シリーズ

食肉流通フロンティア ―全国食肉学校OBの現在

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第4回 こだわりの肉で美味しさ求める顧客をシッカリつかむ

地域が一体となって「南信州牛」の地産地消を推進
地域に密着したユニークなアイディアも

中央アルプスと南アルプスに挟まれ、その中央を天竜川が流れる伊那谷の中心地が飯田市だ。リンゴ、モモ、ナシなどの果物の産地として有名だが、馬肉をはじめこの地方独特の「肉の文化」があると市瀬宏さん。
 その一つに、昭和の初め頃から本格的にはじめられた和牛「南信州牛」の生産がある。「南信州牛」は、霜降り肉の美しさ、まろやかさ、豊かな風味そして白く粘りのある脂肪のよさが特徴で、古くから関西方面で高い評価を得ている。

◆地域が一体となって「南信州牛」の地産地消を推進

市瀬宏 専務
市瀬宏 専務

 中央アルプスと南アルプスに挟まれ、その中央を天竜川が流れる伊那谷の中心地が飯田市だ。リンゴ、モモ、ナシなどの果物の産地として有名だが、馬肉をはじめこの地方独特の「肉の文化」があると市瀬宏さん。
 その一つに、昭和の初め頃から本格的にはじめられた和牛「南信州牛」の生産がある。「南信州牛」は、霜降り肉の美しさ、まろやかさ、豊かな風味そして白く粘りのある脂肪のよさが特徴で、古くから関西方面で高い評価を得ている。
 いま飯田市を中心とするこの地域では、行政・生産者・小売店など流通業者そして焼肉店や料理屋などの飲食業が一体となって、この南信州牛を地元でも食べようという運動を展開している。肉の地産地消だ。その一翼を「肉のいちのせ」も担っている。

◆いまでも仲が良い同期生

市瀬さん

 肉屋の次男に生まれた市瀬さんが全国食肉学校に入ったのは、ちょうどBSEが発生して食肉業界が大きく揺れているときだった。そのためか同期生は12名と少ない。だが逆に「風呂も全員で入れた」というように「密な関係ができた」。同じ班(4人)だった仲間とはいまも連絡をとりあっていて、先日はそのうちの一人の結婚式にも招待された。
 家が肉屋だから肉そのものには慣れていたがどの部位かまでは知らなかった。だが学校では枝肉から学ぶので「いままで触っていた肉の部位が分かり、どういう味なのかが分かった」ことや原価管理など座学で学んだことも含めて、全国食肉学校へ行ってよかったと思っているし、BSEで厳しいなかで行かせてくれた両親に感謝している。

◆熱々(あつあつ)を持って帰ってもらう惣菜コーナー

お店

 「肉のいちのせ」の店内を見ると、南信州牛をはじめとする牛肉、豚肉、鶏肉、馬刺そして北海道とともに飯田が元祖だというマトンの肉類に加えて、惣菜のコーナーがある。例えばコロッケなど揚げ物を見るとまだ揚げていない。なぜかと聞くと、注文を受けてから揚げ「熱々を持って帰ってもらう」のだという。揚げている間に近所に買い物に行くお客が多いという。
 近所に24時間営業の全国チェーン食品スーパーがある。競合しないのか心配になる。「いちのせ」は基本的にA4以上で品揃えをしている

市瀬さん

が、スーパーは価格の安さで品揃えしており、「味の幅が大きい」ことと生産農家の訪問、枝肉を自分で見て品質を統一する、いつでも食べ頃(熟成)の肉をおいているなどの「こだわり」で棲み分けをしている。野菜などはスーパーで買い、肉は「いちのせ」でというこだわりの客層をシッカリつかまえているということだ。
 店頭での販売だけではなく飲食店などへも注文を受けて配達もしている。市瀬さんのほかに、ご両親、お兄さん、いまは産休だというお姉さん、それにパート、アルバイトを加えた8人の体制だ。店以外での商売がかなりあるようだ。

◆地域に密着したユニークなアイディアも

市瀬さん

 その一つに、大変ユニークなものがある。鉄板とコンロの貸し出しだ。6人が囲める特注の市販のものより厚い3ミリ厚の鉄板とコンロのセットが13あり、天竜川の河原や企業の駐車場で鉄板焼きパーティーが行われ、多いときには1.5回転つまり100人くらいの利用がある。1人300g肉を食べれば30kgの売上げになる。りんごの観光農園でバスツアーの客が利用することもあるという。「こんなことは都会では考えられないでしょう」と市瀬さんは笑う。地域の実状に合わせたアイディアの勝利だといえる。
 店の外、入り口の脇に棚があって野菜が置かれている。近所の農家が何でも1個100円で販売している無人販売用に店先を提供しているのだという。いまはあまりモノがないが、6〜8月の収穫期だと山のように積まれ、それを目当てに来店する人も多く、店の集客にも貢献している。せっかく地元の野菜が並ぶのだから「もっと有効に活用する」ことを考えたいとも思っている。

◆直営の肉料理店経営が夢

 今後について市瀬さんは大きな夢をもっている。全国食肉学校のときの研修先がステーキハウスも経営していて、そこで食べたステーキの味が忘れられないのだという。だから直営で肉を食べさせる店を経営したいのだ。肉を食べさせる店が面白いのは「生肉をお客が自分で加熱して好みに合わせて食べる」ことだ。焼肉もすき焼きもしゃぶしゃぶもそうだし、ジンギスカンもそうだ。そこに何か工夫をしてやってみたいと考えている。
 店は1頭買いをしているので、店と連携することで無駄なく肉をさばくこともできるだろう。また、中央と南アルプスに挟まれた地域なので昔から「山肉」がある。山肉とは、猪や鹿、熊などの肉だ。こうした肉も美味しく食べられる工夫をすることで、この地域ならではの肉料理店になる可能性もある。
 店でお客さんと話しながら商売するのは楽しいという。コミュニケーションが取れるだけではなく、何かヒントをもらうことも多いからだ。そうして得たことを活かして、5年後、10年後に南信州で市瀬さんが何をしているのかを見るのが楽しみだと感じながら帰路についた。

【著者】市瀬 宏 (38期生)
           (有)いちのせ専務

(2007.12.25)