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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(58) もっとフランスを見習ってはどうか

・新規就農支援策の問題点
・全国一律でいいか?

 「再生元年予算」を謳う12年度農水予算のなかに"どんな成果があげられるか注視していたい"新規予算として、新規就農総合支援事業136億円があることを、前回指摘しておいた。

◆新規就農支援策の問題点

 「再生元年予算」を謳う12年度農水予算のなかに“どんな成果があげられるか注視していたい”新規予算として、新規就農総合支援事業136億円があることを、前回指摘しておいた。
 この予算、11・8・20の本欄(第52回)で紹介しておいたことだが、“フランスにおける若者の就農支援策を参考にしながら、将来の日本農業を担う若者が夢を持って農業へ参入できるよう、戸別所得補償制度等に加え、経営確立までの間の経済支援等新規就農者に対する支援策の拡大を図る”という民主党提言(「食と農林漁業の再生プラン〜農林漁業漁村再生のシナリオ〜」中間報告)に沿った新規予算のはずである。
 が、当初発表されたこの予算の組み立ては、どうみても“フランスにおける若者の就農支援策を参考”にしたようには私には思えなかった。「農林水産予算概算要求の概要」(11・9)が示した「青年新規就農プロジェクト」には、“就農開始”助成として“最長5年間”“年間150万円を給付”する青年新規就農者とは“独立・自営就農”者であり、“独立しない単なる親元就農は含まない”と書かれていたからである。
 “独立しない”ということがどういう状態を意味しているのか明確ではないが、親と同一世帯で生活を共にしている青年農業者は駄目ということだとすると、39才以下の新規就農者の6割(09年の39才以下新規就農者1万5千人のうちの9千人)は対象にはならないことになるが、そんなことでいいのだろうか。“参考”にしたはずの、フランスにおける若者の就農支援策はどういうものか、10年度農業白書の解説をお借りしておこう。
 “青年就農交付金は、昭和48(1973)年に創設され、18〜40才の青年を対象に研修計画の実施、就農発展計画の作成、受給後1年以内の就農、最低5年間の営農等を要件として交付されるものです。交付金の額は平地地域88万〜190万円、条件不利地域113万〜246万円、山岳地域182万〜395万円(いずれも主業農業者に支払われる金額、副業農業者はこの半額)となっており、平成21(2009)年には…交付金受給者は平均年齢が28・3才、計6千人(うち農家子弟7割)となっています。”(10年度「農業白書」230ページ)
 “独立・自営”などと限定はしていないし“副業農業者”も対象になっていることに注目すべきだろう。


◆全国一律でいいか?

 「概算要求」後の検討で、さすがに“単なる親元就農”は駄目とするのは問題だと気付かれたのであろうか、「農林水産予算概算決定の概要」(11・12)では、ここのところは“独立しない親元就農は含まないが、親からの経営継承(親元就農から5年以内)や親の経営から独立した部門経営を行う場合は対象”と改められている。はなから駄目ということよりは一歩前進としていいが、この程度では“親元”で新規就農した若者の多くに、“夢をもって農業”でがんばらせるにはまだまだ不十分としなければならない、と私は思う。
 この新規就農確保事業が対象とする“青年”は“原則45才未満”となっている。40〜45才の“親元”新規就農者なら“5年以内”の“経営継承”も大いにあり得ることであろう。が、20代30代の場合はどうだろうか。まだまだ両親が健在で営農の中心になっている場合が多いだろうから“5年以内”の“経営継承”条件などは家庭内不和の種をまくことになるのではないか。
 “独立・自営就農”には、“・自ら農地の所有権もしくは利用権…を有している。・主要な機械・施設を自ら所有・賃借している。・本人名義の通帳があり、売上や経営の支出などの経営収支を自らの通帳・帳簿で管理している”といったことが“具体的”な“要件”として示されている。“親元就農”者でも事業対象者になり得るとされている条件の“親の経営から独立した部門経営”にも、この“具体的”な“要件”が要求されるのかどうか不明だが、少なくとも農地や主要な機械・施設についてつけられた“要件”は不要とすべきだろう。
 フランスの制度を“参考”にしたはずなのに、日本の交付金は全国一本の仕組みであり、フランスが地域の営農条件を踏まえて差をつけ、山岳地域では平地地域の倍も交付することになっていることなどは、全く考慮されていない。農業就業人口の平均年齢は65・8才(2010年)だが、広島、山口、島根では70才を超えている。条件不利地域に手厚くすることを検討すべきだし、フランスでは“主業農業者”の半額とはいえ“副業農業者”にも交付していることも見習っていいことではなかろうか。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2012.02.16)