シリーズ

時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

一覧に戻る

(62) 6次産業化ファンド法案への懸念

・目的は何か?
・農業振興につながるか?
・JAは対象外なのか?

 自民党は、政府が国会に提案している「株式会社農林漁業成長産業化支援機構法(六次産業化ファンド法)案」について"当面の間、審議に応じない方針を決めた"ということを、12・5・26付日本農業新聞が報じた。同紙によれば"同党がもっとも懸念するのは、ファンドには企業も出資するため、農家色が薄まり、「企業主導」の取り組みになることだ"という。

◆目的は何か?

 自民党は、政府が国会に提案している「株式会社農林漁業成長産業化支援機構法(六次産業化ファンド法)案」について“当面の間、審議に応じない方針を決めた”ということを、12・5・26付日本農業新聞が報じた。同紙によれば“同党がもっとも懸念するのは、ファンドには企業も出資するため、農家色が薄まり、「企業主導」の取り組みになることだ”という。
 「企業主導」になることについて是正を求めることは、私も賛成である。農林業の主体性がどうなるのかさっぱりわからない“六次産業化”という言葉よりも、賀川豊彦が提唱した「立体農業」という言葉のほうがいいのではないか、とかねがね考えていたのだが、「企業主導」の六次産業化を自民党の先生方が心配するような状況下で、改めてその感を深くしているところがある。賀川の文章を紹介しておこう。名著「乳と蜜の流るゝ郷」の終わりの方に産業組合でこそできる村づくりのポイントとして出てくる文章だが、こういう文章である。
 “平面農業に執着して、多角形的立体農業に目ざめず、いたずらに自然の思寵を蹂躙していることが、農村窮乏の最大の原因である”

◆農業振興につながるか?

 昨年12月交付の略称「六次産業化法」の正式題名は「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産業の利用促進に関する法律」である。これも自民党の要求で変えた題名であり、民主党提案の法案は「農林漁業者等による農林漁業の六次産業化の促進に関する法律」だった。法律の題名からばかりだけでなく、民主党案では各条文に使われていた「六次産業化」という言葉はすべて消されている。
 「六次産業化」を定義している民主党案第三条三項は削除されているし、例えば法律の目的を定めている第一条を、民主党案は“この法律は、農山漁村における六次産業化の推進の重要性にかんがみ……”と書いていたが、それを現行法に見るように“この法律は、農林漁業の振興を図る上で農林漁業経営の改善及び国産の農林水産物の消費の拡大が重要であることにかんがみ……”と改められている。自民党修正要求に従ってである。
 “一次産業としての農林漁業と二次産業としての製造業、三次産業としての小売業等の事業との融合を図る取組”(民主党法案が「六次産業化」の定義として書いていた表現)などという主体のはっきりしない表現を極力避け、中心は“農林漁業の振興”だということを明確にしたといっていい。“「企業主導」の取り組みになること”の“懸念”から“審議に応じない”としたのも、六次産業化法審議で見せたこの信念の延長なのであろう。

◆JAは対象外なのか?

 ところで、今年の白書は、六次産業化問題を扱った第三章2節で、六次産業化で重視されている農産物加工についてJAが営んでいる農産加工場は全加工場の3%でしかないが、年間総販売額の37%を占めており、一農産加工場当たり年間販売額では、総販売額で47・4%とJAを超える株式会社を上回って3億円を超えている(株式会社は2億1000万円)ことを明らかにしている。農産加工の面で結構JAは大きな仕事をしているということである。六次産業化支援ということなら、このJAの活動をもっと活発にすることに力が注がれるべきだろう。
 この点に関連して、ファンド法案が、“農林漁業者が…新たな事業分野を開拓する事業活動等に対し資金供給その他の支援を行うことを目的とする株式会社”(第一条)としているのが気に掛かる。
 六次産業化法では、農林漁業者等による事業の多角化及び高度化(第一条)という表現が使われ、「農林漁業者等」とは、農業者、林業者もしくは漁業者又はこれらの者の組織する団体…をいう”(第三条)とされていて、JAの活動が対象になることは明らかにされている。が、ファンド法案は“農林漁業者が…”なのである。農産物加工、或いは直売所等で現に六次産業化に取り組んでいるJAは、ファンド法案では支援対象外にされるのだろうか。問題だといわなければならない。
 民主党が野党時代の09年、第171回通常国会で衆議院に提案して廃案になった「農林漁業及び農山漁村の再生のための改革に関する法律案」―この中で“六次産業化の促進支援”も言われていた―では、「農業協同組合等の改革」と題した最後の第43条で“国は、農業協同組合…が六次産業化の推進に当たり重要な役割を果たすべきものであることにかんがみ…”とJAの役割を評価する条文を置いていた。ファンド法案が、ファンド法と表現を変えて“等”を落としたのは今の民主党はJAは“重要な役割を果たすべきもの”と考えていないということを意味するのだろうか。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2012.06.08)