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米流通最前線

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流通最前線 米流通の今を探る

過剰下での販売競争が 価格低迷を招く

多様な販売選択肢に生産者に動揺も

荒田農産物流通システム研究所代表 荒田盈一

 コメ価格センターの入札取引システムの変更など、多様な販売形態が導入された18年産米だが、その流通は不透明になり関係者にとって実態は暗闇のなかだという。一方、米流通ルートの短縮化、複線化とあわせ、低価格志向が続くマーケットでは多様な価格構成が生じており生産者の動揺もみられる。米の価格と需給の安定のため生産調整が必要だが、それは19年産から農業者・農業団体が主体的に取り組む制度に変わる。最近の米流通の実態から、今後の課題を探った。


需給担当者が把握できない販売数量の実態

 農水省の需給担当者が「販売の状況が全く見えなくなった」と本音を隠さない。それは生産数量と検査数量が明らかでも「集荷数量」を把握する手段を持ち合わせていないため、現実的な「販売数量」の把握が不可能となっていることに起因している。生産者から単位農協(以下、単協)に出荷される数量の不透明さは今に始まったことではないが、従来、国営検査下での検査数量は集荷(出荷)数量であり、かつ販売(委託)数量として整合性が図られていた。
 しかし、見えない数量を「農家消費量等」で一括処理していたことから形式的な整合性であった側面も否定できない。委託販売の出荷先は生産者が単協、単協が経済連、経済連が全農であり、それぞれの「独自販売」によって、異なる(出荷)数量が存在していた。現在は経済連が全農に統合され、集荷数量は「単協と全農」段階に存在する。流通ルートの短縮で、販売状況が明らかにされると期待されたが裏切られた。
 一方、生産調整の拡大と米価低迷に苦しむ「生産者や単協」は流通制度の弾力化を活用し、収益の確保を目指して独自販売に向かった。そして、新たな米改革に謳われた「売れる米の生産」が拍車を掛けた。つまり、行政が把握する「販売の実態」は「出荷数量」が不明である以上、その数量関係で信頼性に欠ける。そして販売状況が「見えなくなった」は出荷数量に「根拠がない」を意味する。
 農水省は平成17年3月の「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針(以下、基本指針)」において生産者が単協に出荷する数量の「生産者の現在高等調査」と単協が引き受ける数量の「米穀の出荷又は販売の事業を行う者等の流通状況調査」を唐突に公表した。従来、それぞれの数量は需給操作上、特段精査することなく扱われてきた。生産者が単協に出荷し、単協が全農に出荷する流通ルートの中で、経済連(単協)が全農に出荷した数量を「販売計画数量」としてきた。
 また、単協が生産者から販売委託された数量と全農に販売委託した出荷数量との差が「単協の直接販売数量」とされてきた。しかし、生産者が単協に出荷した数量と単協が引き受けた数量が異なることも明らかにされた。そのため「単協が独自販売すると見込まれる数量」は2個になり、「〜」で表現されている。「〜」が続く限り「見えなくなった」が継続する。
 全体状況が把握されている17年産の生産量は906万t、平成18年11月30日の農水省が決定した「基本指針」で生産者からの出荷数量は472万t(単位農協が受けた数量で算定)〜535万t(生産者が出荷した数量で算定)とされ、単位農協の独自販売数量を71万t〜145万tと見込んでいる(表)。生産者と単協における販売数量の正確な把握は従前と同様に、現在も不透明なのである。

表


◆販売計画の「期別」移行と入札取引の「形態」変更

 基本指針によれば、平成18年産米の出荷動向は生産者から単協への「出荷数量」が10月末で416万t、前年の432万tを若干下回り、単協から全国出荷団体への「販売委託数量」も276万tで前年の298万tを下回る水準で推移している。生産者の出荷数量は前年同期比96%で作況に相応した水準を保持していると言えるが販売委託数量は同92%に低下しており、単協における独自販売の方向性を物語っている。一方、生産者の直売数量は予想された程に増加することなく92万tで昨年同期の93万tと同水準で推移しており、18年産の生産者の出荷数量と生産者の直売数量は概ね昨年並みで推移している。
 これに対して、単協が独自で販売すると見込まれる数量は今後の集荷・出荷と関係するため単純ではないが、10月末で既に140万t(416万tマイナス276万t)と昨年の上限数量に達している。しかし、「生産者から単位農協への出荷数量」「生産者から単位農協以外への出荷数量」「生産者の有償譲渡数量の推移」は月別の取り扱い数量が公表されているため、動向を把握することは可能だが「単協の独自販売数量」は月別の推移が公表されず、あくまでも計算上の数値であって、販売業者は流通実態を知る術もなく、暗闇の中にある。
 加えて、販売業者にとって流通実態を不透明にするのは18年産米から新たに導入された売買取引の変更も指摘されている。民間流通米の販売は「年間販売計画」が廃止され、「販売計画は期別」に変わった。この中で、7〜10月期の販売実績が全国出荷団体(全農・全集連)ベースで昨年同期より20万t増加し、100万tを超えた。
 販売業者にとって販売実績の増加は仕入数量の増加であるが、販売不振によって売却、消化の遅れた17年産米の引き取りを迫られたことや、期別販売の導入で長期的な売却数量に不安感が発生したため、販売状況の低迷に係わらず、一定数量の確保に迫られたことが遠因とされている。
 しかし、販売業者は高価格が形成される入札市場からの取引きを避け、全農との相対取引や単協との直接取引に向かい、その結果コメ価格センターの低調な入札取引に連動した。
 入札取引制度の改革も米関係者に暗い影を落としている。「コメ価格センターの取引」は18年産米から取引市場を活性化させる目的で入札取引システムを変更した。従来の基本取引に当たる「通年取引」、売買当事者が希望価格や引取り期限等の取引条件を付けて注文する「定期注文取引」、上場義務が外れ売り手の判断で注文する「期別取引」の3形態が導入された。「年間の上場義務が外された、売り手に大幅な自由裁量の認められた『期別取引』」が主流になると予想されていた。
 生産者・販売業者を問わず米関係者の本音は「価格のアップ」だが、低価格志向を継続する実需者の価格レベルに対して、出荷サイドで提示する「落札最低価格の下限価格」が高すぎる等、入札取引の条件が相対取引や直接取引に比べ劣勢であるため「期別取引」も活況を示しているわけではない。既に17回の入札取引が開催され、落札率の最高が24%、最低が3%と極めて低調で推移しており、「米価格センターの入札取引」の正当性と必要性が問われる事態に陥っている。

需給調整と「売れるコメづくり」に課題

生産者が目にし体験する多様な価格構成

 さて、コメ流通において、系統ルートの取り扱いが減少し、生産者や単協の直売が増加する流れは止められないし、止まらない。全農は自主流通法人の廃止に伴い「新生全農米穀事業改革」で米穀の一取扱業者と宣言し、一取扱事業者として数量と販売先の確保に向けてスタートを切った。最大の目玉は3000円とされる60kg当たりの流通経費を2000円に削減することである。
 例えば、生産者に対する単協の仮渡金が1万2000円、これに対して生産者が目にし、体験する価格は多様だ。産地の集荷業者(ブローカー)は1万3000円を生産者に提示し、マージンを500円以下に設定して1万3500円以下で販売する。系統の最終清算金額が1万3000円に止まると判断すれば、即金で清算のブローカーに手放すことになる。仮渡金1万2000円水準銘柄の入札取引における落札価格は概ね1万5000円前後を付ける。これに卸売業者の経費が加わり、小売業者の仕入価格は1万6000円前後だ。しかし、生産者直接やブローカーからの仕入ルートを持つ販売業者は1万3500円以下で手に入り、入札取引の価格は競争にならない。ここに最終清算金額のアップと併行して、流通経費を3000円から2000円に削減を求められる理由がある。
 しかし、これだけでは終わらない。消費者に直接販売すれば生産者は2万2000円〜2万3000円の確保が可能だ。低農薬等の付加価値を付ければ4万円も登場している。関係者や行政が「売るほうも売るほうだが、買うほうも買うほうだ」と懸念するが販売価格の多様な選択肢は生産者を動揺させる。
 いずれにしても、生産者の販売は自由だが、先行した生産者の直接販売は成功例が多いものの直売参加者が拡大するに連れて販売状況が厳しくなっている。今までの取引先から拒否され、「他の生産地や生産者の販売活動がこんなに活発になっているとは思わなかった」とのケースも出現している。それでも生産者の販売活動は熱を帯び、小売業者の全国団体が主催した交流会には約80の生産者や生産法人が参加した。主催者が「参加者が全く変わった。県本部(経済連)の未参加は理解ができるにしても、単協の参加も消え、参加者が系統組織から個人ベースの生産者で埋まった」という。
 需給環境は生産調整を必要としているように、絶対的な過剰だ。卸売業者や小売業者が減少し、200万の米作販売農家が「売れる(た)米」づくりを目指して「闇雲」に販売に参加すれば買い叩かれて当然であり、価格は下がって必然である。このような状況を踏まえ、19年度から政策転換が図られ、(1)品目横断的経営安定(2)米政策改革推進(3)農地・水・環境保全向上が謳われたが(1)は意欲と能力のない生産者の退場を求め(2)は生産調整を農業者・農業者団体に押し付けた。それは農業・食糧政策の国家責任の放棄を意味しており、生産者・生産者団体に責任が重くのしかかる。

【著者】荒田農産物流通システム研究所代表 荒田盈一

(2007.02.09)