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JAリーダーの肖像 ―協同の力を信じて

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「協同」のバトンを受け継ぐ 意欲ある若者たちに「心」を伝える

JAうつのみや(栃木県)代表理事組合長 小島俊一氏

◆「安全」は農業の大前提 小島俊一氏写真提供:(社)家の光協会  宇都宮市など2...

◆「安全」は農業の大前提

小島俊一氏
小島俊一氏
写真提供:(社)家の光協会

 宇都宮市など2市1町を事業エリアとし、京浜市場まで1時間半以内の距離にあるJAうつのみや。園芸が盛んで、米、イチゴ、トマト、ナシ、肉牛など60数品目を生産し、販売高が約170億円というJAである。
 戦後、この地に1人の篤農家が登場した。昭和27年にアメリカから農業用ビニールが輸入されるや、いち早くビニールハウス栽培技術を考案。その後、全国野菜園芸技術研究会の初代会長を15年間務めて技術を普及し、100歳で天寿を全うした小島重定翁である。その孫にあたるのが小島俊一(こじま・しゅんいち)組合長。
 昭和25年に農家の長男として生まれた小島氏は、東京農業大学短期大学に進学。学友のほとんどは、全国から集まった農業後継者たちだった。
 卒業と同時に就農。その後、宇都宮市農協の青壮年部長や農協の監事、理事、専務を経て、平成18年に組合長に就任。農業・農協一筋に生きてきた半生である。
 組合長就任以来、営農経済事業を中心に「地域No.1運動」に取り組むJAうつのみやにあって、小島氏は「組合員とJAが一体となり、消費者に顔を向けよう」という提案を次々に打ち出してきた。
 まず、トレサビリティーは当然のこととして、基本的な土壌診断や栽培方法の統一を徹底しよう。それが消費者の満足につながり、産地の信用度を高めることになるからだ。
 また、消費者に向かって「安全な農産物」と表現するのはやめよう。
 「口に入れるものを、わざわざ『安全』と断る妥当性はどこにあるのか。『安全なレストラン』『安全な病院』という看板を出したら、客や患者は寄り付かなくなるだろう。『安全な農産物』は、農業の大前提でなければならない」
 そこで、JAうつのみやの農産物は、「安全・安心」ではなく、「安心と信頼」と表示することにしたのである。
 食品偽造や食品価格の値上げに消費者の関心が集まっているが、これを生産者や産地の思いを目一杯主張できるチャンスと捉えよう。

◆「U―ブランド」の確立めざす

 これまでは、農業経営は苦しいというだけで、生産現場や生産原価について、消費者が理解できるような伝え方をしてこなかったのではないか。
 「米を一俵単位で語るのは、生産者内部での話。茶碗一杯が30円で、農家の手取りはその半分しかない。仮に一杯60円になっても、それで1日のスタートが切れるんですよ、という言い方をすべきだ」
 昔は「組合員対農協」という構図しかなかった。あるいは、産地の論理だけで、国とやりあった。しかし、今やそんな時代ではない。 生産者もJAも消費者としっかり向き合って努力しなければ、農業所得の向上には結びつかない。
 国内世論の9割が国内産農産物を支持している今こそ、消費者や世論を味方にしなくてはならないのだ。
 そこで、JAうつのみやが特に重視しているのは、地産地消による消費者への浸透である。年々、地元市場への依存度は高まり、園芸作物の売り上げの4割を占めている。農産物直売所もJA直営の3店舗を含めて34か所ある。
 現在、宇都宮市、商工会議所、市場と連携して、「U―ブランド」という宇都宮の農産物ブランド化戦略にも取り組んでいる。
 これは、宇都宮の頭文字の「U」で、「ウルトラ(超)」「うまい」「うれしい」を表し、地元農産物を使った料理の提案や加工品の開発もすすめていこうというもの。

◆技術は地域で共有する

 小島氏は、農業の実践家として人望の厚かった祖父の背中を見て育った。
 「祖父から学んだのは、自分が考えた技術を独り占めしないで、みんなで共有しようする姿勢だった。自分の技術によって、農家の経営や暮らしを少しでも向上させたいというのが、祖父の口癖だった」
 それは、祖父が小島氏に教えてくれた「協同組合運動の原点」だった。
研究熱心な農業者であるとともに、農協人として一生懸命生きてきた小島氏は、JA運営の執行者として、「協同心」を次世代に伝えていかねばと決意している。
 いま、JAを離れ、気のあった仲間で複合経営などを始めようとする若い農業者がいる。すでにそれは、協同活動の始まりである。
ゼロから始めるよりは、先人が努力して、100年かけて築き上げたJAという組織を改革したほうが近道になるのではないか。そう考える小島組合長は、若い世代に訴える。
 「一人ひとりの力は弱く、限界がある。自分たちが暮らす地域社会を維持し、農業を存続していくためには、協同の理念がその土台になると思う。よし、俺たちがバトンを受け継ごうという意欲のある若い人たちが、一人でも多くJAに結集してほしい」

【著者】(文) 山崎 誠

(2008.06.13)