針を固めた。...米の先物取引は、2005年に生産調整に誘導している政策との整合性が取れていないとして、同省は一度不認可とした。政府・与党で議論を繰り返した結果だった。今回は、東日本大震災で米産地が厳しい状況にあるにもかかわらず、あたかも容認ありきで結論を急ごうとしている"ということだったが、与党内でも反対論、慎重論が強まっていることも報じられていたので、これから議論が深まるのかと見ていたのだが、そうではなかったのである。これでいいのだろうか。

 農水省は7月1日、東京穀物商品取引所と関西商品取引所が申請していた米先物取引の試験上場を認可した。“鹿野道彦農相が近く認可を表明する見通しだ”と報じた日本農業新聞(6.24)の解説では“政府・与党ではほとんど議論しないまま、同省は認可する方針を固めた。…米の先物取引は、2005年に生産調整に誘導している政策との整合性が取れていないとして、同省は一度不認可とした。政府・与党で議論を繰り返した結果だった。今回は、東日本大震災で米産地が厳しい状況にあるにもかかわらず、あたかも容認ありきで結論を急ごうとしている”ということだったが、与党内でも反対論、慎重論が強まっていることも報じられていたので、これから議論が深まるのかと見ていたのだが、そうではなかったのである。これでいいのだろうか。
 05年不認可にした際、“議論を繰り返した”与党は、無論自民党だったが、民主党とは“議論を繰り返す”必要はないということなのだろうか、これでいいのだろうかとする所以である。

◆変わっていない「生産調整」政策

 「農水省の見解」によると、前回は

 前回の申請は、米に関するほとんどの政策が価格維持を目的とした生産調整への参加を要件としており、これらの施策の実施により、生産調整への参加を半強制的に誘導している当時の政策と整合性が保てないとして、不認可

 にしたのだが、今回は

 米の政策については戸別所得補償制度の導入により、価格政策から所得政策に抜本的に転換。米の生産調整については、メリット措置の大幅な拡大により、生産者の経営判断による選択制に大きく転換

 したので、不認可にする理由がなくなったという。本当だろうか。
 本当だろうかというのは、第一に生産調整を制度として規定している食糧法の規定は、05年当時も今も全く変わっていないし、米政策を“抜本的に転換”させたとする戸別所得補償制度については、そのための法制度もまだできていない。今年度予算は決まっているから11年度は確実に実施されるのであろうが、来年以降のことはわからないというのが現状なのである。前年度はモデル事業、本年度は本格実施と称しながら、まだ戸別所得補償法案すら国会に出していないことを、農水省はどう考えているのだろう。法的裏づけなど、重要ではないというつもりなのだろうか。
 第二に、05年度当時は“生産調整への参加を半強制的に誘導”していたが、今は“生産者の経営判断による選択制に大きく転換”したというのだが、これも本当だろうか。
 生産調整を、今、法が規定している仕組みにしたのは食糧法の03年改正である。この03年改正以降、法改正で変わった生産調整制度を特徴づける表現として“農業者・農業者団体の主体的な需給調整システム”という表現を農水省はよく使うようになる。この表現が初めて出てきたのは02年生産調整研究会報告書だが、この研究会の座長を務め、その後も米政策改革論議の中心にいた生源寺教授が、この表現の持つ意味を次のように解説しているのを紹介しておくべきだろう。

 “生産調整の新しいシステムを、納得のうえで参加する方式と表現したい。参加者に対する明確なメリット措置が提示され、これを前提として、本人の意思で生産調整に参加する仕組みを提示しているのである。逆にメリット措置を受け取らず、さまざまなリスクを承知であえて参加しない判断があるとしても、それはそれとして認める。そのうえで市場全体の需要バランスが崩れる事態を避けるためには、相応のメリット措置が必要なことは言うまでもない。”(生源寺眞一「よくわかる食と農のはなし」(家の光協会05年刊・98ページ))

 本質的に言って、今、法が規定しており、05年当時すでに実施に入っていた“農業者・農業者団体の主体的な需給調整システム”は“選択制”だったのである。その制度下で、都合によっては“半強制的”なこともしたのである。民主党政権下で初めて“選択制”になったわけではない。

◆戸別所得補償制度との整合性は?

 民主党の先生方の中でも慎重論、反対論が強いという。洩れ伝わってくる慎重論の中には、中野渡詔子議員(衆・東北比例)のように、戸別所得補償制度との整合性に関連して“同制度は恒久法化されていない点を踏まえ「制度が定着してから落ち着いて議論すべきだ」と述べた”(6.29日本農業新聞)議員もいるという。同感である。
 先物取引それ自体は、世界に先がけて徳川初期にわが国で始まった取引方法であり、リスクヘッジ機能を理論的には持ち得る。一概に否定はできないが、米の流通実態も1939年――この年米穀統制法公布で市場取引は無くなる――以前とは全く違うし、禿鷹ファンドの投機マネーも心配する必要がある。生産調整にマイナスに作用することは確かである。国会で問題にすべきだろう。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2011.07.19)