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「里山の真実」

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第10回 "新しい"森林の原理

私たちに“身近な”森林をどうするか(2)
太田猛彦東京農大教授

  温暖化問題など地球環境問題を考える場合、現在の地球環境の成り立ちまで遡って...

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  温暖化問題など地球環境問題を考える場合、現在の地球環境の成り立ちまで遡って考察しなければ解が見つからないのは当然である。森林は地球環境に影響をおよぼすものであるから、森林の問題を考える場合もそこまで立ち返って考察する必要がある。
 前回、過去の森林が現在の地球環境の形成にかかわってきたと書いた。実は、森林はその4億年の歴史のなかで、人類文明の発祥までは次第に陸域に勢力を拡大し、生物多様性を増加させ(その結果として人類まで生み出し)、一方で大気中の二酸化炭素を炭素の形で地中に閉じ込めることにより減少させた。こうして地球表面の環境は進化してきたのである。
 しかるに人類文明がスタートした後は、特に産業革命以降の近代化の過程で人類は森林を減少させ、生物多様性を減らし、地下に埋めた炭素を化石燃料として再び地上に戻している。つまり、近代以降の人類文明は、生物と無生物が繰り広げた約40億年にわたる地球環境の共進化、約4億年にわたる陸域環境の共進化の方向に「逆行する行為」を行っていることになる。特に化石燃料の消費は、大気中から二酸化炭素を取り除き地下に埋めることによって作りあげた地球表面の現環境(そこで地球上の全現存生物が暮らしている)を破壊することに他ならない。それが地球温暖化である。(すなわち、森林を考察することによって現代文明の本質的な負の側面があぶりだされた!)
 化石燃料は光合成によって固定された過去の太陽エネルギーである。それは掘り出すことによっていくらでも使える非常に便利な資源である。それによって人類は豊かな生活を手にすることができた。しかし、上述したように、その行為は地球環境の進化の方向に逆行している。したがって、それを食い止めるためには、現在の太陽が作り出しているエネルギーである自然エネルギーやバイオマスエネルギーを使う必要がある。カーボンニュートラルであるため温暖化に関与せず、地表の単位面積あたりの光合成効率に優れた森林の利用は持続可能な社会でより有用な資源となり得る所以である。
 したがって木材は、消費者にお願いして使っていただくものではなく、消費者は人類が持続可能であるために地下資源の代替物としてそれを積極的に使う義務があると言えるのである。しかもウッドマイル(フードマイルの林業版)の小さい地元の材を使う義務があるとも言える。
 こうして持続可能な社会を実現させるべき21世紀には、森林の(物質)利用原理にカーボンニュートラルな木材を利用することの有効性を付け加える必要がある。さらに、森林の環境保全機能を十分に発揮させなければ持続可能な社会は実現し得ないし、人々の大部分が都市に住む社会では、人の心を癒す森林の機能もより有効になるだろう。したがって、森林の原理の各項に下図のように新しい文言を付け加えねばならない。これらは“新しい”森林の原理と言えるだろう。
 このように考えると、私たちに身近な里山の森林にもっと木材生産の機能を持たせる必要があることが分かる。一般に森林には守る森と使う森がある。里山の森は使われてきた森である。使われなくなって「荒れている」のである。ともかく、森は使わなければならない。使わなければ森の中に人は入っていかない。入っていかなければ荒れてしまう。
 その使い方として、森林を伐採して木材として利用することが持続可能な社会、特に低炭素社会の実現のために不可欠であると主張したいのである。竹林の繁茂による里山景観の破壊も竹材の利用なくしてその復活はありえないとある優秀な研究者仲間が訴えている。

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【著者】太田猛彦東京農大教授

(2008.12.11)