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JAリーダーの肖像 ―協同の力を信じて

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常に時代の風を敏感にキャッチ 果敢に新事業へチャレンジ(下)

JAいずも(島根県)代表理事組合長 萬代宣雄氏

◆若年層への情報発信拠点づくりにコンビニ経営 萬代宣雄氏写真提供:(社)家の光...

◆若年層への情報発信拠点づくりにコンビニ経営

萬代宣雄氏 写真提供:(社)家の光協会
萬代宣雄氏
写真提供:(社)家の光協会

 JAいずもは、出雲大社で有名な島根県出雲市一円が管内である。人口は約15万で、山陰地方における農業・商工業の中心地だ。
 出雲平野は、県内屈指の穀倉地帯で、稲作のほか、ブドウ、野菜、柿、メロン、ブロッコリー、アスパラガス、イチジク、菌床シイタケ、青ネギ、和牛など、県を代表する特産物が生産されている。
 組合長に就任して5年目を迎える萬代(ばんだい)氏の印象を一言で言えば「スピード感」である。一日の予定をビッシリと書き込んだ手帳を持ち、休む間もなく、携帯電話でテキパキと部下に仕事の指示をしていく。
 JAいずもは、常に時代の風を敏感にキャッチしながら、全国に先駆けて、新しい事業活動に挑戦してきたJAとして知られる。特に、近年は、萬代氏のリーダーシップのもとで、協同組合らしさを追求しながら、スピードを一段とアップしている。
 たとえば、コンビニ経営である。地域密着を経営方針にするファミリーマートへは、JAから提携話をもちかけた。24時間営業の利便性と、若い世代へ情報発信できる拠点をつくる。それには、若年層との絆を深めて、組合員化を促進するねらいがあった。
 1号店の開店に当たっては、JAのやる気と本気を、利用者のみならず、ファミリーマート本部にも示すために、目玉商品の「フライドチキン」の売上げ日本一に挑戦。
 「やる以上は、絶対に破られない記録をつくろう!」
 萬代氏は、会社経営や市議会議員の経験で培った人脈を使い、自ら率先して電話をかけまくった。役職員一丸となって取り組んだ結果は、オープン3日間で、それまでの最高記録の約6倍に当たる5万7049本。すぐに社長が感謝状を持って駆けつけてきた。
 現在は11店舗で営業しているが、将来は15店舗程度に拡大したいという。
 また、今、JAいずもが総力を挙げて取り組んでいるのは、「ラピタ」のファン拡大戦略である。

◆JA管内の在住人口の半数以上がJAカードホルダーに

 「ラピタ」とは、昭和39年に、スーパー時代を先取りし、全国初の農協大型店舗として注目された旧出雲市農協の「出雲生活センター」を前身とする、JAの生活購買事業と生活文化活動の拠点だ。
 それが、今、存亡の危機にある。売り場面積がラピタ本店の5倍以上もある巨大ショッピングセンターが、近くに進出してくるのだ。
 JAでは、これへの対抗策として、生産者自らがアイデアを出して運営方針を確立し、地産地消の直売コーナーの拡大や、食農教育の拠点づくりを積極的にすすめている。
 「組合員とともに、よりJAらしい店舗づくりに変えられるチャンスととらえている。地域に貢献できる店舗展開をめざしたい」
 萬代組合長は、攻めの姿勢を崩さない。
 この機会に、JAの総合ポイントカード(おさいふカード)の加入者を増やして、組合員メリットを享受してもらい、組合員加入を促進する作戦だ。
 昨年度末の組合員数は約5万8000。すでに、出雲市在住の20歳以上の人口の半数以上がJAの組合員になっている。

◆スピード感溢れる実行力で思い切った事業展開を

 さらに、営農面では、担い手支援対策として、平成16年に、いち早く、JAと行政がワンフロアに結集。これは元市議会議長の萬代氏と市長とのトップ会談によって、速やかに決定した。
 JAと行政が半分ずつ拠出し、1億3000万円の積立をした3F事業(21世紀出雲農業フロンティア・ファイティング・ファンド事業)もある。これは、国の政策から漏れた農家のために、JAと行政が補助金を交付し、新たな担い手の創出をはかる事業だ。
 また、経営改革の一環として、組合員が支払う賦課金と販売手数料を引き上げた。
 組合員の負担が増えれば、組合員のJAへの監視の目が強くなり、要望や意見が活発になる。職員はそれに対して真剣に対応しなければならない。そうした緊張関係が、相互の意識改革につながる。幅広い社会経験のある萬代組合長らしい荒療治改革である。
 また、全国各地のJAリーダーたちと立ち上げた「新世紀JA研究会」の代表として、農政やJA改革などについての情報や意見を交換するネットワークを広げている。
 萬代氏の好きな言葉は2つある。
 「おらがおらがのがを捨てて、おかげおかげのげで暮らせ」
 自己中心的な考えを捨てて、謙虚に生きること。JAの役職員はサポート役に徹するということ。
 「夢はでっかく、望みは高く、暮らしは少し控えめに」
 ムダを省く計画を実践しながらも、時には思い切った事業展開が必要。
 そして、スピード感溢れる実行力で進む萬代組合長が、常に念頭に置いているのは、もちろん「組合員が主人公」である。

【著者】(文) 山崎 誠

(2008.03.05)