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視線「日本農業の活性化と食の安全・安心を目指して」

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(12) 農業振興、食料増産に貢献

環境保全型農薬への展開も

 「就任して数カ月間、JA全農県本部、経済連を中心に全国の農協組織を訪問した。訪問する先々で『やあ、久しぶり』とあいさつされる。『あの時はお互いに苦労したね』、『お世話になったね』といった会話を交わすたびに、人の縁を感じる。世の中は人と人との出会いを繰り返し、その出会いを大切にし、感謝の気持ちを忘れず、今後は全身全霊、お返しをする番だと認識している」

◆創造する科学を通じて命と自然を守り育てる

クミアイ化学工業(株) 鷲山雄二常務取締役・営業本部長 ――JA全農から(系統)農薬メーカーに転籍しましたが、これまでの活動と今後の抱負をお願いします。
 「就任して数カ月間、JA全農県本部、経済連を中心に全国の農協組織を訪問した。訪問する先々で『やあ、久しぶり』とあいさつされる。『あの時はお互いに苦労したね』、『お世話になったね』といった会話を交わすたびに、人の縁を感じる。世の中は人と人との出会いを繰り返し、その出会いを大切にし、感謝の気持ちを忘れず、今後は全身全霊、お返しをする番だと認識している」
 「JA全農は、あくまでも協同組合。共存同栄の精神が底流にあり、例えば、岩持静麻さんの持論だった“一人の百歩より百人の一歩”であるべき世界」
 「当社の源は1928(昭和3)年の柑橘同業組合の開設にあり、二宮尊徳の報徳の精神を受け継いできた。共同の精神と報徳の精神には、相通じるところもあるように思う。クミ化のDNAは協同組合にあるが、今は株式上場企業でもある。農家・組合員への奉仕の精神は当然受け継がれているが、いっぽうで、企業としての利益を追求し、株主への利益還元、社員の幸福実現も意識しなければならない。その中で、今の、今後の自分に何ができるかを模索している」
 「世界的な食料不足の中で農薬企業の果たす役割は大きく、将来性のある産業の一つである。当社としては、“創造する科学を通じて命と自然を守り育てることをテーマに前進する”との企業理念に基づいて、農業振興、食料増産に貢献していきたい」

◆共有できる夢を提案生きた現場情報を

 ――愛知県北設楽郡の臨済宗妙心寺派福田寺(ふくでんじ)のお生まれだそうですね。読書家であるともお聞きしています。
 「私は次男で、長男として生まれていたら、今頃は坊主になってお経をあげていたかもしれない。真偽のほどは判然としないが、武田信玄公に縁(ゆかり)があるようだ。同公は、今の愛知県野田城攻略(1573・天正元年)の帰途、当寺において療養の後卒去されたという」
 「(坊主の息子という)因縁めいた縁からか、例えば瀬戸内寂聴さんの説法集が好きで、よく読んでいる。読むと元気が出るし気持ちが和む。農の現場に近いところでは、山下惣一さんの著書を読むことが多い。農業関係で最近読んだ本では、『現代の食料・農業問題』(鈴木宣弘著)、『食糧争奪』(柴田明夫著)が参考になった。農薬問題では、『踊る食の安全―農薬から見える日本の食卓』、『メディア・バイアス』など、松永和紀さんの著書は食の安全性を考えるうえで説得力があり、農業関係者、消費者ともに読んでほしい」
 「今、国内の農薬業界は、国内需要の低迷もあって厳しい状況が続いている。この中で、端的に言えば、研究開発力があって自社原体比率の高いところ、売上高海外比率の高いところが農薬企業として生き残っていくことになるのではないか。収益構造を改善するためにも、これらは必須条件と考えている。当社は、今後、有望な自社開発農薬の上市も控えており、中・長期計画で年間売上高500億円の大台に乗せたいと思っている」
 「それには、1にも2にも、現地・現場の事情をよく把握すること、社員だけでなく全ての顧客に共有できる夢を提供し続けることが大事だと思っている。そのためにも、内部においては目標・計画・危機意識を全社員が共有化しなければならない。
 また、“仕方がない”と諦めるのではなく、皆で知恵を出し合いながら“仕方を考えて実行”することが重要になってくる」

◆安全性と利便性を軸にした農薬開発

――今後の研究開発やその方向性をお聞かせください。
 「来年以降、次々と自社開発の有望な薬剤を登録、上市する予定だ。水稲除草剤“ピリミスルファン剤”、園芸用殺虫剤“コルト”(日本農薬との共同開発)、園芸用殺菌剤“ファンタジスタ”、海外向け畑作用除草剤“ピロキサスルホン”などがパイプラインに乗っている」
 「さらに、環境保全型の農薬開発にも注力している。一連の微生物農薬“エコシリーズ”、水稲用の省力・軽量散布製剤“豆つぶ剤”に加えて、平成23農薬年度には“微粒剤F”の3剤を上市すべく、来年度から普及展示試験を展開する。
 これは、水田でのドリフト(飛散)対策に貢献し、当社の環境保全型農薬の脇を固めることになる」

【略歴】
(わしやま・ゆうじ)
昭和29年3月2日生まれ、55歳。愛知県東三河出身。昭和51年早稲田大学法学部卒・全農東京支所肥料農薬部農薬課。平成17年肥料農薬部次長、18年高知県本部副本部長、19年グループ会社統括部長、21年クミアイ化学工業常務取締役・営業本部長

 

記  者  の  目

 「ビジネス展開は、1にも2にも現地・現場主義」という鷲山常務。インタビューでは“膝と膝、顔と顔をつきあわせたつき合い”の重要性を強調した。主に、肥料農薬畑を歩いてきた常務ならではの感覚だろう。同社の「創造する科学を通じて、命と自然を守り育てる」という企業理念は着実に遂行されつつあり、新たな展開が楽しみだ。

           鷲山雄二 クミアイ化学工業(株) 常務取締役・営業本部長

(2009.10.22)