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視線「日本農業の活性化と食の安全・安心を目指して」

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(5) 農家は自信と誇りをもって キメ細かな技術普及を提案

ニーズそのものを大切に
前進そして飛躍

 先ず、研究開発に対して強いこだわりを持っている会社だと思う。かつて非常に厳しい時代にも研究開発投資を継続し切磋琢磨してきたことも事実だが、今日では結果への信頼をつかんでいる会社だと受け止めている。そして、物事に対していたって真面目に取組む会社だとも認識し、誇りにしたい。企業は社会から受け入れていただくことが最大のポイント。

◆ニーズそのものを大切に

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日本農薬(株)代表取締役社長
神山洋一

 ――転籍されて7年目に入っている。トップとして貴社の魅力は。
 「先ず、研究開発に対して強いこだわりを持っている会社だと思う。かつて非常に厳しい時代にも研究開発投資を継続し切磋琢磨してきたことも事実だが、今日では結果への信頼をつかんでいる会社だと受け止めている。そして、物事に対していたって真面目に取組む会社だとも認識し、誇りにしたい」
 「企業は社会から受け入れていただくことが最大のポイント。企業も生きもの。受け入れられなければ、心臓は止まってしまう。そのためには限りない個性を発揮していくことが大切であり、そして我々が社会に対して何を貢献していくことができるのかを、きちっと見つめ確実に捉えていなければならない」
 「今できることは、1つは研究開発を通じて新しい価値を生み出していくことであり、いま1つは既存の剤も含めて農家に対して言葉ではない技術普及をきちんと展開していくこと、の2点だ。農家ニーズをきちんとつかむと同時に、そのニーズそのものを大切にしていかなければならないと思う。大切にするのは箪笥の引き出しの中ではなく、研究開発や技術普及場面の現場」

◆先を見込んだ信念が

 ――河内長野総合研の現在は。研究開発には何が大切なのか。
 「95年に合成、生物、安全性を統合し河内長野の総合研究所ができた。現在、補助職も含めて約160名体制でのぞんでいる。この統合による最大のメリットは、研究者同士がそれぞれ持っている考え方のキャッチボールができるようになったこと」
 「その中で、農薬に求められる安全性そのものが1つのメッシュとなっている。ここを通らなければ成熟・成就、少なくとも前に進まないと。急性毒性試験はもちろんのこと、慢性毒性試験に入るまで安全性がメッシュされている。研究開発型企業を目指す当社にとって、安全性の確保に加速をつけたという意味からも総合研は力強い牽引者となった」
 「研究開発については、例えば単純な確率論の世界ではないと思っている。合成も評価も、先験的にある程度の見方、考え方を持っているかどうかにある」
 「例えば、この化合物群の先には、生理活性をもつものがあるとか。また、この生理活性は面白いとか。先を見込んだ信念が必要になってくる。ただ、ないものはないでは困り、その連続ではもっと困る。草、虫、菌の分野に対して意味があると信じて進むことが大切」
 「改めて、河内長野の総合研の周囲は、近くにいまだ水田や畑が多く残るなど自然環境に恵まれ、しかもこころの温かい人びとが多い。自由な研究を芽生えさせてくれる同地に、頭が下がる」

◆兜の緒を締めて

 ――総合研から、今日の経営の基軸となる有力剤が創出されている。
 「総合研は、結果として統合・開所から13年が経っているが、この間、ブイゲット、フェニックスといった当社の経営を牽引する殺菌剤、殺虫剤が創出されている。市場投入から数年になるが、現場からの評価も高く、今年のマーケットサイズは2剤で国内外合わせ、敢えて見栄を張らしていただければ50億円余におよぶのではないか」
 「ちょっとスピードが早いかなとも思っているが、数字よりも、本格派の抵抗性誘導型殺菌剤ブイゲット、新規系統の化合物でチョウ目害虫に優れた効果を示すフェニックスといった、それぞれの特長が農家はもとより試験場、普及所、流通業者など関係者の方々に認められたことを誇りにしたい。勝ってはいないが兜の緒を締め、いっそう技術普及に奮励努力したい(笑い)」
 「現在、アクセル(有効成分:メタフルミゾン)、コルト(同:ピリフルキナゾン)といった殺虫剤を登録申請中であり、いち早い農薬登録を期待している。さらに、今後の殺虫、殺菌、除草の3分野における新規開発剤も申請・登録に向けての射程が見えたと思っている。その次は大変だけど」

◆前進そして飛躍

 ――ステップ・フォワード・プランの進捗は。農家、日本農業に何を、どう提案していくのか。
 「ステップ・フォワードには、“前進そして飛躍”の意味が込められている。いわゆる中期3か年経営計画で、09年が最終年度に当たる。昨年は、減収ながらも利益面で伸長を果たした。新たな3か年においても事業競争力の強化、収益力の継続的拡大を目指すことに変わりなく、いっそう邁進したい」
 「国内農業は低い収益性と高齢化の進展に起因する農業従事者の減少が続いている。多くの問題がある中で、この現象がもっとも怖い。景気の後退などにより、にわかに異業種からの農業参入があるが、これが本物かどうかは未知数で農業を学ぶには時間もかかる」
 「当社では、創立80周年を機に“ニチノー奨学金制度”を設け、小さな1歩かもしれないが農家子弟を後方支援することにした。我々にできることは限られている。しかし、これまでのご厚情に報いるためにも、農業や農産物に対して農家が自信と誇りをもてるよう、キメ細かな技術普及を中心に持っている全てを提案していきたい」

 《記者の目》
 読書家でもある神山社長。井伏鱒二、開高健、丸谷才一など話題がつきないが、実は一番の趣味は月に3〜4回は出かける海釣り。開高の影響を受けたのか。「非日常の世界がすき」で、「小さな夢を自分に引き寄せていきたい」と控えめ。
 「研究開発型企業」路線を直走る日本農薬。収益体質強化のための材料はまだまだ揃っているが、社会は「子どもの夢」を大事にし「大人の夢」を追い求めているから、「夢想」ではなく「現実」のものにしなくてはならない。
           神山洋一 日本農薬(株)代表取締役社長

(2009.03.03)