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視線「日本農業の活性化と食の安全・安心を目指して」

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(15)取引先の思いに応え復興に向けて全力

・地震・津波の被害はわずか
・現地社員は雇用保険が受取れるよう会社都合で条件付解雇
・各社の協力を得て製造を再開
・設備を分散しリスクも分散

 アグロ カネショウ(株)は、2008年に、東電福島第一原発から直線で2km弱のところにある大熊東工業団地内の福島工場に製造設備を集中し、効率化とコスト抑制をはかってきた。だが、今回の東日本大震災と福島第一原発の事故に遭遇。工場には立ち入ることもできない事態となった。被害の実態と今後の対応を聞いた。

◆地震・津波の被害はわずか

アグロ カネショウ(株)取締役社長 櫛引博敬氏 ――御社の被害は実際にはどの程度ですか。
 「4月21日に経産省の支援を得て工場に入り書類やパソコン、現金などを持ち出しました。そのときの写真と3月18日のグーグルの写真、そして6月6日に自衛隊が入りましたがその時の写真とを比べると、地震、津波による被害は、1015%程度だと判断しています。動かそうと思えばすぐにでも再開できる状態ですが、原発事故で今はそれがかないません」

 ――工場そのものはそれほど大きな被害を受けているわけではないということですね。
 「海側の壁が破れていますが、主力商品であるバスアミドの原料がそのまま残っていますし、フォークリフトも動きます。包装ラインは地震で倒れていますが、水には濡れていないので津波の被害はほとんどありません」


◆現地社員は雇用保険が受取れるよう会社都合で条件付解雇

 ――社員の人たちはどうしているのでしょうか。
 「本社からの社員5名のほかに現地採用の正社員が19名と、嘱託、パートの5名ですが、現地採用の人たちは北海道から愛知県に至る広い範囲に避難しています。工場再開の目途が立っていないので、嘱託とパートの方については契約を継続せず、現地採用の19名の社員については、工場が再開したときには優先的に雇用することを条件に会社都合による解雇としました」

◆各社の協力を得て製造を再開

 ――工場には原料などがたくさんあったのですか。
 「3月は商品が一番動く時期ですから原材料に加え出来上がった製品も沢山ありました。それが無傷で残っていますが持ち出すことができない状態です」
 「バスアミドについてはドイツからフレコンで運んできて、それを小分けしています。いわば原体=製品ともいえるものですが、幸いにも災害当時東京港に着いたばかりのものがありましたので、複数の工場にご協力いただいて小分けしていただいています。」
 ――なぜ原発に近いところに工場を建てたのですか。
 「原発の事故後、多くの方になぜこんなところに? といわれましたが、25年前に誘致されたときには安全安心といわれ、原発のあるところは地盤も固いし、道路などのインフラも整備されているといわれたわけですが、こうした事態になってみると言葉もありません」

◆設備を分散しリスクも分散

 ――今後についてはどのようにお考えですか。
 「福島工場に集約化して、効率性のアップをはかった矢先に今回の事故です。1カ所に集約しすぎたという反省がありますのでこれからはリスクを分散し、国内も集約した設備ではなく分散した設備を作っていこうと考えています」
 「海外での生産も検討しています。例えば日本は地震大国ですが韓国は地震がありませんので、韓国に設備をつくることも検討しています。社員一同、復興に向けて全力を尽くして頑張っております。新たに今後の見通しがお話出来るようになりましたら、当社ホームページなどで開示させていただきます」

【著者】櫛引博敬
           アグロ カネショウ(株)取締役社長

(2011.08.10)