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食肉流通フロンティア ―全国食肉学校OBの現在

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第19回 デパート「物産展」で黒豚「からいもどん」を直接販売する

 南九州霧島国立公園の麓という絶好の環境で肥育された実家の黒豚肉を、全国のデパートで催される物産展で直接販売する全国食肉学校OBの桑水流潤子さんに取材した。

◇「もともとは料理人になる」のが夢だった

桑水流(くわずる)潤子さん 「どうぞ、黒豚の味噌漬けですよ。美味しいですよ」と笑顔で楊枝にさした試食品を買い物客に次々と差し出す。弾けるような笑顔に誘われたお客さんが試食品を口に運ぶとすかさず「美味しいでしょう」と声をかける。興味を示したお客さんに宮崎の霧島高原の麓の特別な環境で育てられた黒豚「からいもどん」の説明を始める。
 「からいもどん」は桑水流畜産の商標登録で、サツマイモを食べて育った黒豚(バークシャー種)のことだ。
 そうこうしていると、前回の物産展での購入客が訪れ、次々と商品を買い込んでいく。リピーターで多い人は1回に10万円以上買っていくお客さんもいるという。
 ここは東京、JR線駅前のデパートの物産展の一角。桑水流畜産のブースだ。こうした物産展や同社のホームページで限定販売しているのが、桑水流畜産の黒豚肉「からいもどん」だ。弾ける笑顔で販売しているのが、桑水流潤子さんだ。
 潤子さんは「もともとは料理人になりたかった」。尊敬する父親に相談したところ「今の料理人は、パーツパーツの肉は扱えるが、骨を抜くことができない。食肉の全体を解っている人は少ない。どうせやるなら、畜種と部位によって、肉質が違う、味が違う、捌き方も違うことを知ってから料理の世界に入った方が良い」とアドバイスされた。
 実家は養豚農家だ。「小さいころから豚を見て育ち、豚の世話を手伝ってきた。将来は自分の家の豚肉を使って加工したり、料理をしたりと夢をふくらませ、全国で唯一の公的な食肉の学校で勉強しよう」と考えたという。高校を卒業するとすぐに全国食肉学校に入学する。

(写真)(有)桑水流畜産・桑水流潤子さん

 

◇「販売が好き」家に帰るのは年に3回だけ

全国のデパートで販売。家に帰るのは年に3回だ 全国食肉学校では平成18年に女性専用の寮室が整備されて、桑水流さんは女性寮生の第1号となる。
 卒業後は7カ月ほどウィンナーなどを加工する会社に勤めていたが、一所懸命に黒豚を肥育生産する父親・浩蔵さんの仕事を手伝うために実家の(有)桑水流畜産に入社する。
 念願の料理人になる夢を捨てたわけではないが「良い原料があって良い商品を作っても、売る力がなければいけない。“こだわって作っています”だけではだめだ」と思っている。今は百貨店で直接販売を通して、桑水流(くわずる)の黒豚「からいもどん」ブランドを浸透させていきたい」と考えている。
 家(宮崎県小林市)に帰るのは「7月と10月と元旦の年に3回」だけ。1年のほとんどをデパートで催される産地「物産展」に出店する桑水流畜産の販売員として全国を駆け巡っている。
弾ける笑顔で接客 潤子さんは3人姉妹の末っ子。上の2人のお姉さんもそれぞれ別の仕事をしていた。「自分の家の仕事が魅力的だ」と実家に戻り、物産展売り場で活躍している。ブランド確立のため父親の浩蔵さんも販売に出ていたが、今は3姉妹と社員に任せ、商品開発に力を入れている。

 

 

(写真)上:全国のデパートで販売。家に帰るのは年に3回だ
     下:弾ける笑顔で接客

 

◇バームクーヘンで良質な脂身をつくる

カライモで肥育している黒豚 「人と接するのが好きだし、販売の仕事は楽しい」と言う潤子さん。販売中の潤子さんのパワーには圧倒される。そのパワーを引き出しているのは「人に接することが好き」ということだけではない。
 宮崎県小林市の桑水流畜産の農場は、霧島国立公園内の生駒高原の麓にある。名水百選に選ばれている霧島連山の湧き水をくみ上げた美味しい水とサツマイモ(からいも)やお菓子のバームクーヘンなど厳選された飼料で父親の浩蔵さんが育てた黒豚「からいもどん」に絶対の信頼と誇りをもっているからだ。
 飼料としてバームクーヘンを与えると、良質な脂身がつくられることを浩蔵さんが発見してから、今では月に40トンほどのバームクーヘンを鹿児島の洋菓子店から取り寄せている。もちろん人間が食べるものと同じもので、潤子さんも「小さいときにおやつに食べた」という。豚を肥育する環境や飼料にこだわるだけではなく、一般的に豚は生後6ヵ月程で出荷されるが、桑水流畜産では9〜10カ月の生体で115〜120kgになるまでじっくり育ててから出荷している。
 もともとは、潤子さんのお祖父さんが200頭規模で養豚業を営んでいたが、浩蔵さんの代になって、黒豚の生産に切り替え、その後、黒豚の生産・加工・販売を行う一貫経営に変える。当初は15頭だった母豚がいまは450頭に増え、年間5000頭の黒豚を肥育する規模になった。
 桑水流(くわずる)という苗字が「珍しいので、すぐ覚えてもらえる」ことや3姉妹をはじめ「家族や社員の人たちが力を合わせている」ので、「からいもどん」の認知度は高くなっているが、「まだまだ頑張らなくては」と潤子さんは全国のデパートを飛び回っている。

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(写真)上:カライモで肥育している黒豚
       下:右・黒豚みそ漬ギフト 左・その調理写真

 

◇学校での1日1日を大事に

 最後に全国食肉学校の現在と未来の後輩へのメッセージをお願いすると「食肉の事だけを集中して勉強する機会は少ないと思います。はっきりした目標を持ち勉強した方が、社会に出てからより良く役に立つと思います。頑張って下さい!!!」という答えが返ってきた。そして再び元気よく売り場に飛び出していった。

 

 

【著者】桑水流潤子(総合養成科42期平成18年)
           (有)桑水流畜産

(2009.09.18)