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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(54) "選別的"改革へ回帰するのか?

・24年度予算の課題
・戸別所得補償、法制度化は?
・「中間提言」の「注」はどこにいったのか?

 農業者戸別所得補償制度はどうなるのだろう?
 野田内閣発足後初めての民主党農林水産部門会議(9月14日)に提出された「農林水産関係予算の検討課題」(農水省)を見ての疑問・危惧がそれである。
 「検討課題」には、"農山漁村の6次産業化・再生可能エネルギー"など9つの課題があげられていたが、民主党の目玉農政としてスタートした農業者戸別所得補償制度は3番目に位置付けられていた。が、この主要課題の説明としては"制度の安定的な実施"が挙げられているだけであり、「検討方向」としても"本制度を安定的に実施する方向で検討"と書かれているだけだった。

◆24年度予算の課題

 農業者戸別所得補償制度はどうなるのだろう?
 野田内閣発足後初めての民主党農林水産部門会議(9月14日)に提出された「農林水産関係予算の検討課題」(農水省)を見ての疑問・危惧がそれである。
 「検討課題」には、“農山漁村の6次産業化・再生可能エネルギー”など9つの課題があげられていたが、民主党の目玉農政としてスタートした農業者戸別所得補償制度は3番目に位置付けられていた。が、この主要課題の説明としては“制度の安定的な実施”が挙げられているだけであり、「検討方向」としても“本制度を安定的に実施する方向で検討”と書かれているだけだった。
 その他の主要課題については、例えばその一つ“担い手確保・規模拡大について”では、検討すべき主要課題として3つの課題をあげているがその中の一つ「新規就農の推進」課題については、“▽基幹的農業従事者(186万人)のうち、65才以上は59%、40才未満は5%、▽平地で20〜30haの土地利用型農業が実現しても現在の半分程度(90万人)の基幹的農業従事者は必要、▽40才未満の新規農業者(年間1万3000人:平成2年)のうち、定着しているのは1万人程度、これを大幅に増大させる必要”という問題認識を示した上で、「検討方向」として「新規就農支援策の強化」内容が“▽青年の就農意欲の喚起と就農者の定着を図るため、就農準備段階・経営開始直後の青年就農者に給付金を交付する仕組みを検討、▽農業法人への雇用就農を促進するための支援の充実を検討、地域農業のリーダーとなる人材の層を厚くするため、農業教育の強化策を検討”の3つが示されている。
 何を“検討”しようとしているか、明確に示されているとしていい。農業者戸別所得補償制度以外の8検討課題については、同様の書きかたで主要課題、検討方向が示されているのに、農業者戸別所得補償制度のところだけは、そういう記述がないのである。

◆戸別所得補償、法制度化は?

 ないかわりにあるのは

 ※なお、8月9日の三党合意文書では、「平成24年度以降の制度のあり方については、政策効果の検証をもとに、必要な見直しを検討する」こととなっているところ

というなお書きである。農業者戸別所得補償制度を“安定的に実施する方向での検討”は、自民・公明との約束で民主党がやらなければならないことであり、農水省はやるべきではなく、党の決定・指示を待っている、ということのようだが、それでいいのだろうか。
 農水省として答えなければならない課題が、この制度のスタート時から幾つかあった。例えば、「戸別所得補償制度の骨子」(案)が発表された時点(10.8.24)で私が本欄(10.9.10付本紙)で問題にした食糧法改正の必要がその一つである。同じことを全国農協中央会も問題にしていることを11.2.10付の本欄で紹介しておいたが、“農業者・農業者団体が主体となる需給調整システムを基本とした、現行の食糧法および関係規定を改正する必要がある”(全中・10.10.7発表「政策提案」)のに、今もって農水省はこの点については見解すら明らかにしていない。
 そのほかにも、これも前に指摘したことだが、米と畑作物で単価の算定方法を別にしていること――米については“「経営費・家族労働費の8割」に相当する水準”、畑作物については“「全算入生産費」をベースに”算定――についての明確な説明がないという問題がある。07年産米の全算入生産費は60?当たり1万6412円だが、この算定方式では1万2972円になる。このちがいは大きい。
 こうした問題については、党がではなく、行政が答えなければならないのではないか。


◆「中間提言」の「注」はどこにいったのか?

 ところで、部門会議が開かれる前日の9月13日、鹿野農水相は閣議後の記者会見で、11年度に補償制度に導入した規模拡大加算に加えて、農地の「出し手」にも助成する対策を行うことを語ったそうだ(9.14付日本農業新聞)。
 この問題は「検討課題」では、20?30ha経営による農地集積“8割程度(290万ha)を目指す”課題の「検討方向」のところで“23年度から導入された…戸別所得補償制度の規模拡大加算措置…と合わせて、…農地の出し手を含めて、担い手への農地集積の合意が円滑にできるようにする仕組みを検討”と書かれていた問題である。
 “「出し手」にも助成する対策というのは、自公政権が09年度補正予算に組み込んだが政権交代で執行停止にした「農地集積加速化事業」類似の対策であろう。三党合意に備えてであろうか。
 “平地で20?30ha…の経営体が太宗を占める構造を目指す”ことは、食と農林漁業再生会議の「中間提言」(9.2)が強調していたことだが、それには“一定規模を示して、それ以下を政策の対象から外すことを目的とするものではない…”“意欲あるすべての農業者が農業を発展できる環境を整備することの食料・農業・農村基本計画の方針を変更するものではなく…”という2つの注がついていた。が、“「出し手」にも”ということになったら、この注も無意味になる。選別的構造改革路線へ回帰しつつある、とすべきなのではないか。問題である。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2011.10.06)