シリーズ

「里山の真実」

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最終回 「使う森」と「護る森」を区別して里山を現代に生かそう

太田猛彦東京農大教授

 これから里山をどうするかの話に戻そう。まず、人の営みと自然が交錯し、融和する...

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 これから里山をどうするかの話に戻そう。まず、人の営みと自然が交錯し、融和することによってカタクリやニリンソウなどの春植物が棲息し続け、日本人の精神や文化に影響を及ぼしてきたかつての里山を“動態保存”することが第一である。「朝日新聞」が先ごろ発表した「にほんの里100選」で「棚田」の応募が多かったのも、里山と一体となった棚田での営みと景観が日本人の心に訴えるものを持っているからだろう。選ばれた100選のうち、里の景観を構成する要素として里山を含むものは40、そのうち里山が代表的な要素となっているものは11に上っている。
 すでに人びとの営みが里山から離れている中での動態保存は並大抵ではないが、一部にでも有機農業や薪ストーブの導入を組み込むなど、できるだけ森の産物の利用を前提とした保存を心がけてほしい。ボランティアを含めた多くの人びとの協力が必要だろう。里地での体験と併せてエコツーリズムに組み込むのも一方法であろう。
 しかし、このような里山の保全は国土の4割を占めるといわれる里山のごくごく一部でしかない。大部分の里山はどうしたらいいのだろうか。それを考えるには、里山が使う森や草地、人の入る山であったことを思い出す必要がある。薪炭林や農用林、採草地として使わなければ何に使うのか。それには現代人、すなわち都市に住む人びとがどんな森を必要としているかを考えればよい。
 まず考えられるのは、環境教育の場、子どもたちの自然体験の場としての利用である。学習や課外活動の場として地域の学校林、都会の子どもたちのための学校林を全国的に整備してはどうだろうか。環境教育は里地や水辺と一体で実施できれば理想的である。
 保健・休養の場としての森の拡充も必要である。最近は「森林浴」よりは「森林セラピー」として知られるようになったが、都市社会の発達により“こころ豊かな”人間性の形成にとって人工空間からの解放の場の必要性はますます増大している。レクリエーションの場あるいは体を鍛える場としての森とともに、“利用しやすい”森林公園・保健保安林の類を地域と一体で整備する必要がある。筆者はかつて「森のユニバーサルデザイン」を共著したことがあるが、利用されない森林公園では意味がない。
 そして使える森の雄はなんと言っても木材生産の森である。低炭素社会でのカーボンニュートラルな森林バイオマス利用の必要性はすでに述べた。特に、ウッドマイレッジの小さい国産材をもっと利用すべきである。ハウスメーカーにたくさん使ってもらうための林業側の努力も必要だけれど、消費者も在来工法や木材の地産地消への理解をもっと深めてほしい。その場合、標高の低い里山では木の成長も早い。道路にも近く木材の搬出も容易である。国土保全上も急斜面が多い奥山の森林の伐採よりも安全である。さらに身近な森での森林作業は労働体験の場としても利用できる。里山は使う森、すなわち、木を伐る森であったはずである。里山での適切に管理された人工林づくりを正当に評価してほしい。そのチェックには筆者がお手伝いしているFSC森林管理認証制度の適用が有効である。
 ところで、第6回〜第8回で述べたように、「里山が荒廃している」とは「森林化している」ことである。それは第2回や前回の図が示している。しかし、多くの人々は木が増えているという実態を知らない。
 一方で第1回に示したように、江戸時代以降、里山の森は常に劣化していたので、300年以上にわたり「森を大切にしよう」「木を植えよう」と言い続けられてきたから、日本人のDNAには「木は伐ってはいけない/木は植えるもの」という情報が刷り込まれているようである。そのため、今も森づくりとは木を植えることと信じこみ、木を伐ることの重要性が認識されていない。
 「森を大切に」と「木を伐ること」は矛盾しない。木を植えようにも伐らなければ植え替えられないのが里山の現状である。昔のような乱伐でなければ、木は伐って使ってかまわないのである。
 そこで本シリーズの最後に「実態に合わない伐採アレルギーをなくそう」と訴えたい。花粉症の抜本的な対策も木を伐ることから始めるしかない。竹林ももっと伐って使おう。一方で貴重な生物多様性を保全している(おもに奥山の)森は大切に保全する必要がある。具体的には森林を科学的にゾーニングして「使う森」と「護る森」を区別することであり、どんな森として使うかも関係者全てが参加して決めることである。それが新しい森林・林業基本法の考え方となっていることも付け加えたい。

【著者】太田猛彦東京農大教授

(2009.03.02)